第85話 一番槍
「モナカくん、魔獣は何処かな」
双子が見ている魔獣の映像なら、幻燈機で映し出されている。
しかし実際に何処に居るかとなると、肉眼で確認できるはずもない。
「んー、こっちから来るみたいだぞ」
タイムのサポートが無いといっても、完全に無いわけではない。
ARによる情報表示は、普通にされている。
魔獣の居る方向や距離や姿も、その1つだ。
約800万画素の左目で拡大表示をしてみる。
光学2倍程度では、魔獣の姿は1ドット未満なので、確認できない。
幾らデジタルズームしようとも、無理なものは無理。
双子が見ている映像を小窓表示することで、間接的に見ることができているに過ぎない。
当然、左目より低画質の携帯カメラで、確認することなど不可能。
だからこの距離では照準を合わせるのは無理だ。
だというのに、エイルは寝そべってスコープを覗き込んでいる。
その銃口は魔獣を捉えているらしく、今は魔力を練り込んでいる最中だ。
その距離、およそ1300メートル。
この距離で見えるというのが、驚きだ。
というか、届くのか?
「初弾はエイルだけになりそうだな。頼んだぞ」
「任せるのよ。いつでもいけるのよ」
つまり、この距離で照準が合わせられているし、当てられるということか。
怖い怖い。
「よし、タイム!」
「ラジャー! タイム・ライム、よろしく」
「え、タイムたちが行くの?」「行くのー?」
幻燈機越しに、双子の愚痴が聞こえてくる。
タイム同士の言い争いも、日常的な光景になったな。
「タイムは時子のサポートで動けないの」
「タイムたちだって、この後エイルさんとアニカさんの護衛をしなきゃいけないんだけど」「けどー」
「最初だけなら、問題ないでしょ。他に手の空いてるタイムが居ないんだから、我慢して」
「双子使いが荒いぞ」「ぞー」
「いいから、さっさとやって!」
「ぷぅー、ラジャー」「ブ・ラジャー」
なんだかんだと文句は言うものの、やることはきちんとやる。
いい加減なことはしない。
そういう奴だ。
だから安心していられる。
双子から魔獣までの距離は50メートル。
魔獣の視力は分からないが、米粒より小さく見える双子を認識できるとは思えない。
「双子妹、一発噛ますよ!」
「双子姉ー、一発かますよー!」
「右手に宿りし、怨嗟の炎よ」
「左手に宿借りしー、えっと……なんとかの炎よー」
幻燈機で映し出されている双子が、なにやら呪文を唱えている。
双子妹、大丈夫なのかそれで。
「おお、僕は感激だよ。この目で妖精魔法が見られるなんて、幸せだ」
「あー、あまり期待しない方がいいですよ」
魔法といっても、タイムの魔法だからな。
「どうしてだい?」
「見ていれば分かりますよ」
魔獣が双子に気づいたようだ。
よく分かったな。
が、脅威と感じていないのか、チラッと見ただけで完全に無視している。
双子の大きさが、大きさだしな。
体高120センチの魔獣と、身長20センチの双子。
大人と赤子より酷い対比だ。
「タイムを無視するとは、いい度胸だな」「だなー」
「侮ったこと、後悔させてやる!」「やるー!」
「我らが前に立ち塞がりし愚かなる者に、後悔の念を抱くことすら許さぬ炎龍となり」
後悔させてやると言いつつ、それを許さないってどうなんだろう。
2行で矛盾しているぞ。
「な、長いよー」
「いいから、復唱するのっ!」
詠唱……雑だな。
「うう、なんだっけー。我らが前に立ちフサフサなる者にー、公開をすること? スライム炎龍の隣ー」
そんな詠唱で大丈夫か?
幻燈機越しに見ているレイモンドさんも、幻滅しているのでは。
と思ったが、目の輝きは失せていなかった。
どれだけ期待が高いんだ。
「螺旋の彼方へと誘い給え!」
「ラセンの刀へといざ酔い珠恵ー!」
珠恵って誰だよ。
双子姉の右手から、双子妹の左手から、炎の龍が現れる。
2匹の龍が、螺旋を描きながら絡み合って、天を翔る。
「はぁぉぁ!」「あー!」
魔獣に向かって腕を振りかざす。
2匹の龍が、うなり声を上げながら突き進んでいく。
「凄い、僕は感動を隠せない。現代では見られないと思っていた詠唱魔法。しかも二重詠唱が見られるとは! 素晴らしい」
「そうですね。見た目だけは凄いですよね」
タイムの魔法といえば、その全てが打撃系の魔法だ。
見た目は関係ない。
ただの演出なのだから。
そんなタイムの魔法を見ても尚、魔獣は悠然としている。
避ける素振りすらない。
当然、螺旋龍は魔獣に直撃する。
「やったー!」「たぁー!」
魔獣は跳ね飛ばされ、地面を転がった。
いくらなんでも無防備すぎる。
魔獣は立ち上がると、身震いした。
辺りをキョロキョロと見回している。
まるで今なにが起こったのか、理解ができていないかのようだ。
魔獣が上空の螺旋龍を見つけると、身構えた。
双子が再び腕を振って、螺旋龍を魔獣にけしかける。
しかし今度は魔獣に受け止められてしまった。
それでも力比べは螺旋龍に軍配があるようで、魔獣は押し負けている。
地面に4本の線が少しずつ、ゆっくりと伸びていく。
龍は螺旋を解き、1匹が魔獣に絡みついた。
「エイルさん、今だよ」
「……」
エイルの狙撃詠唱銃が静かに火を噴く。
重力など関係ないとでもいうかの如く、真っ直ぐに伸びた魔弾が魔獣に迫る。
魔獣はその気配に気づいて暴れるが、逃すほど双子の螺旋龍は甘くない。
螺旋龍は気にも留めないのに、エイルの魔弾は気にするのか。
魔弾は魔獣の胸に深く刺さった。
魔獣の血が、僅かに流れる。
その色は、青かった。
双子の詠唱魔法、どうでしたか
姉はともかく、妹はあんなもんです
次回は今回タイムが使った電力量が判明します




