第91話 ソロバトル
さてと。
タイムの補助がないから、無茶はできないぞ。
とはいえ、無茶をしないと倒せそうにない。
アプリランチャーを幻燈機で表示しておく。
これでいつでもアプリが使える。
ただ、少し片手が不自由になるのが欠点だ。
タイムが居ないから、仕方がない。
野太刀を右手で構え、魔獣に向かって打って出る。
残り約200メートル。
魔獣は満身創痍のはずなのに、無駄に元気があるようだ。
でも変だな。
さっきモニター越しに見た魔獣は、体中から青い血が流れていた。
毛並みもボロボロで、尻尾も半分千切れていた。
後ろ足も引きずっていなかったか?
なのに今は元気いっぱいで、俺に向かって走ってきている。
あれか。
超回復とかいう奴か。
際限なく回復するとは思えないが、厄介だな。
となると、一気に大ダメージを与えて倒しきるしかない。
小技で削る、なんてことはできない。
レイモンドさんも一撃で決めろと言っていた。
できる……のか?
時子の火矢が飛んでいく。
どうやら魔獣が携帯の射程に入ったみたいだ。
魔獣は火矢をサッと避ける。
中々に素早い。
しかしロックオン済みだ。
火矢は魔獣に追従していく。
今度は避けずに噛み付き、火矢を砕いた。
なんて奴だ。
初見で対応しやがった。
残り約50メートル。
[ダッシュ]で一気に距離を詰め、上段から魔獣に斬り掛かる。
攻撃が読まれていたのか、後ろに飛び退かれて避けられた。
この程度じゃ奇襲にすらならないのか。
逆に魔獣の爪が襲いかかってきたので、刀を返して受け止める。
想像以上に魔獣の力が強い。
力負けして弾かれてしまった。
ヤバイ、あの爪で引っ掻かれたら、タダじゃ済まないぞ。
思いっきり仰け反って、爪をなんとか躱すことができた。
あっぶねー。
こんな奴、一撃とか無理だろ。
いったん[バックステップ]で距離を取る。
そこへ時子とエイルの火球が打ち込まれる。
だが一発は噛み砕かれ、もう一発は爪で切り裂かれた。
隙がないぞ。
オオネズミやイノシシの比じゃねぇ。
魔獣が吠えると、衝撃波が襲ってきた。
これが砂竜巻を打ち破ったやつなのか?
間近で食らうと、立っているのも困難だ。
というか、耳が痛い。
しかし今回は純粋に衝撃波だけだから、耐えられなくもない。
砂粒が混じるか混じらないかで、ここまで威力が変わるのか。
「きゃあ!」
「時子!」
衝撃波を食らって、時子が吹き飛ばされたらしい。
助けに行きたいが、今魔獣に背中を見せるわけにはいかない。
『タイム!』
『ダメ、気を失ったみたい』
一発退場か。
携帯魔法が使えるといっても、普通の女の子だもんな。
くそっ、守れなかった。
『怪我は?』
『擦り傷くらい。大きいのはないよ』
擦り傷……
傷物にしてしまった。
先輩に申し訳が立たない。
こりゃますます責任を取らなきゃいけないぞ。
痕が残らなければいいけど。
『エイルとアニカは?』
『双子がきっちり守ってるよ』
『分かった。そっちは頼んだぞ』
『うん』
「うあああああっ!」
気合い一発。
俺も吠えてみたが、衝撃波なんて起こるはずもない。
気持ち的には、起こって欲しかったんだがな。
それでも魔獣の気を、俺に向けることができている。
このまま俺を狙っててくれよ。
さっきと同じく、[ダッシュ]で一気に詰める。
それを見透かしたかのように、魔獣の爪が襲いかかってくる。
勿論、同じ手で行くつもりはない。
爪を振りかぶったタイミングで、[ダッシュ]を重ね掛けする。
更に加速をすると、爪が振り下ろされるより早く刀が届いた。
突き立てた刀は、魔獣の胸に深く突き刺さる。
やっとダメージらしいダメージを与えることができた。
抜いている暇はないから、突き刺したまま駆け抜けて爪を躱した。
新たな刀を携帯から取り出す。
在庫はいくらでもあるから、心配は要らない。
駆け抜けるついでに、刀で魔獣を斬り裂く。
が、体毛が硬く、殆ど斬れていない。
魔獣の後ろに回り込めたので、[袈裟斬り]で尻尾を斬り付ける。
斬り方が悪かったのか、衝撃が刀を伝わってきた。
手が痺れる。
それでも、尻尾を斬り飛ばすことができた。
どうやら斬るだけでは足りないようだ。
叩き斬るくらいじゃないと、届かない。
片手だと力が足りないのか、技量が足りないのか、刀の熟練度が足りないのか。
もしくは、野太刀では魔獣相手だと力不足なのか。
追撃をしようと構えると、そこに後ろ足蹴りが飛んできた。
くそっ、足癖の悪い奴め。
間一髪、刀で受け止めることができたものの、体勢が悪く、後ろに弾かれてしまった。
身体が1回、2回、3回と転がる。
両足で踏ん張ると、地面に平行線ができた。
おー痛っ。
あのやろー。
顔を上げると、魔獣の姿が既に消えている。
くそっ、何処に行きやがった!
「マスター、上!」
タイムの声で見上げると、魔獣が飛びかかってきていた。
しまった、体勢が悪い。
[バックステップ]を使う余裕が無い。
そう思った瞬間、[バックステップ]で魔獣の体当たりを躱した。
俺がさっきまで居たところの地面がえぐれている。
うわっ、モロに食らってたらヤバかったぞ。
冷や汗ものだな。
タイムの[バックステップ]が、ギリギリで間に合ったようだ。
「タイム、助かった。時子はいいのか?」
「うん、双子に任せてきた。ここからはフルでサポートするよ」
「分かった。任せる」
よし、ここからが本番だ。
「マスター、頑張りすぎ! アプリの重ね掛けとか、自殺行為だよ」
って、いきなり説教かよ。
「なに言ってんだよ。タイムはいつもやってるだろ」
「タイムのは重ね掛けじゃなくて、連携! 全然違うの」
そういえば、そうだったような。
「まあいい。ガンガン行くぞっ」
「でも、この調子だと1時間持たないよ」
そんなに食うのか。
タイムが使う魔法のことを言えないな。
それに、この戦闘を1時間も続けるつもりはない。
「大丈夫。1時間あれば余裕だ。一気にケリを付けるぞ」
「うん!」
魔獣との近接戦闘……難しいな
刀と刀がキンキン打ち合う訳じゃないからなー
次回はモナカとタイムの共闘です




