第86話 魔力の籠もった攻撃
「赤くない?」
魔獣だからなのか?
「当たり前なのよ。体液は魔力素の色なのよ。血のような酸化鉄の色じゃないのよ」
「魔力素?」
「魔力と魔素が反応したものなのよ。色の具合のよ、反応割合が分かるのよ。うちらの体液も、青いのよ」
そうか。
エイルたちの血は青いのか。
事前に知れてよかった。
いきなり青い血を目の当たりにしたら、取り乱していたかも知れない。
「うーん、僕は危機感を覚えるよ。炎の龍の攻撃を受けたのに、あの魔獣は焼けていないように見える。僕も参戦した方が、いいかもしれない」
確かにあれが本物の炎の龍なら、そうだろう。
しかし、言い方は悪いが、ただの張りぼてだ。
燃えたり焼いたりなんてしない。
「あ、違います。タイムの魔法は見た目だけで、あれは炎ではないんですよ」
「そうなのかい、僕は俄には信じられないよ。それにしたとしても、魔獣へ与えるダメージが、少なすぎる」
「そうなんですか?」
そうだよな。
幾ら張りぼてとはいえ、イノシシをミンチにするくらいの威力はある。
だというのに、魔獣は受け止めている。
イノシシと魔獣の違いという奴か。
「ああ、僕は警戒をより強めるよ。あれだけの魔力の塊を、魔獣は気にも留めずに受け止めた。それだけあの魔獣は強いということなのだよ」
魔力の塊?
レイモンドさんでも、タイムの魔法をそう勘違いしてしまうのか。
いや、幾らレイモンドさんでも、1000メートル以上離れていたら、分からなくても無理はない。
「いえ、タイムの魔法に魔力なんて欠片も含まれていませんよ。本当にあれは見た目だけなので。この幻燈機だって、魔力を感じないでしょ」
「なんだって?! 僕は素直に驚くよ。確かにこの映像には、魔力を感じないね。でもだとするなら、魔獣が怯まなかったことの説明が付く。魔獣を傷つけられるのは、魔力だけだ。魔力の籠もらない攻撃なんて、効かないのだよ」
なるほど。
魔獣を傷つけられるのは、魔力の籠もった攻撃だけ。
だからタイムの攻撃は無警戒で、エイルの攻撃は警戒したのか。
狙撃詠唱銃の第2射が、魔獣の耳を貫いた。
エイルが舌打ちをしている。
どうやら狙いは額だったらしい。
そのまま第3射の準備に掛かり始める。
「そうなると、時子の魔法はともかく、俺とタイムは戦力外になりますよ」
時子の携帯魔法は、まさしく魔力の籠もった魔法。
扉を開けられたのが、なによりの証拠だ。
しかし俺とタイムは、なにをしても扉を開けることは叶わない。
タイムの打った刀だって、アプリの効果だって、魔力の籠もらない攻撃。
盾くらいにしかならないのでは。
「いや、僕はそう思わない。ボクたちは全てを魔力に頼っている。だから攻撃力はほぼ魔力に比例する。モナカくんのように、技を磨いて力とする戦い方は、現存しないと言っても過言ではない。勿論、人間同士ならそれも通用しよう。しかし、魔獣相手に通用するものではない」
「ますます、俺の攻撃が通用するとは思えなくなりました」
「っははは、僕は言いすぎたかな。すまなかったね。君はゲンコウイノシシを狩ってみせた。試験でも石人形をいとも簡単に斬り捨てた。だから、魔獣が君を無能と判断している隙に、一太刀でケリを付けるんだ」
「なるほど」
一太刀か……
魔獣が賢ければ、タイムの攻撃で俺の攻撃も警戒するようになるのではなかろうか。
「おっと、僕としたことが、余計なことを言ってしまったよ。これでは君たちの戦略を見ることができなくなってしまう。タイム君の魔法で興奮しすぎたようだ。僕もまだまだだね」
双子の魔法を見て、冷静でいられなくなったということか。
だとするなら、もう少しまともなものを見せてあげたかった。
双子妹……頑張ってくれ。
「はは、そうですね。でもやることは変わりませんよ」
「うん、僕は期待しているよ」
エイルの3射目が放たれる。
今度は狙い通り、額に当たったようだ。
しかしかなり硬いのか、刺さることなく弾かれてしまった。
「マスター、一旦解除するよ。少しバッテリーを使いすぎたみたい」
「どのくらいだ?」
「その……1時間分」
「そんなに?!」
今はまだ時子と手を繋いでいる。
それなのにもう1/7も使ったというのか。
タイムの力は大きいが、リスクも大きい。
「バカ双子が、頑張りすぎたの」
「双子がバカなら、タイムもバカでしょっ!」「しょーっ!」
「一緒にしないでっ」
「いいよ、足止めありがとう。後は任せろ」
「うん、任せた」「たー」
双子が魔獣の拘束を解いて、戻ってくる。
エイルの護衛は俺の仕事だけど、双子に任せるしかない。
「エイル、まだ狙えるか?」
「無理なのよ」
まぁ、動き回られたら、この距離で当てるのは不可能だろう。
「いつでも動けるようにしとけよ」
「分かってるのよ」
エイルは狙撃詠唱銃のアタッチメントを外し、連射式詠唱銃に戻す。
そして自前の単発式詠唱銃も構える。
「時子、そっちは?」
「んー、まだ全然見えない」
携帯のカメラ性能じゃ、どうにもならないか。
俺の左目でも点にすらならないんだ。
仕方がない。
タイムの補正はあくまで照準のみ。
カメラ性能までは向上させられない。
こちらの攻撃が止んだのを見計らい、魔獣が一気に駆け寄ってくる。
その距離、1200メートル……1100メートル……
血が青い……というのはどうなんだろうか
魔力のイメージカラーが青系統だから、血も青くしたんだけど
次回は精霊のターン




