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第73話 なにを糧に生きているのか

「フブキー! 元気だったか?」

「わうっ!」


 朝ご飯を食べ終えた俺たちは、腹の虫の我が儘(わがまま)に耐えながら、フブキの居る拘束室にやってきていた。


「時子、ダイエットよりご飯食べたいよ」

「我慢するのよ。フブキはもっとひもじいと思うのよ」

「そうだよね。時子、我慢する」


 魔獣討伐は、当然フブキも参加する。

 フブキなら問題ないだろうけど、心配事はある。

 魔獣は心配していない。

 問題は毒素の方だ。

 人間より動物の方が、影響を受けやすいという。

 だから最初、連れてこなかったくらいだ。

 フブキが毒素に冒され、魔獣化したらどうすればいい。

 ……俺がフブキを倒し、俺も自害する。

 いやダメだ。

 タイムを道連れにすることはできない。

 タイムだけでも……


「マスター!」


 前のマスターとかいう人に、タイムを返せばいいのか?

 やっぱりタイムも、俺より前のマスターの方が良いのかな。

 だから俺を時子に押しつけて、自分は前のマスターのところへ。

 もしかして、最近エイルと色々しているのは、その方法を探すためなんじゃ。

 タイム、そうなのか?

 ダメだな、悪い方にばかり考えてしまう。


「マスター、どうしたの?」

「え?」

「フブキが苦しがってるよ」


 フブキが苦しがっている?

 そう言われてハッとする。

 フブキの首に抱き付くのはいつものこと。

 なのに俺は、その腕に力が入りすぎていたようだ。


「フブキゴメンっ」


 俺はフブキから離れた。

 普段ならこんなことになるはずがない。


「どうしたの?」


 心配そうな顔で俺を覗き込むタイム。

 こういう顔は、タイムには似合わない。


「いや、ちょっと考え事を……」

「フブキと居るのに、他のこと考えてたの? 変なマスター、ふふっ」


 こういう笑った顔の方が、断然良い。

 やっぱり、先輩同様、前のマスターも探さないといけないな。

 でもタイムは前のマスターのことを、全然話してくれない。

 先輩以上に探しようがない。

 そもそもこっちに居るかすら分からない。


「マスター、まだ考えてるの?」

「そうだな。やっぱりこの拘束室は、あまり快適とはいえないな。せめて寝藁くらい欲しいかな」

「わうっ」

「床は冷たくなかったか?」


 拘束室は、この世界にしては珍しく、鉄製のようだ。


「鉄製ですか? 珍しいですね」

「そうだね、僕も拘束室以外では、あまり見かけないよ。鉄は魔力を通さないからね。僕たちにとっては、相性最悪なのさ。だから拘束には向いているのだけれど。加工も難しいから、あまり利用できないということもあるのだよ」

