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第8話 狩ったら食べる

命に感謝して頂きましょう

 トレイシーさんのお陰で時子さんのご飯問題は解決した。


「時子はなんの肉なら食べられるのよ」


 やはり解決したとは言えなかった。


「豚肉とか牛肉とか鶏肉とか、お魚とか……」


 ま、その辺がごく一般的な食肉だよな。

 だがこっちの世界に来て1年、ネズミ肉以外といえばイノシシ肉くらいしか見ていない。

 それも自分たちで狩ったあのイノシシだけだ。

 それ以外では見たことがない。


「鳥は保護されてるのよ。食べられないのよ」

「卵はあるのに、鶏肉は出回っていないのか?」

「卵は飼育された鳥から採取できるのよ」

「その飼育した鳥は食肉に回らないのか?」

「嗜好品としてはあるのよ。一般的な食肉ではないのよ」

「そうなのか? 家畜は居ないのか?」

「以前は成り立っていたのよ。でも毒素の被害に遭うのよ、採算が取れなくなったのよ」

「毒素って、魔獣化がどうのってあれか」

「そうなのよ。1カ所に集まってるのよ、あっという間に広がるのよ」

「それは鶏も一緒なんじゃ?」

「鳥は小さいのよ、繁殖力も違うのよ」

「んー。なんか、難しい話になってくるな」

「詳しく知りたいのよ?」

「いや、別にそれを仕事にしたい訳じゃないからな」


 ということは、鶏肉だけではなく、他の獣肉も手に入れ難いということか。


「イノシシはどうだ?」

「イノシシ?」

「豚は猪を家畜化したものだから、豚肉の代わりに猪肉なんていいんじゃないか?」

「そ……そうなんだ」


 あまり気乗りはしないみたいだな。

 元の世界だと、地方によっては牡丹鍋にして食べられている。

 熊肉とか鹿肉よりは親しみがある……のではなかろうか。


「ボクがイノシシをかってきます!」


 ご主人様としての責任を感じているのか、アニカがなにやら騒いでいる。


「買ってきます?」


 確かにフレッドの財力を持ってすれば、それも可能だろう。


「違います! 〝狩ってきます〟です。モナカくんはどういう耳してるんですかっ」

「あ、ああ。すまん」


 翻訳されると同じ音だけど、現地語では全然違うのだろう。

 って、なんだって?

 アニカがイノシシ狩り?!

 正直な話、アニカにイノシシ狩りは無理だろ。

 そもそも未だにまともに精霊と狩りができていないではないか。

 召喚できても、精霊に(もてあそ)ばれていることに変わりがない。

 フレッドから授かった杖を使っても、そこはあまり変わらなかった。

 簡単なお願いは聞いてもらえるようではあるが、狩りのような複雑な連携が必要な物は無理だった。


「いや、無理だろ」

「アニカは精霊との信頼を高めるのが先なのよ」

「それは……その」

「時子が狩るよ」

「時子さんが?」

「できるのよ?」

「……多分」


 オオネズミを消し炭にしたから、攻撃力はあるだろう。

 だがあれでは可食部位が残らない。

 しかしイノシシならば、身体が大きいから可食部位も残るだろう。

 手強いとはいえ、俺たちも手伝う。

 問題があるとすれば……狩猟期間が決められているところだ。


「イノシシは結構手強いぞ。それに――」

「違うよ。その、オオネズミを……ね」

「オオネズミを?」

「時子が狩って、時子が食べる」

「え? オオネズミ……食べるの?」

「が、頑張る……」


 頑張るって……

 まぁ知らないときは普通に食べてたし、先入観さえ無くなれば問題はなさそうだけど。

 でも自分で狩って、それを食べるってことか?


「肉屋で買ってきて食べるより、ハードル高いと思うぞ」

「分かってる……でもそのくらいできなきゃ、ダメだと思うから」

「どうして?」

「その……狩ってるのに食べないのは、命の冒涜かなって」

「重く考えすぎじゃない?」

「でも、きっと先輩は狩ったら食べてると思うから。あはは、はは」

「先輩……そっか、そうだね」


 やっぱり時子さんの原動力は、先輩なのか。


「時子、よく言ったのよ。モナカ!」

「ん?」

「解体の仕方を教えてやるのよ」

「解体の仕方?」


 オオネズミの解体は、もう慣れたものだ。

 何十匹、いや何百匹とやったからな。

 最初の頃は、買い取ってもらえなかった。

 でも段々と買い取ってもらえるようになっていった。

 ゲームだったら、倒した途端に解体も終わってるんだけどな。

 現実は甘くないって事だ。


「誰に?」


 多分人に教えられるくらいには成長していると思う。

 ただし、オオネズミ限定だ。

 なにしろ他の動物を解体したことが無いからな。

 もっと言うならば、オオネズミの他は、例のイノシシ以外狩ったことが無い。


「時子に決まってるのよ」

「あーなるほどね」

「……カイタイ?」

「……今、時子さんに解体を教えろって言ったのか?」

「他にどんな解釈があるっていうのよ」

「それは……そうだけど。えー」

「〝えー〟じゃないのよ。自分で狩って自分で解体して自分で調理して自分で食べるのよ」

「それはいきなりハードルが高すぎやしないか?」


 多くの女子中学生は、魚すら(さば)いたことが無いと思うけど。

 せいぜい学校の授業で蛙を解剖したことがある程度だろう。

 ま、何処かのPTAが〝動物虐待だ〟とか叫んでそうだ。


「このくらいできなきゃダメなのよ」

「ダメって……」

「いいよいいよ。時子、解体頑張るよ。やったことあるし」

「あるの?!」


 これはちょっと驚いた。


「いつ? なにを?」

「えっと……ゲ、ゲームで?」

「……それはやったことあるって言っていいのか?」

「ダメ?」

「ダメだと思うぞ」

「ダメかぁー」


 ゲームだったら、そもそも解体しなくても解体済みなことが大半だろうに。

 ……リアルな解体ゲームだったとか。

 どんなゲームだよっ。

 黙々と解体だけを延々と続けるのか?

 シミュレーターなら分からなくもないが、一般人がやる必要ないだろ。


「いいのか? 血がドパーとか出るぞ」

「え?」

「かなり獣臭いし、血の臭いも凄いぞ」

「えっえっ?」

「それでもやるっていうのなら、教えるけど」

「えっと……その」

「明日からモナカが責任をもって教えるのよ」

「「明日から?!」」

「それは早いと思うぞ? 狩りさえまともにできていないんだから」

「善は急げなのよ」

()いては事をし損じるとも言うぞ」

「失敗したのよ、モナカが責任を取るのよ」

「なんでだよっ」

「それが親というものなのよ」

「……」

「……」

「はぁ。時子さん、それでいいかな」

「……分かった。時子、頑張る」

「気負いすぎるなよ。まずはオオネズミを消し炭にしないことから始めような」

「それを言わないでー」

「はは、悪い悪い」


 火属性(かぞくせい)ではないとなると、風属性(ふうぞくせい)とかだろうか。

 定番となると、〝windcutter(ウインドカッター)〟とか?

 午前中はその辺りを話し合うことにした。

次回、英語は勉強しておいた方が良かったという話

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