第82話 先輩へのメール
「お姉ちゃん」
「時子? どうかしたの?」
タイムは複数のモニターを見て、周りを監視していた。
モニターには、四天王が見ている映像が映っている。
所謂ダブルチェックというやつだ。
「首尾はどうですか」
「うん、四天王から連絡は無いよ」
「あれ、透過膜を張ってるんじゃないの?」
「んと、今は双子と交代してる。動かないから、3人で十分だよ。トイレに起きられたら、入れ替わらないとだけど」
「そうなんだ」
「タイムになにか用?」
「ううん。先輩にメールするから、出てきただけ」
「そっか」
時子は椅子に腰掛け、携帯を弄りはじめた。
「返事、来るといいね」
「……来るのかな」
時子はメールを打つ手を止め、夜空を見上げた。
周りの殺風景さとは裏腹に、満天の星空が広がっている。
時子は知っている星座がないか、探してみた。
当然だが、見つかるはずもない。
「時子は来ない方が良いって思ってるの?」
「そんなこと思ってない。思ってないけど」
「けど?」
返事が来ない方がいいとは思っていない。
でも、返事が来るとも思えなかった。
来るのなら、とっくに来ているはずだから。
そして、来ないかも知れないと思う一番の理由は……
「時々、モナカくんが先輩と被るんだよね」
「マスターと? どんなときに?」
「んー、〝肉じゃが〟とか?」
再びメールを打ち始める。
内容は魔獣のことや、肉じゃがのことだ。
「あー、映画を見に行ったときだね。お弁当作っていったら、〝次は肉じゃが作って欲しい〟って言ってたっけ。それと被るってこと?」
「知ってたの?!」
「だ、だから後ろからいつも見てたって言ったでしょ」
「ホントに、なんでも知ってるんだね」
「あはははは……」
勿論それだけではない。
昨日のゲームの動きもそうだ。
細かいことも含めると、きりが無い。
そういった積み重ねが、時々時子を勘違いさせてしまう。
「〝肉じゃが〟なんて、定番じゃない? メールの返事と関係あるの?」
「分かんない。分かんないけど」
専属コックのことも、内容をぼやかしてメールに書き込む。
先輩が焼き餅を焼いて、さっさと迎えに来てくれないかと期待してのこと。
「エイルさんの言ってること?」
「モナカくんは先輩じゃないよ。ないのに、どうして」
どうしてモナカから先輩を感じてしまうのか。
ただの偶然と片付けるには、無理がある。
だけどモナカが先輩なら、どうしてメールのことをなにも言ってこないのか。
どうして返事を送ってくれないのか。
だから時子は、モナカの持っている携帯が気になっている。
もしモナカが居るところでメールを送信し、モナカの携帯から着信音が聞こえてきてしまったら。
なのに、聞こえてこないのも嫌だ……という思いもある。
怖くて確認できない、というのが現状だ。
だから、テントの外に出てメールを打っている。
「どうして違うって思うの?」
「そんなの、ずっと見てたお姉ちゃんだったら分かるでしょ」
姿形が違う。
声も違う。
名前も違う。
年齢も先輩より1歳上。
なにより、先輩は死んでいないから、転生することは出来ない。
そもそも死者には適応されない、生者限定の願い事。
そしてモナカが転生してきた1年前、時子は先輩と同じ学校に通っていた。
これらを説明できない限り、モナカは先輩ではない。
「そうだけど。でも時子は、時子が感じるままを信じればいいんだよ」
「もしモナカくんが先輩だとしたら……それを時子が信じたとしても、先輩が受け入れてくれないよ」
「どうしてそう思うの?」
「だって先輩は、確固たる証拠を見つけないと、信じてくれないよ」
「あははっ。確かにそうだね」
つまり、先輩を見つけるということは、先の矛盾点を解明することかも知れない。
時子は、そう思い始めている自分が、受け入れられなかった。
モナカが自分のことを〝嫁〟と呼んだことも、メールに書いた。
嫉妬心を更に煽ろうと思ったからだ。
しかし、それは思い直して削除した。
「うん。[送信]っと」
時子は今日もメールを送信し、返事を待っている。
決してモナカがメールのことを話してくれるのを、待っているのではない。
「どうしたの、寝ないの?」
メールを送信した後も、携帯の画面を見てボーっとしている。
もしモナカがメールを読んでいたら……
そんなことはないと思いつつ、直ぐテントに戻ることができないでいる。
「お姉ちゃん、エイルさんと仲直りしないとダメだよ」
だから適当な話題を振って、時間を稼ぐ。
「はうっ。別にケンカはしてないよ」
「でも、あんまりいい雰囲気じゃないよ」
「それは分かってるけど……タイムは悪くないもん」
「そうだね、お姉ちゃんもエイルさんも悪くない。でもね、エイルさんはお姉ちゃんが自分の気持ちを抑えてるのが、嫌なんだと思う」
「タイムは抑えてなんかないよ。マスターの幸せが、タイムの幸せなのは、ホントだもん」
「エイルさんはそう思ってないみたいだね」
「タイムの幸せを、他人が勝手に決めないで」
「それ、完全にブーメランだよ」
「えっ?」
モナカの幸せはモナカが決めること。
なのにそれをタイムがねじ曲げて決めてしまった。
時子はそう思っている。
それを言ったところで、また同じことの繰り返しだ。
「じゃ、時子は寝るね」
「あ……ちゃんとマスターと――」
「分かってます。手を繋いで寝るよ」
「う、うん。おやすみ」
「おやすみ」
メッセと違って、メールは既読とか未読とか分からないからねー
携帯にメッセなんてありませんからw
次回はフブキの正体に迫ります
え? 言わなくてもバレてるって?




