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第79話 食事の儀式

 太陽が半分ほど地面に溶けた頃、拠点に辿り着いた。

 道中、魔獣に襲われること無く、無事に帰ってこれた。


「「「ただいま」」」「まー」

「お帰りなのよ」

「「「お帰りなさい」」」

「お帰り」


 拠点にはテントが2つと炊事場ができていた。

 炊事場では、エイルとアニカがご飯を作っている。

 正直、エイルが台所に立っているところを見たことがない。

 アニカはトレイシーさんの手伝いをしているところなら見たことはあるが、あくまで手伝いだ。

 実家でも料理をしていたとは思えないし、大丈夫なのか?

 とはいえ、こっちは作ってもらう身。

 多少のメシマズは我慢しよう。


「さて、僕はお腹が空いたのだよ。だから報告を聞くのは、夕飯を食べてからにしようと思う。いいかな」

「はい、分かりました」

「モナカくん、手伝ってくるね」

「ああ、分かった」


 時子が戦力に加わるなら、頼もしい。

 メシマズは回避されたも同然だ。


「いいのよ、時子はモナカと休んでるのよ」


 エイル、なんてことを言うんだっ。


「そうです。このくらい、ボクたちでできますよ」


 アニカまでなにを言っているんだっ。


「いいの? ありがとう」


 時子、そこで引き下がらないでくれ。

 ……などと口に出して言えるはずもなく、ただできあがるのを待つことしかできない。

 レイモンドさんがウキウキしながら椅子に腰掛けて待っている。

 いつも眠たそうな半開きの目が、いつになく爛々(らんらん)と輝いて見えた。

 羨ましい限りだ。

 鼻歌まで歌っているぞ。

 なんか、凄く新鮮だ。

 待つといっても、料理自体はほぼ完成している。

 調味料で味を調えただけで、盛り付けを始めた。

 出張所のご飯を食べた後だからなのか、いい匂いに感じられる。

 もしかして、期待してもいいのか?