「そんな部屋にフブキを?」

「分かっているよ、僕は既に手配済みだよ。場所は変えられないけれど、帰ってくる頃には、もう少し快適になっているはずさ」

「そうですか」


「……」

「時子? どうしたのよ」

「モナカくんがフブキちゃんと一緒に居るのに、レイモンドさんと会話してる」

「それがどうかしたのよ?」

「エイルさんはなにも思わないんですか? あのモナカくんがだよ」

「時子は誤解してるのよ」

「誤解?」

「確かにモナカは犬中毒(ドッグホリック)なのよ。でもそれは散歩のときだけなのよ」

「散歩のときだけ?」

「そうなのよ。狩りのときのよ、モナカはどうなのよ?」

「……あ」

「分かったのよ? モナカは一応切り替えることができるのよ」

「それでトレイシーさんを認識できていたんだ」

「母さんもそんなことを言ってたのよ。母さんは狩りのときのモナカを知らないのよ。だから仕方が無いのよ。でも時子は狩りのときのよ、モナカを知ってるのよ」

「う、うん」

「もう少しのよ、モナカときちんと向き合うのよ」

「うみゅ……」


 拘束室を出て、ゲートへと向かう。

 ゲートは主張所の中にあり、許可の無い一般人は通ることができない。

 このゲートが唯一都市結界の外へ出ることができる出入り口だ。

 ゲートは二重構造になっていて、まるで宇宙船の気密室のようだ。

 魔素濃度を保つために、そこまでしているのか。

 当たり前といえば、当たり前か。

 逆に言えば、結界凄いな。

 これだけ大規模な結界を管理、維持しているんだ。

 相当な技術があるんだろう。

 それでも尚タイムの結界を欲しがっている。

 大規模技術はあるけれど、小規模はないってことか。

 しかも言い方は悪いが、持ち運べる結界だ。

 利用できるなら、利用したいと思うのも無理はない


「マスター、試したいことがあるから、絶対時子の手を離さないでね」

「ああ、そのつもりだ」


 時子を握っている手に力が入る。


「時子も、いいよね」

「分かってるよ」


 時子もぎゅっと握り返してくれる。


「……」

「ん、なに?」

「ああ、今日もスカートにジャージはいているなと思って」

「あはは、これでフブキちゃんに乗れるんだよ」

「そうなんだ」


 それって、スカートはかなくても良いんじゃないの?

 女の子のファッションは、分からないな。

 そうこうしているうちに、全員が気密室に入った。

 別に特別な防護服を着る、といったことはしない。

 扉がぴっちり閉まると、なにかが抜ける音がし始める。


「これのよ」

「ちょっと、息苦しいですね」

「そうなのか?」

「そうなのよ」

「時子はなにか感じるか?」

「んーん、なにも」

「へえ、僕は驚いたよ。異世界人でも辛く感じるのに、君たちみたいになにも感じない異世界人は初めてだよ」

「他にも異世界人を連れて出たんですか?」

「まあね、僕が連れ出たのではないけれど。そういう研究報告を受けているよ」

「研究報告?」

「おっと、僕は余計なことを言ったようだ。すまないが、忘れてくれると嬉しい」

「はあ」


 つまり異世界人ですら、魔素が抜けると息苦しく感じる。

 なのに俺たちはなにも感じない。

 やはり純粋な元素世界の人間だから、なのだろうか。

 ……なら俺たちは、どうやってここで生きているんだ?


「フブキは大丈夫か?」

「わふっ!」


 どうやら辛くなさそうだ。


「結構、辛いのよ」

「まだ、抜けるん、ですか?」

「もう少しだ、僕は予定を変更するかも知れない。今日は身体を慣らすだけにしておこう」

「すみません」

「大丈夫、なのよ」

「エイル、無理するな。既に息が上がっているじゃないか」

「マスター、大丈夫だよ」

「大丈夫って、どう見ても大丈夫じゃないだろ」

「まぁまぁ、タイムに任せてっ」


 タイムは自信満々で、無い胸を張って、ドンと叩いた。


「そうか? まあタイムが大丈夫って言うなら、信じるけどさ。エイルとアニカはどうなんだ?」

「うちは、うちを信じて、るのよ。だから、大丈夫な、のよ」

「ボクは、モナカくんを、信じるよ。だから、タイム、ちゃんも信じるよ」


 そこは素直にタイムを信じて欲しいのだが……


「わかった。なのでレイモンドさん、予定通り行きましょう」

「いいのかい、僕は確認するよ」

「いいのよ」

「はい」


 減圧……じゃないか。

 減魔素? が終わったらしく、外に繋がる扉の上のランプが、赤から青に変わった。

 扉が開いて外の景色が見えるようになる。

 そこには、また町並みが続いている。

 しかし、人の気配は感じられない。

 人だけではない。

 動いているものが見当たらない。

 風が吹きすさぶとか、丸くなった枯れ草が転がっているとか、そういうのを想像していただけに、拍子抜けした。

 ただ静かに、廃墟が立ち並んでいる。


「アニカ、大丈夫か?」


 見て分かるほど、アニカは息が苦しそうだ。

 エイルは平静を装ってはいるが、辛いのかも知れない。

 それを見せないように、耐えているのだろうか。


「ふふっ、やっぱり、かなりキツい……よ。はぁ、はぁ」


 アニカを脇に抱えて支えてやる。


「ありがとう」

「無理するな。タイム、大丈夫なのか?」


 疑いたくはないが、アニカの辛そうな様子を見ると、そうもいっていられない。


「大丈夫だよ。タイムとエイルさんの成果を見ててよ」

「タイムとエイルの?」

「うん。タイムは最初からって思ったんだけど、エイルさんが薄魔素(はくまそ)がどんな感じなのか、知っておきたいんだって」

「そうなのか。エイル」

「思ってたのよ、辛いのよ。耐えられ、なくは、ないのよ」


 そうはいうが、ギリギリな感じがする。

 アニカに至っては、ノックアウト寸前だ。

 本当に大丈夫なんだろうな。

次回、我が輩は御者である。名前が付くことは多分ない。

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