第83話 フブキの正体
『マスター、起きて!』
少し慌てた感じで、タイムが脳に話しかけてきた。
どんな喧しい目覚まし時計よりも、目覚め効果が高い。
そして心地いい。
『ん、どうした?』
目を瞑っていても見えるタイムのアイコンが、〝緊急事態〟の看板を掲げている。
『魔獣が近くまで来てるよ』
『なに?!』
心地よさから一転、緊張感が高まる。
目を開くと、テントの中はまだ薄暗い。
『だからみんなを起こして欲しいの』
『分かった』
「時子、起きろ。魔獣が来たぞ」
「ううん……えっ!」
カーテンを開けると、エイルとアニカが寝ていた。
でもレイモンドさんの姿がない。
「エイル、アニカ、起きろ。魔獣が来たぞ」
「魔獣なのよ?」
「ううん……」
「アニカ、起きろっ」
「ぅわっ、な、なになに?」
「魔獣だ」
「えっ」
偵察に出ていた四天王と双子が入れ替わる。
文字通り、瞬時に入れ替わった。
そのまま四天王は透過膜を引き継ぐ。
テントから出ると、レイモンドさんが居た。
対応が早すぎる。
「遅かったね、僕はもう起きているよ。しかしタイム君は凄いね。僕より早く気づくなんて。さすがだよ」
寝ていたはずなのに、気づいている方がおかしいと思う。
そのくらいじゃないと、結界外では生きていけないということか。
幻燈機が、双子の視界を映し出している。
そこには、双子が見ている魔獣の様子が映し出されていた。
距離はおよそ2100メートル。
個体数1。
オオカミのような形をしている。
体高は120センチ、フブキより一回りほど大きい。
体毛はかなり黒ずんでいる。
「1頭か?」
「あのとき見かけた個体だよ」
「分かるのか?」
「アリ1匹1匹は無理だけど、あのくらいならね」
「なんでアリ?」
「んー、なんとなく?」
なんとなくかよ。
確かにアリよりは、区別し易いだろうけど。
「他は居ないのか?」
「今のところ、見かけないよ」
「ここに向かってきているのか?」
「多分、においを辿ってるんだと思う」
「いや、僕はそれを否定するよ。おそらく、フブキ君の魔力を辿ってきたんだ。迂闊だったね」
「フブキの魔力を?」
魔力というなら、確かにフブキしかいない。
俺も時子も、勿論タイムも魔力を有しない。
そしてあの場で、時子は魔法を使っていない。
だからフブキの魔力なのだろう。
「すまない、僕のミスだ。フブキ君が雪狼だということを忘れていたよ」
「フブキはシヴァイヌですよ」
雪狼はフブキのご先祖様だ。
種としては、既にシヴァイヌに変わっている。
「そうだね、僕も知っているよ。登録上はシヴァイヌだ。でも本当は雪狼なのさ。エイル君は、お父様から聞いていなかったのかい?」
「……聞いてないのよ」
「そうなのか、僕は余計なことを言ってしまったかな。雪狼は飼うことを許可されない害獣だ。だからシヴァイヌで登録したのだろう。子供の頃は、区別が付けづらいからね」
まさかフブキがオオカミだったなんて。
しかも飼うことを許可されない、害獣?
「フブキを、どうするつもりですか」
ここにフブキを連れてきた目的はなんだ?
始末する為?
だとするなら、レイモンドさんは敵……ということになる。
気がつくと、俺は携帯から刀を抜いて、レイモンドさんに向けていた。
「いやいや、僕はなにもしないよ。それに僕ではフブキ君に勝てないからね。それに、モナカ君を敵に回すのは、得策ではない」
レイモンドさんは両手を開いて肩の高さに挙げ、敵対心がないことをアピールしてきた。
だからといって、その言葉を今すぐ信じることは出来ない。
とはいえ、やろうと思えば、やれる瞬間が何度かあっただろう。
レイモンドさんにとって、フブキはまだ利用価値がある。
だから生かしているのかも知れない。
「マスター」
「ああ、分かっている」
映し出されている魔獣が、少しずつ近づいてきている。
その距離、およそ1900メートル。
「単独で乗り込んでくるつもりでしょうか」
「そうだね、僕はその可能性を考えるよ。あの魔獣にとって、フブキ君は最高のご馳走だろうからね。独り占めしたいと考えているのだろう」
「ご馳走……」
「魔獣にとって、ご馳走ってなんだろうね」
「やっぱり毒素じゃないんですか?」
「フブキは毒素に冒されていないぞ。単純に考えれば魔力じゃないか」
「そうだね、僕もそう思うよ。加えて言うなら、上質な魔素もそうだね。さすが雪狼というべきか」
魔力に魔素、か。
どっちも俺と時子には欠けているものだ。
フブキを餌に、魔獣を1匹おびき寄せたような感じになってしまった。
「さあ、僕に君たちの力を見せてくれたまえ」
力か。
要はあの魔獣を倒してみせろってことだよな。
「分かりました。タイムは監視を続けて。エイルとアニカはキャンプの片付けを。俺と時子は戦闘準備だ。フブキは前に出るなよ」
「ダメだよ、僕はフブキ君の力も見たいのだよ」
「フブキにも戦わせるんですか?」
フブキが狙われているのなら、極力前に出したくはない。
「ああ、僕は言ったよね。僕ではフブキ君に勝てないと。フブキ君は強い。ここに居る誰よりもね。ただ、力の使い方を知らないだけなんだ。君たちを傷つけないように、力を押さえているからね。使い方を間違えれば、モナカ君とトキコ君とタイム君を除いて、凍死するだろう」
「どうして俺たちは平気なんですか?」
「おいおい、僕は信じられないよ。君たちはフブキ君と接していても、なにも感じないのだろう。その延長だからなのだよ。逆を言えば、君たちでコンビを組んで行動すれば、フブキ君はなんの気兼ねもなく、力を使えるのさ」
「だったら、俺と時子とフブキで打って出ます」
「そうだね、僕はその案に反対だ。不確定要素が大きすぎる。フブキ君が力の使い方を覚えるまで、離れて行動するのは止めた方が良い」
確かに、力の使い方が分からない以上、単独行動は危険だ。
……本当に分からないのだろうか。
それを知っているのは、フブキだけだ。
いよいよ魔獣との戦闘が始まります
長かった……
実に長かった……
でもまだタイトル詐欺が続いていますw
次回は戦支度です




