第74話 魔獣と毒素
「エイルさん、もういいよね。例の奴、試すよ」
「分かった、のよ」
タイムが頭上に立ち、四天王が地にて四角形を形成する。
四盾結界は三角錐だが、今回は四角錐なのか?
「エイルさん、貼り終わったよ。後は暫く待ってね」
「タイム、なにをしたんだ?」
「魔素を透過する透明な膜を張ったんだよ」
「膜?」
「うん。だから、この中は魔素濃度を高めることができるんだよ」
「理論上の、話なのよ。この膜のよ、魔素を通し、て……逃がさないのよ」
「そうなのか?」
「素晴らしい、僕は感動したよ。確かに少しずつだけど、魔素濃度が上がってきているよ」
レイモンドさんは身分証を見て、テンションを上げている。
魔素濃度計が付いているらしい。
そういう機能がないと、ここでは命取りになるのだろう。
「タイムちゃん、どうなのよ?」
「うーん、あんまり効率がよくないよ。多分ここは魔素が淀んでて動きがないからだと思う。質もあまり良くないみたい」
「移動した方のよ、いいのよ」
「そうだね、僕もそう思うよ。取り敢えず、中継地点に移動しよう」
「中継地点ですか?」
「そうだよ、僕は説明するよ。いくつか魔素溜まりのようなところがあるのだよ。そこを休憩所のようにしているのさ。目的地はそれなりに距離があるからね。ということで、馬車で移動だ」
「馬車?」
「もしかして……」
「ふふっ、僕は言ったよね。〝そうも言っていられない〟って」
建物の影から、1台の馬車が出てくる。
とても見覚えのある馬車と精霊だ。
会いたくはなかったが、例の御者も居る。
「ああん、アニカ様っ。貴女のニファシーが参上したのですよ」
「誰が誰のだって? 貴様、また嬲られたいのかっ」
「もう。主人ったら、直ぐ焼き餅焼くんだから。やぁねー」
到着早々、なにやってんだこの2人は。
よくこんなんで主従関係が続くな。
しかし、ニファシーはともかく、あの御者はこの薄魔素の中、普通に振る舞っているように見える。
「それでは、僕は移動しながら説明するよ」
タイムが客車を中心に膜を張る。
可哀想に。御者は膜の外だ。
「入れてあげられないのか?」
「マスターと時子がもっとくっつけば、膜を大きくできるよ」
「ん、分かっ――」
「我慢してもらおうそれがいいよ、うん」
「時子?」
やはり先輩ではないから、あまりくっつきたくはないんだな。
「そうだな。タイム、現状維持だ」
「分かった」
「ほっ」
あからさまにホッとされると、ちょっと悲しくなる。
とはいえ、今は時子に後ろから抱き付かれている。
十分くっついていると言えなくもない。
タイム……これ以上くっつくって、どうするつもりだったんだ?
「いいかい、僕たちの目的は、毒素に侵された魔獣の討伐だ」
レイモンドさんたちは、客車の中だ。
それに対し、俺と時子はフブキの背中の上だ。
このままだと客車の中の会話は聞こえないし、こっちの声も届かない。
そこで、タイムの出番だ。
客車の中の映像を、目の前に投映してくれている。
俺だけならARでいいが、それでは時子が見られない。
なので幻燈機の出番だ。
そして俺たちの映像も、客室に投映されている。
タイムによる遠隔地会議みたいなものだ。
勿論、映像だけでなく、音声もお互いに聞こえている。
「なんの魔獣なのよ」
エイルの顔に辛さは見られない。
アニカも大分マシになったようだ。
例の膜とやらは、きちんと働いているようだ。
「それはね、僕が思うに、オオカミなのだよ」
オオカミ、か。
フブキは犬だから、ご先祖様みたいなものか。
※狼です
「モナカ、戦えるのよ?」
「え、なんで?」
「相手はオオカミなのよ」
「それは聞いたけど……」
オオカミはオオカミだ。
幾らフブキのご先祖様みたいなものとはいえ、実際にご先祖様という訳でもない。
それに群れで統制が取れていると、厄介な相手でもある。
手加減をすれば、こっちが危ない。
「いいかな、僕は話を続けるよ。オオカミは群れになっている。数は分からない。少なくとも10は居ると思って欲しい」
「それほどの群れが食べていけるだけの食糧なんて、あるんですか?」
魔獣といえども、食べていかなければ死んでしまうだろう。
こんな荒廃した土地に、食料となるような物があるのか、疑問だ。
「そうだね、僕も不思議に思うのだよ。そもそも魔獣の生態は、あまり分かっていないのだ。一説によると、決まった食糧という物がないらしい」
「決まった?」
「そうなんだ、僕も聞いた話なんだ。雑食というわけでもない。毒素を食べているところを見たという報告もある」
「毒素を?」
毒が含まれているものを食料にする生物が居るのは知っている。
しかし毒そのものを食料にしている生物なんて……
そういえば、海底の噴水口だっけ。
人には猛毒だけど、それを栄養源にしている生物もいる。
酸素だって元々は猛毒だ。
そういうことなのか。
「そうらしい、僕は見たこと無いけれどね」
「食糧が毒素なら、人間に害は無いんじゃ? 益獣とは違うんですか?」
「確かに、僕もそうだと良かったと思うよ。そう考えた一部の研究者の結果が、第3都市なのだよ」
「第3都市が?」
「ああ、僕は悲しいよ。確かに魔獣が好んで人を襲うことはない。しかし毒素を溜め込んだ魔獣は、周囲の魔素を汚染するんだ」
「汚染ですか」
「だから、僕たちは魔獣を倒さなければならないのだよ。汚染された魔素は、魔素同士の結合を阻害する。だから魔獣が通った後は、ボロボロになる。だから武器防具のメンテナンスが必須なのだよ」
なるほど。
〝結界の外〟でメンテナンスが必須技能というのは、そういうことがあるからなのか。
今回はいわば〝結界の外〟の模擬戦みたいなものになるのだろう。
気を引き締め直さなければならないな。
次回はいよいよ魔獣討伐の為に、移動します




