第90話 フレンドリーファイヤー
「アニカ!」
「ああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
鎌鼬が半狂乱になりながら、アニカに泣き付いている。
アニカより、鎌鼬の方が大丈夫かと聞きたくなる光景だ。
「だ、大丈夫。反動が、少し来た、はぁ、だけだから」
大丈夫と言うが、息は切れ切れで、かなり苦しそうだ。
「反動?」
「はぁ、はぁ。精霊術は、相手に防がれると、その反動が、術者に……返ってくるんだよ。大体は精霊が、削いでくれるけど。ほら、ボクって……未熟者、だから」
精霊術がそんな危険なものだったとは。
ん?
もしかして精霊たちがアニカのお願いを聞かない理由って、これなのでは?
アニカを傷つけたくないから戦わない。
だから遊びのお願いしか、聞いてくれないのだろう。
これ以上、戦わせられないな。
「アニカ、もう喋るな。ゆっくり休んでろ。後は俺に任せな」
「うん、そうさせて、もらうよ。鎌鼬」
「――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「はは、大丈夫だよ。君が守って、くれた、から」
アニカは優しく鎌鼬の頭を撫でる。
そしてそっと抱き締めた。
「な、なんで?」
「ん、当てたら、はぁ、撫でてあげるって、約束でしょ」
「でも、あたしは撫でてもらう資格なんて無いのっ」
「そんな……ことないよ。ありがとう。また、頼むから、はぁ、はぁ……今は、おやすみ」
「主……うん、忙しいけど、また来てあげるわよ」
「うん。お願い、だよ」
鎌鼬が精霊界に還っていく。
アニカはもう動けそうにない。
一体イフリータはなにをしているんだ?
絶対来ると思っていたのに。
すると、エイルがアニカに向かって、単発式詠唱銃を構えた。
「エイル?!」
「安心するのよ。直ぐ楽にしてあげるのよ」
止める暇もなく、単発式詠唱銃から魔法が放たれた。
「アニカっ!」
楽にって……なに考えているんだよ。
足手まといの負傷兵は、要らないとでもいうのか?
「お前、どういうつもりだっ」
「どうもこうもないのよ。処置は早い方がいいのよ」
だからって、即切り捨てるのか?
判断の遅れが命取りとはいうが、だからってアニカの命をこうも簡単に奪っていいのかよ。
「モナカはさっさと魔獣に備えるのよ」
「くっ」
確かにそれはその通りだ。
魔獣はあれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、こちらに向かってきている。
その距離、約400メートル。
さすがに無傷ではないが、それでも撤退を決断させるほどの傷は負わせられなかったということだ。
アニカの犠牲を、無駄にしてはいけない。
「アニカの敵は、俺が取るっ! 時子!」
「うん」
「モナカくん、頑張って」
「ああ。……あ?」
エイルにとどめを刺されたはずのアニカの声が、聞こえてくる。
恐る恐る振り返ると、そこにはアニカがこっちを見ていた。
「うわあ! ア、アニカ?」
もう化けて出たのか?!
「どうしたの?」
「化けて出るなら、エイルにしろよ」
幽霊は苦手だ。
怖いとかではない。
物理攻撃が効かないからだ。
その癖あっちはこっちを攻撃できる。
理不尽だっ。
「なにを言ってるんだい? ボクは生きてるよ」
生きている?
アンデットは、生きているとはいわないぞ。
「だって、さっきエイルにとどめを刺されたんじゃ……」
「モナカはうちをなんだと思ってるのよ」
「えっと、足手まといの負傷兵を切り捨てる非情な女?」
ときにはその判断を下さなければならないのが、リーダーの務めだ。
そういう意味では、エイルは適任だと思う。
俺には無理だ。
「バカだとは思ってたのよ、ここまでとは思わなかったのよ」
「だって、単発式詠唱銃で撃ち殺したんじゃ……」
「バカモナカ! 治療魔法を打ち込んだだけなのよ」
「治療魔法?」
なにその便利そうな魔法は。
この世界は医者要らずなのかっ。
「ただの応急処置なのよ」
応急処置?
てことは、消毒したり、止血したり、痛み止めだったり、といった程度か?
「科学みたいのよ、一瞬で治療はできないのよ」
「いや、科学でも無理だけど」
確かにSFとかだと、そんな機械も出てくる。
しかし実用化はされていなかったと思う。
「そうなのよ? ナノマシンのよ、身体を自己修復しないのよ?」
「そもそもナノマシンが存在しないから」
「……モナカの世界のよ、科学が未発達なのよ」
「勇者小説と一緒にするなっ!」
どんだけ高水準の科学なんだよ。
そんな高性能なナノマシン、俺が居た世界には無い。
……無いよな。
「モナカくん、遊んでる暇ないよ。魔獣が来るよ」
「おっと、そうだった。ありがとう、時子」
ヨシヨシと頭を撫でる。
やっぱり、タイムより髪の毛がサラサラしている。
いつまでもナデナデしていたい。
「そ、そういうのはいいから」
「ははっ、照れるなよ」
「照れてないっ」
さて、いつまでもナデナデしてはいられない。
名残惜しいが、魔獣をお仕置きしないと。
「じゃ、前に出るぞ。時子とエイルは援護射撃をよろしく」
「うん」
「分かってるのよ」
「俺の背中に穴開けるなよ」
「……怪我をしたのよ、風通しをよくしてあげるのよ」
「そういうの、止めてもらえますか?!」
なんか、本当にやりそうで怖いぞ。
アニカが死にかけるのは2度目ですね
二度あることは三度ある
3度目の正直
怖い怖い
次回はやっと主人公の出番です




