第77話 拠点設営
予定より遅れて麓に着いた。
以前は木々が生い茂っていたのかも知れない。
しかし今ははげ山だ。
枯れ木すら無い。
これが薄魔素化の影響なのか。
ここまでもそうだったが、これほどとは思っていなかった。
「それでは、僕たちは拠点を設営するよ。モナカ君たちは、斥候を頼んだよ」
「「「はい」」」
「分かったのよ」
「じゃ、僕は見ているから、頑張るんだよ」
え、見ているだけ?
「レイモンドは手伝わないのよ?」
「そうだよ、僕の目的は君たちの力を見ることだからね」
そういえば、異世界人は強いから魔獣で実力を見る、みたいなことを言っていたな。
「安心したまえ。危険だと判断したら、僕も手を貸すよ」
「そうなったのよ、不合格なのよ?」
「そんなことはないよ、僕だって仲間なんだ。頼ってくれていい。ただ、目に余るようなら、中止も止むなしと思っているよ。タイム君、その膜の中の魔素濃度は、調節できるかい?」
「できるよ」
「では、僕の言うとおりに調節してくれるかい?」
「分かったー」
「それじゃ、偵察に行ってきます」
「モナカくん、トキコさん、気をつけてね」
「アニカもな」
「いいかい、僕は期限を設けるよ。見つけても見つからなくても、日が暮れる前に戻ってくるんだ。ただし、魔獣に見つかった場合は、直ぐに連絡するんだ。間違っても真っ直ぐここに戻ってくるような真似はしないように」
「分かりました。行ってきます」
「行ってきます」
「わうっ」
「行ってらっしゃい」
「気をつけるのよ」
「うん、僕は送り出すよ。健闘を願う」
モナカたちが斥候に出る。
危険をはらんだ任務でもある。
残った方が安全ではあるが、危険が無い訳ではない。
拠点を、モナカたちが帰ってくる場所を、守らなくてはならない。
「さて、僕は危機管理を提唱するよ。アニカ君、精霊に周囲の警戒を頼んでくれたまえ」
「精霊に、ですか?」
「そうだ、君たちは設営しないといけないからね。自由に動けるのは、精霊だけなのだよ」
「そうですね」
アニカは、フレッドから貰った例の杖を取り出して構える。
「龍魚、出ておいで」
アニカの周りに泡が幾つも現れた。
泡が弾けると、透明な小魚が何匹も現れた。
そしてアニカの周りをグルグルと、遊泳しはじめた。
〝女将ー女将ー〟
〝遊んでくれるのー?〟
〝わーい〟
〝なにするなにするー?〟
龍魚たちの声は、アニカにしか分からない。
他の人には、泡が弾けるような音にしか聞こえない。
「えっとね、宝探しをして欲しいんだ」
〝宝探しー?〟
〝なに探すのー?〟
〝ねえねえ、なにー〟
「ここの近くにいる動物とか、人とかを探して欲しいんだ」
〝動物ー?〟
〝人ー?〟
「うん。相手に見つからないように、探すんだよ」
〝分かったー〟
〝宝探しとー〟
〝隠れんぼだねー〟
〝わーい〟
龍魚たちが四方に飛び去っていく。
どうやら、アニカはうまく頼むことができたようだ。
「できたのよ?」
「多分」
「まず初めに、僕たちの拠点を設営する場所に積もっている灰を除去しようか」
「分かったのよ」
「はい」
辺りにはなにも無い。
身を隠す木々もなければ、障害物のようなものもない。
見晴らしはいいが、それは相手に見つけられやすいとも言えよう。
それはつまり、拠点の場所を考える必要が無いということだ。
地面がデコボコということもない。
〝灰〟はそれほど深く積もってはいない。
マスクをしながら、持ってきたスコップで灰を除去していくエイルとアニカ。
行動できる範囲が狭いので、余計に時間が掛かる。
マスクのせいで、呼吸もし辛い。
〝灰〟を除去すると、地面が現れた。
毒素で汚染はされていないが、活力があるとは言いがたい。
植物が一切生えていないことからも、証明できるだろう。
色的には普通の地面より少し薄く感じる。
