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第75話 薄いのに濃い

 馬車に揺られること5時間、漸く中継地点に着いた。

 馬車は中継地点に(とど)まらず、出張所に戻るという。


「ホントは最後まで送りたかったけど、主人は戦闘がからっきしなのよ。ごめんなさいね」

「ニファシー! 余計なことは言わなくていいっ」

「いえ、ありがとうございました」

「ああんアニカ様、お優しいお言葉。身体の芯に響くわぁ」

「貴様っ! 俺様のニファシーを誘惑してどうするつもりだっ」

「ごめんなさい。そんなつもりは……」


 お礼を言っただけで誘惑になるのか?

 それだけアニカの言葉は、精霊にとって魅力があるということか。


「さて、僕たちはここからは徒歩で向かうとしよう」


 魔獣が観測されたのは、ここから更に徒歩で2時間ほど行った山中(さんちゅう)だ。

 出張所の巡回班が、魔獣らしき足跡を見つけたという。

 だから姿は確認されていない。

 足跡からオオカミ類だと思われる。

 その確認と、できれば討伐をするのが目的だ。

 魔獣討伐が、今日1日で終わるとも限らない。

 それに結界外探索許可試験では、野営試験を受けていない。

 ついでにやってしまおうという腹づもりなのか?

 今から行くと、山に入る頃には大分日が傾いているだろう。

 だからちょうど良いという。

 今回は短期というのもあり、荷物は各自背負ってきている。

 俺1人手ぶらというのが、ちょっと申し訳ない。

 時子でさえ、着替えを背負っている。

 アニカやエイルも、さほど大きくはないが、背負っている。

 フブキは食料などをぶら下げている。

 一番大きな荷物を背負っているのは、レイモンドさんだ。

 恐らくテント類と思われる。


「それでは、僕は確認をするよ。馬車でも話したけれど、現地に着いたらモナカ君と時子君はフブキ君に乗って斥候(せっこう)をしてもらう。魔獣を見つけても、突っ込まないように。いいね。できれば何頭居るか知りたいところだが、彼らも馬鹿じゃない。見つかる前に戻ってくるんだ」

「「分かりました」」

「その間に、僕たちは拠点を設営するよ。アニカ君は精霊に周囲の警戒をさせるんだ」

「精霊にですか?」

「そうさ、僕は知りたいんだ。アニカ君の力を見る為にも必要なことなのだよ」

「そうですね。分かりました。なんとかみんなに協力してもらいます」


 徒歩で2時間……といっても、それは平坦な道を行く場合だ。

 既に道は荒れ、崩れた建物が道路を塞いでいる。

 陥没しているところも少なくない。

 普通廃墟といえば、倒壊した建物が、植物に覆われていたりするのを想像するだろう。

 ところが、植物が一切見当たらない。

 雑草ですら、生えていない。

 枯れ草くらい……と思うだろう。

 それすら見かけられない。

 だから当然生き物も居ない。

 建物に使われていた木材すら、既に無くなっている。

 立ち枯れした木も見かけられない。

 本当に、植物という植物が無いのだ。

 あるのは例のコンクリートもどきと石材だけ。

 それらも、手で触ると脆く崩れてしまう。

 舗装されていた道路も、その上を歩くとまるで雪の上を歩いているかのように足跡が付いた。


「廃墟というより、死地のようですね」

「そうだね、僕もそう思うよ。それでも〝結界の外〟よりは、まだマシなのだよ」

「これでマシなのよ?!」

「そうだ、僕は肯定するよ。ここは〝結界の中〟だからね。毒素もほぼ無い。魔素も濃い」

「これで濃いんですか?」

「ここが濃いのよ、タイムちゃんのお陰なのよ」

「いやいや、僕は否定するよ。確かにタイム君のお陰で君たちの周りは魔素濃度が濃い。そしてその魔素透過膜の外は確かに薄い。それでも〝外〟と比べたら濃いのだよ。アニカ君、試しに膜の外に出てみるといい」

「外に……ですか」


 魔素透過膜の範囲は決して広くない。

 半径2メートルの半球くらいしかないと、タイムは言う。

 しかも遮蔽物に弱いとも。

 あまり広くしてしまうと、時子による給電が追いつかなくなってしまう。

 このくらいの範囲なら、常時運用できる。

 その範囲からアニカが一歩踏み出す。

 が、直ぐに中へ戻った。

 いや、後ろに倒れ込んだと言った方が、正しい。

 地面から、白い灰のようなものが舞い上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ、う、げほっごほっごほっ」


 舞い上がった灰のようなものを吸い込んでしまったのか、咳き込んでいる。

 息を吸いたくても、思うように吸えないようだ。

 なのに、俺や時子は普段と変わらずにいられる。

 この差はなんなんだ。


「こ、これで、濃いん、はぁ、ですか?!」


 それに対し、レイモンドさんは膜の外に居るというのに、辛そうに見えない。


「そうだよ、僕は肯定するよ。早く慣れてもらわないと困るのだよ」


 これが慣れの差なのだろうか。

 身体の鍛え方が、根本からして違うような気がする。


「それと、白い灰はさほど問題ないが、色の付いた灰は吸うと危険だ。覚えておきなさい」

「はい、はぁ、はぁ……慣れられる、気がしません」

「ならば、僕は忠告するよ。決してこの膜の外に出ないことだ」

「は、はい」

「しかし、僕は危惧するよ。〝外〟でこんな狭い範囲だと、襲われたら終わりなのだよ」


 確かにそうだ。

 いや、外でなくとも無理なんじゃないか?

 とにかく、今は目的地に到着することが第一だ。

次回も移動です

そしてとあることが、とうとうバレてしまいます

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