第88話 タイムの本気
「死ねーっ!」
鎌鼬の怒声が飛ぶ。
同時に砂嵐は魔獣に向かって、進み始めた。
さすがに風刃のような速度は出ていない。
それでも、人間が走って逃れることはできなさそうだ。
魔獣は、その危険性を察したのか、突っ込んでは来ない。
砂嵐を避けるように、回り込んできた。
「うああああああっ!」
鎌鼬の意思に応じ、砂嵐が転進する。
風刃と違い、進路変更ができるようだ。
とはいえ、その速度は魔獣に遠く及ばない。
このままでは完全に回避されてしまう。
「タイム、もう一度魔獣を拘束してくれ」
「もう一度?」
「ああ、時子のサポートは一時中止だ。どうせ見えてないんだから」
「ちょっと! どうせってなによ」
「分かった」
「双子は、砂嵐から俺たちを守ってくれ」
「ラジャー」「ブ・ラジャー」
「タイム・オブ・ターイム! マジカルモード、タイムちゃん!」
魔法少女姿のタイムが現れた……のか?
魔法のステッキとか、武器らしい武器はなにも持っていない。
その姿も、かわいらしさの欠片もない。
ボロボロの服を身に纏い、両腕には包帯が巻かれている。
その包帯自体も汚れており、巻き方が適当なのか、端がだらしなく垂れている。
腕だけではない。
至る所が包帯で覆われている。
しかも何故か右目には眼帯をしていた。
以前の姿とは全然違う。
双子はきちんとフリフリの魔法少女姿だったのに、だ。
イメチェンしたのか?
「右手に宿りし、怨嗟の炎よ」
右手に巻かれている包帯を解くと、腕から黒い炎が漏れ出る。
「左手に宿りし、憤怒の炎よ」
左手に巻かれている包帯を解くと、腕から赤い炎が漏れ出る。
すると、砕石弾が魔獣目掛けて飛んでいった。
これは、時子?
見ると、携帯を構えて何発も撃っている。
確かに散弾銃のように散けて何発も飛んでいけば、当たるかも知れない。
しかし弾速があまりにも遅い。
先読みをしてはいるようだが、それでも魔獣には当たらない。
牽制くらいにはなるかな。
……もしかして、俺の一言が不味かった?
「我が前に立ち塞がりし愚かなる者に、後悔の念を抱くことすら許さぬ炎龍となり、螺旋の彼方へと誘いたまえ!」
タイムの右手からは黒龍が、左手からは赤龍が現れる。
その姿は、双子のそれと比べるのもバカらしいほど、大きく、そして激しく燃えていた。
「タイム、頑張りすぎだぞ!」
天にも届こうかという2匹を見上げ、そう叫ばずにはいられなかった。
とても手のひらサイズのタイムから生まれ出たとは思えない。
「え? これでも双子より消費電力半分以下に抑えてるんだよ」
「マジか……」
これが本来のタイムの力ということか。
その圧倒的な存在感に、さすがの魔獣も無視できなかったようだ。
完全に警戒が砂嵐から黒龍と赤龍に移っている。
足が鈍った所為か、砕石弾が魔獣に当たった。
当たったには当たったが、当たっただけという結果に終わった。
さすがに距離がありすぎる。
黒龍と赤龍が魔獣の回りをゆっくりと取り囲む。
魔獣は包囲を抜けようと試みるが、行く先々を龍たちの黒炎弾と火炎弾で塞がれる。
地を這うものにとって、上空からの理不尽な攻撃は、どうすることもできない。
逃げることも、反撃することも叶わない。
そこへ漸く砂嵐の到着だ。
魔獣を巻き込み、暴風が吹き荒れる。
ガリガリゴリゴリと凄い音が聞こえてきた。
魔獣の鳴き声と混ざって、不快な音と化している。
気のせいでなければ、砂嵐というよりは、完全に砂竜巻になっている。
タイム同様、鎌鼬も手加減する気はなさそうだ。
2匹の龍は、砂竜巻の周りをゆっくりと旋回しはじめた。
そして時折地に向かって炎弾を吐いている。
着弾する度に耳をつんざくような轟音と、立っているのも困難なほどの地響きが発生している。
これ、本当に双子より省エネ攻撃なの?
双子との違いがちゃんと出てただろうか
次回はイメチェンの理由が明らかになります