エイルが土を掴む。
握るとボロボロと崩れた。
乾燥しているのではない。
魔素が抜けて、形状を保つのが困難なのだ。
「エイル君、僕は触らない方がいいと思うのだよ。エイル君自身の薄魔素が進むかも知れない。ほら、これで手を洗いなさい」
レイモンドさんが水筒から水を流す。
その水でエイルが手を洗う。
水筒の大きさからは、出てくるはずのない量の水が、出てくる。
水筒は、いわば携帯できる蛇口と同じだ。
魔力を流し込みさえすれば、水が出てくる。
つまり、モナカと時子には使えないということだ。
地面に落ちた水は、溜まることなくあっという間に吸い込まれていった。
「うちの薄魔素が進むのよ?」
「ああ、僕自身も進んでいるのだよ。君たちは膜で守られているから、あまり進んでいないだろう。しかし土に触れるなら話は変わってくる。土が君たちの魔素を奪っていくんだ。だから靴底の劣化も早いのだよ」
薄魔素の中では、風化のようなものが加速して起こる。
魔素の取り込みより、放出の方が多くなるからだ。
魔素の薄くなったものに触れると、魔素を奪われる。
守る術を知らぬ者では、長く耐えられない。
だから薄魔素の中に居ると、身体がキツいのだ。
「次は、僕たちの寝床、テントを張ってみよう」
レイモンドが背負ってきた荷物は、全員が寝泊まりできるほどの大きさのテントだ。
折りたたまれて小型ではあるが、それでもそれなりの重量がある。
エイルなら背負えそうではあるが、着替えや武器を持つのは困難だろう。
アニカでは、背負うことすら不可能だ。
そんなものを軽々と背負い、他にも荷物を積み込んでいる。
結界外調査部に所属しているだけのことはある。
まずはテントを広げる場所にシートを敷く。
これはテントを地面から守る為だ。
シートが劣化したなら、シートだけ交換すれば済む。
続いてその上にテントを広げる。
テントの対角線上にポールを置き、中心で十字に繋げる。
そしてポールをテントに結びつける。
ポールをテントの四隅にある穴から地面に突き刺すと、テントが立ち上がった。
初めてでも、時間が掛からずに設置することができた。
「さて、僕は構わないが、女性のためにトイレを作ろうか」
草むらでササッとできればいいが、草むらなんてここにはない。
川が流れていれば、そこに設置するのが楽でいいだろう。
だが川もない。
だから簡単なものを作る。
まずは十分な深さの穴を掘る。
次にテントを設置する。
組み立て方は先ほどと同じだ。
あまり大きくなく、床部分も無い。
最後に、穴の上に組み立て式の簡易便座を置けば完成だ。
使ったら土を被せ、最後は穴を埋めるだけ。
長期間使うのではないから、これで十分ということだ。
「仕上げに、僕は女性の料理が楽しみなのだ。だから炊事場は必須だね」
炊事場といっても、かまどを組んで薪を燃やすなどといったものではない。
折りたたみのテーブルを組み立てるだけだ。
フライパンや鍋は、魔力を通せば温まる。
火に掛ける必要はない。
調理道具も一式揃っている。
「それでは、僕たちの夕飯を作ろう。モナカ君たちも今こっちに向かっているようだよ」
エイルとアニカが炊事場に立つ。
エイルは普段夜食を自分で作っている。
といっても、お茶漬けレベルだ。
凝っていても、せいぜいベーコンエッグレベル。
アニカは、そもそも自分で料理をしたことはない。
トレイシーの手伝いで、包丁を使ったことがある程度。
煮たり焼いたりといったことは、まだしたことがない。
タイムたちは魔素透過膜の維持で手一杯。
レイモンドは、見ているだけ。
つまり、戦力はエイルとアニカの2人だけとなる。
果たして、まともなものが出来上がるのだろうか。
普通にキャンプっぽい……
拠点感が乏しいなぁ
次回は魔獣探しの旅(?)です