「できたのよ。こっちに来るのよ」


 調理台の上が片付けられ、料理が並べられている。

 ご飯とスープにベーコンと野菜の炒め物だ。

 たったこれだけではあるが、内容的には出張所で出されたものより、豪勢に感じる。


「モナカくんは、こっちだよ」


 案内されたところには、明らかに他より多く盛られた皿が並んでいた。


「おいおい、節約しなくていいのかよ」

「大丈夫なのよ」

「遠慮しないで」

「俺は空腹を我慢すれば、時子でなんとかなるから、フブキに――」

「ふえっ?! 時子で?」

「ああ、携帯(スマホ)と融合した所為かな。食事は空腹と食欲を満たすだけのものっぽいんだ」


 バッテリーの減りと空腹は関係ない。

 それがなによりの証拠だ。

 そもそもこの世界の食べ物は、全て魔素でできている。

 元素世界の人間が、生きていく上で必要な栄養素を得られるとは思えない。

 でもそう考えると、俺以上に何故時子が生きていられるのかが分からない。


「極端な話、時子からの充電が足りるなら、全く食べなくても平気だと思う」


 俺を充電できる理由も分からない。

 が、今はそんなことを考えるときではない。


「そうなのよ?」

「だよな、タイム」

「え、なんでタイムに聞くの?」

「おいおい、俺の体調が悪くなれば、誰よりも早く、誰よりも的確に分かるだろ」


 いつも俺の体調変化に気をつけてくれている。

 時子と家に帰ったときも、色々と丸裸にされていた。

 俺以上に、俺の身体に詳しい。


「そ、そう……だけど」

「そのタイムがなにも言わないんだ。つまりは、そういうことなんだよ」

「タ、タイムだって見落とす――」

「あり得ない」


 断言できる。

 どんな些細なことも見逃さないと。


「でも……」


 タイムは自分に自信が持てていないようだ。


「だったら今回、検証してみればいい」


 俺の身体に変調が表れれば、絶対に気がつく。

 わざと見逃すなんて、するはずがない。

 嘘の報告をするはずもない。

 何故なら、それがタイムだからだ。


「検証って?」

「やることは変わらないよ。24時間、手を繋いでいて欲しい」

「あはははは……まぁそのつもりだったけど」

「え?」

「ううん、なにも言ってないよ」


 いやいや、なんか小声で言っただろ。

 そのつもりとかなんとか……


「でも、今日はこれを食べておくれよ。モナカくんのために用意したんだから」

「ははっ、分かった。ありがたく食べさせてもらうよ。2人とも、ありがとう」


 普段トレイシーさんに言っていることを、エイルとアニカに言う。

 なんか、新鮮だ。


「ありがとうございます」

「気にしないのよ」

「ふふっ、どういたしまして」

「ふむ、僕は知っているよ。確かクラスクの習慣だったね。僕も(なら)わせてもらおう。ありがとう」


 結構律儀な人だな。


「気にしないのよ」

「あは。レイモンドさんに言われるのは、変な気分だな。どういたしまして」

「そうかい、僕は女性には感謝を忘れないよ。女性は、男性が頑張れる源なのさ」

「そうなんですか?」

「意外なのよ」

「レイモンドさんの気持ち、俺はよく分かりますよ。俺も」


 以前はタイムの為だった。

 それができていたかは分からない。

 できていなかった、と考えるべきか。

 同じ失敗は繰り返したくない。

 だからこれからは。


「時子のために頑張ります」

「ふえっ!」

「ふふ、僕は羨ましいよ。そういう女性は、僕には居ないのだから」

「そうなのよ?」

「ああ、僕は独り者さ。恋い焦がれる者も居ない。だから結界外で死んでも、悲しむ者も居ないのさ」


 だから結界外調査部門にいる、と言いたいのだろう。


「それは、寂しくないですか?」

「いいのだよ、僕の生きた証は居るからね」


 生きた証?

 〝居る〟って事は……子供が居るのか?


「さ、冷めないうちに食べよう。僕の身の上話なんて、面白くもないのだよ」


 気にはなるけど、詮索するのは良くないな。


「「「いただきます」」」

「おや、僕の知らない儀式だね」


 儀式?!

 まあ、知らない人が見たら、儀式に見えても不思議じゃないか。

 とはいえ、やはりこっちの世界にはないことらしい。

 やはり俺たち以外で〝いただきます〟をしていれば、先輩の情報が聞けるかも知れない。


「それもクラスクの習慣かい?」

「いえ、俺と時子の住んでいた国の習慣です」

「そうなのかい、僕もやってみようかな。イタダキマス。ところで、どういう意味があるのだい?」

「えっと、確か食材への感謝だったかな」

「それから、食材を育ててくれた人や、狩ってきてくれた人、調理してくれた人とか、関わった人全員への感謝もあるの」

「凄いね、僕はそこまで考えたことはなかったよ。手を合わせるのは何故だい?」

「え、なんでだろう」

「それは考えたこと、なかったね」

「んとね、色々説はあるけど、〝命を頂く〟ことへの感謝で、宗教が元になってるみたい」

「へー、タイムは物知りだな」

「えへへへ(今検索したことは内緒にしておこっと)」

「シュウキョウ? 僕は聞いたことがないよ」

「え、無いんですか?」


 異世界だと一神教が定番だと思った。

 まさか宗教が無いってことは、無いよな。


「大昔にはあったのよ。今はこの世界のよ、宗教は無いのよ」

「じゃあ、神頼みとか……」

「居もしない神族のよ、頼むバカは居ないのよ」

「うわ……神を信じてる人には、聞かせられない話だな」

「この世界の話なのよ。モナカの世界の話じゃないのよ」


 居もしない神族。

 そういえば、確か神族を召喚しようとして、異世界から勇者を召喚したと言っていたな。

 大昔には宗教があった。

 つまり、大昔には神族が居た?

 神頼みっていうのは、神族に頼み事をするということ?

 妖精族が人間界から妖精界に還ったように、神族も神界に還った。

 そういうことだろうか。


「それでも、信じる人は居るものじゃないのか?」

「居たとしてのよ、現状を見れば見捨てられてるのは確実なのよ」

「そうなのか? 俺たちの世界でなら、〝神は試練を与えたもうた〟とか言って、乗り越えようと頑張るんだけどな」

「随分と酔狂な人たちなのよ」

「酔狂とか言うな」

「この世界の神族のよ、人間界に影響を及ぼさないのよ。ただ見てるだけなのよ。見て楽しんでるだけなのよ」

「そうなのか?」

「……そう書いてあるのよ」


 ああ、勇者小説にそう書いてあるのか。

 ……それならそれで、そういう物があると知れ渡っていてもおかしくないような気がする。

 レイモンドさんは少なくとも勇者小説を読んでいる。

 禁書に当たる部分なのだろうか。

 なんか、俺も少し興味が出てきたな。

 今度お勧めの短編でも、聞いてみようか。

宗教云々は、扱いが難しいやねー

ということで、この物語ははフィクションです

現実となんら関係ありません

なのです


次回は実食です

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