第78話 魔獣発見
フブキに乗って、荒廃した土地を走り抜ける。
周囲をタイム・ライムの双子が警戒する。
俺たちはというと……特にすることがないから困ったもんだ。
ただ単にフブキに乗ってデートを、いや散歩をしているようなものだ。
それでも一応周囲を警戒している。
双子の警戒を抜けてくるとは思えないが、格好だけでも付けておかないと、遊んでいるような気がして申し訳なくなってしまう。
それが分かっているのかいないのか、時子も俺にしがみつきながら、頭を左右に振っているのが、背中で感じ取れる。
右に左に頭が振られるたびに、額で背中をグリグリ擦られているからだ。
「なんにも無いね」
「そうだな。足跡すらない」
ここは風が吹かないから、足跡がかき消されることはない。
足跡が無いということは、ここを通った者が居ないということだ。
「マスター、こっちに人の足跡があるよ」
「本当か。フブキ、2時の方向に行ってくれ」
「わうっ!」
双子姉が居るところまでのルートナビを表示させているが、これは俺にしか見えない。
フブキを道案内して、双子姉の所に向かってもらう。
「マスター、こっちこっち」「ちー」
双子妹も既に合流していて、足跡を見ている。
「これか。えっと……3人か?」
「そうだね。この足跡だと、民間人の可能性は無いよ」「よー」
民間人……
その言い方だと、俺たちは民間人じゃないみたいで好きじゃないな。
というか、この状況で民間人の足跡があるのは、不自然だ。
仮にあったとしたら、間違いなく要救助者なのだと思う。
「どうしてそう思うんだ?」
「レイモンドさんの靴底と同じなんだよ」「だよー」
「中央省関係の人か」
「たぶん」「たぶーん」
「分かった。レイモンドさんに繋いでくれ」
「ラジャー!」「ブ・ラジャー!」
「じゃ、タイムはちょっと行ってくるね」
タイムがエイルの身分証を通じて、向こうへ一端帰る。
暫くすると、モニターが浮かび上がって、レイモンドさんが映し出された。
「レイモンドさん」
「やあ、僕になにか用かい?」
「足跡がありました」
モニターの向こうで、タイムが足跡の画像を、レイモンドさんに見せている。
「ほほう、僕のデータと照合したら、魔獣の痕跡を見つけた定期調査隊のもののようだね。それを追っていけば、魔獣が居る可能性が高いはずだ。十分、気をつけるのだよ」
「分かりました」
「分かっているだろうけど、僕は改めて言うよ。見つかったら、連絡するんだ。ここに戻ってきては駄目だよ」
「はい」
……戻ってくるな、か。
拠点を知られないためなんだろうけど、裏を返せばみんなのために犠牲になれ、とも取れる。
考えすぎか。
戻ってきたタイムが先行して、足跡を追う。
双子が周囲の警戒をする。
フブキは足跡を壊さないように、跡を追う。
俺はタイムの見ている光景をARでモニタリングしている。
時子は俺にしがみついて、額を背中に擦り付けている。
……完全に俺たち、お荷物だな。
タイムとフブキが居れば、斥候くらい楽勝なのでは?
隠密性を考えたら、〝タイムだけ〟が一番いい気さえしてしまう。
とはいえ、タイムが何処まで俺から離れられるか分からない。
遮蔽物がなければ何処までもいける……なんて都合のいい話はないだろう。
そろそろ戻らないといけない時間になってきた。
そんなとき、タイムの視界に動くものが見えた。
『タイム』
『うん、魔獣だと思う。レイモンドさんの言ってたとおり、オオカミみたいだね』
『双子姉・双子妹、そっちは?』
『大丈夫だよ、前方以外、気配は無いよ』
『こっちもー大丈夫だよー、前方以外、気配は無いよー』
魔獣までの距離は、およそ1300メートル。
左目では、全く分からない。
こっちはバレていなさそうだ。
時間も時間だし、地図にマーカーだけ付けて戻るか?
「タイムが魔獣を見つけたって」
「え、居るの?」
「うん。ほら」
魔獣の姿を幻燈機で映し出す。
何気なくやっているが、こういったこともタイムがしてくれている。
いちいち言葉で伝えなくてもやれてしまう。
以心伝心だ。
バスを乗り過ごしたとき、世界地図を見せるのに、一苦労したのが懐かしい。
「えっと……何処?」
「あ、ごめん。ほら、ここだよ。まだ遠いけど、オオカミっぽい魔獣が居るでしょ」
タイムから魔獣までの距離は、およそ100メートル。
ほぼ点にしか見えないが、四足歩行のなにかというのは分かる。
「随分黒いね」
「そうだな。灰色を通り越して、黒に近いな」
「1匹だけ?」
「オオカミなら群れているはずなんだけど。んー、数も知りたかったけど、あの体色で暗闇に紛れられたら厄介だ。もう暗くなるし、一旦戻ろう」
「そうだね」
「そんなわけだから、マークだけして戻ろう」
「分かった」
「フブキ、戻るぞ」
フブキは頷くと、踵を返した。
尻尾で足跡を消しながら、ゆっくりと戻る。
「マスター、レイモンドさんに報告しておいたよ」
「分かった。なにか言ってたか?」
「気をつけて戻ってこいってさ」
「そうだな。戻るまでが斥候だ。気を抜くなよ」
「うん」
「ラジャー」「ブ・ラジャー」
フブキは頷き、足跡を消しながら歩いて行く。
漸く魔獣登場です
見えただけですけど
次回はご飯ですよ(桃屋ではありません)




