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第96話 アニカの覚悟

 時子のお陰で魔獣(オオカミ)の……いや魔獣の毒抜きができたらしい。

 それを確実に調べる方法が、今手元に無い。

 実際に食べてみれば分かる、とエイルは言う。

 確かに大昔は、そうやっていたのだろう。

 しかしそんな危険を冒させるわけにはいかない。

 とはいえ、せっかく時子が解毒を成功させた。

 これを無駄にもできない。

 やはり保安部とまた揉めなければならないのか。

 確認できてもできなくても、どっちにしても持ち帰ったら揉める未来しか見えないけど。


「だったら、ボクが食べるよ」

「アニカ?!」


 アニカだってエイルと同じだ。

 毒素が残っていれば、まずいことに違いは無い。


「ボクなら死んでも問題ないでしょ」

「そんなわけあるかっ。どんな理屈だよ!」

「ほら、ボクは家を追い出されてるし」


 確かそれは誤解だったはずだ。

 実際には家を追い出されていない。


鬱陶(うっとう)しい兄さんと離れられるし」


 その為に人生捨てるのは、勿体なくないか?

 イフリータに頼んで、フレッドの方を捨てた方が早いと思う。


「もしかしたら精霊とずっと一緒にいられるかも知れないし」


 前世がそういう世界だったみたいだからな。

 でも、今だって似たようなもんだろ。

 呼びもしないのに、精霊がホイホイ出てきて(じゃ)れ付いているんだから。


「何より悲しんでくれる人より、喜ぶ人の方が多いから」

「そんなこと無いっ。少なくとも、ここに喜ぶようなやつは居ないっ」

「あの御者が居るじゃないか」

「それでも、悲しむやつの方が多いっ」

「ふふ、ありがとう。それでも、この中ではボクが適任なのは変わらないよ」


 ヤバい、否定できない自分がいる。

 エイルはトレイシーさんを悲しませたくないから、ダメだ。

 レイモンドさんは、そもそも試そうともしないだろう。

 俺と時子は、論外だ。

 アニカはというと、別にフレッドを悲しませたくないとか思わない。

 せいぜい……


「万が一があったら、俺がイフリータに殺されるだろっ」


 アニカが死ぬなら、俺も死んでやる……とは言えない。

 俺が死んだら、タイムも巻き添えになってしまう。

 だから死ぬ訳にも、殺されてやる訳にもいかない。


「あはは、それはボクからよく言っておくよ。そうだ、モナカくん、ちょっと目を(つぶ)ってくれないか?」

「目を?」


 よく分からないが、言われたとおり、目を(つぶ)る。

 すると、いきなり[バックステップ]が発動した。

 俺はなにもしていない。

 つまり、タイムがアプリを使用したということだ。


「あ、ちゃんと目を(つぶ)ってなきゃダメじゃないか」

「誤解だ。俺はちゃんと(つぶ)っているぞ」


 今度は[サイドステップ]が発動する。

 その後も[バックステップ]と[サイドステップ]が何度となく発動する。


『タイム、なにをしているんだよ』

『アニカさんが、マスターに抱きつこうとしてるから』

『はあ?!』


 目を開けると、息を切らせながらも必死に抱きつこうとしているアニカが、目に飛び込んできた。


「なにをやっているんだよ」

「だから、目を、はぁ……(つぶ)っててって、はぁ、はぁ、言ったのにっ、はぁ。どうし……目を、開ける、はぁ、だい?」

「アニカがバカやっているからだろっ」


 俺に抱き付く……ということは、魔獣の返り血が付くということ。

 つまり、食べるのと同様にヤバい。

 血塗れになれば、食べずとも分かるということか。

 それはあまりにも短絡的すぎだろ。


「モナカ、くんは、はぁ、トキコさんを、信じて、ないのかい?」

「信じているに決まっているだろっ」

「だったら、はぁ、ボクを受け入れて、くれても、いいだろ」

「命が掛かってるんだぞっ。そういう問題じゃないだろっ」


 いくら時子の携帯(ケータイ)魔法が万能だといっても、確実性がある訳じゃない。

 それを命で試そうとか、やらせられるはずもない。


「マスター、大丈夫だよ」

「タイム?」

「時子を信じてあげて。大丈夫だから」

「う」


 〝時子を信じてあげて〟……か。

 タイムの〝大丈夫〟に根拠はあるのか?

 ……なくてもいいか。

 なにしろ。


「タイムが……そう言うなら」


 それで十分だ。

 だから本当に大丈夫なんだろう。

 それでも、万一の時は骨を拾ってやるからな。


「アニカ、遺言があったら、聞いてやるぞ」

「ホントかい? じゃあ、生還できたらボクと子作りをしてくれないかい?」

「それは遺言じゃないし、却下だ!」

「ぶー、ケチ」

「いいから、俺の気が変わらないうちに、さっさと来い」

「はーい、ふふっ」


 アニカが俺の胸に飛び込んでくる。

 しかし実験とはいえ、血塗れの奴に抱き付く神経が分からん。

 アニカをそっと抱き締める。

 これが今生の別れになるのなら、せめて俺の腕の中で逝け。


「悔しいなぁ」

「なにがだ?」

「やっぱり、タイムさんには誰も勝てないんだね」

「なんの話だ?」

「ふふっ、なんでもない」

「気になる言い方をするな。なんなんだよ」

「本当になんでもないんだ。トキコさんのこと、本気なんだよね」

「いきなりなにを……」

「本気じゃないの?」

「本気だよ」

「なら、悲しませるようなことをしないでよね」

「はあ?」


 悲しませるって、なんのことだ?

 時子が悲しむことといったら、先輩のことだよな。

 俺のこと……と言えないとこが、俺的には悲しいことなんだけど。

 つまり、先輩をきちんと見つけてやれってことか。

 言われなくても分かっているよ。

 どうせなら、正々堂々、先輩から時子を奪いたいからな。


「それが分からない内は、教えてあーげないっ。ふふっ」


 俺から離れると、悪戯っぽくあかんべーをして、それから笑った。

 どこか垢抜けたような、すっきりしたような顔をしている。

 いい笑顔だ。


「アニカは大丈夫なのよ?」

「んー、今のところなんともありません。ちょっと血生臭いくらいかな」


 今のところ、大丈夫みたいだな。

 今のところ……

男は度胸! ってことで

次回はご機嫌斜めです

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