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第65話 魔力ゼロの壁

「モナカくん」

「ん?」

「もういいんじゃないかな」

「あっ、ごめん」


 抱き締めていた時子を解放した。

 緊急事態だったとはいえ、抱き付いた上にほっぺたまでくっつけてしまった。

 さすがにちょっと恥ずかしい。

 とはいっても、かなりバッテリーを使ってしまった後だ。

 うつむき気味の時子の手を取る。

 振り払われるようなことがなくて、ちょっとホッとした。

 バッテリーが減ったからって、腹が減る訳ではない。

 身体が(だる)いといったこともない。

 これといって、身体的な異常が感じられないという。

 携帯(スマホ)でさえ、バッテリーが少なくなると省電力モードになって、動きが悪くなるというのに。

 まるでHP1の瀕死状態でも、何事もないかのように戦える、ゲームのキャラみたいだ。

 ……本当は異世界じゃなくて、ゲームの世界とかいわないよな。

 考えたところで、分かる訳もないか。

 そういえば、肌の接触面が増えると、充電効率が上がるんだっけ。

 試しに繋いだ手の指と指を、絡ませてみるか。


「はひっ! モ、モナカくん?!」


 驚いた時子が離れようとした。

 しかし、指が絡まっていて離れられなかった。

 絡ませた指がちょっと痛い。

 なんの説明もせず絡んだのは、良くなかったかも知れない。

 一応、説明しておくか。

 レイモンドさんたちに聞かれないよう、耳元で囁く為に時子を引き寄せた。


「わわっ」


 勢い余って時子が胸に飛び込んでくる。

 ちょっと強く引きすぎたかな。

 まあいいや。

 どうせだから逃げられないように、腰に腕を回して抱き寄せてしまおう。


「にゃっ!」

「ほら、今回バッテリーをいっぱい使っただろ。で、肌の接触面が増えれば充電も早くなるかなって思って。ほら、この方が効率的でしょ」

「み、みみみ耳元で(ささや)かないでっ」

「いや、聞かれたら不味いし。俺の最大の弱点でしょ」

「ひうっ。分かった! 分かったからっ。耳から離れてっっっっっ」


 時子はしゃがみ込むと、俺が話しかけていた耳を手で覆った。

 フーフーと息を荒げ、顔を下に向ける。

 あれ、前にも似たようなことがあったような……

 もしかして時子は耳が弱いのか?

 ふむ、攻めポイントとして覚えておこう。


「いちゃついてんじゃないのよ」

「いちゃついてないっ」

「いちゃついてないよっ」

「息がぴったりなのよ」

「当たり前だっ」

「偶然だよっ」

「ふっ、まだまだなのよ」


 くっ、中々難しいものだな。

 少し落ち着いたのか、時子が立ち上がった。

 しかし俺を見てくれない。

 絡んでいる指も、ピンと伸ばしたままだ。

 やっぱり、こういう繋ぎ方は嫌だったのかな。

 普通の繋ぎ方に戻そうと思い、指を広げようとした。

 そのとき、時子の指の力が緩んだ。

 そしてゆっくりと指を曲げ始める。

 指のひらが手の甲に触れると、反射的に指が開いた。

 しかし再びゆっくりと指を曲げ、今度はそのまま握ってくれた。


「ありがとう」

「充電の為だからねっ。それ以上の意味はないからねっ」

「あ、ああ、そうなんだ……」


 〝それ以上の意味〟って、なにかあるのか?

 聞いても、教えてくれないんだろうな。

 せめて顔を合わせてくれないかな。

 嫌々やらせている感じがして、ちょっと辛い。


「時子? 顔が赤いのよ」

「照れてないっ!」

「そんなこと言ってないのよ」

「うぐぅー」


 もしかして、照れているのか?

 まあいつもと違って、変な手の繋ぎ方してるからな。

 指と指の間って、普段なにかに触る事って無いから、感触が新鮮だ。

 それに普通に握るより、相手の体温を感じられる。

 より繋がってるって感じがしていい。

 ……だから充電効率がいいのかも知れない。


「なるほど、僕は問題が分かったよ。つまり、魔力パターンが合わなかったんだね」


 レイモンドさんにとって、俺と時子の事なんてどうでもいいことなのだろう。

 気にもとめずに、今回の問題点を分析していたようだ。

 その方が助かるから、いいけど。


「どういうことですか」

「それはね、僕も盲点だったんだよ。身分証に登録された魔力パターンはゼロだ。ところが魔力パターンがゼロだとセンサーが認識しない。認識しなければパターンを比較することもしない。だから魔力パターンゼロとアニカくんの魔力パターンを比較して、一致しなかったから警報が鳴ったのだよ」

「「なるほど」」

「そうなのよ」


 魔力ゼロでも登録できるのが問題なのでは?

 まあこの世界に魔力ゼロの者なんて、存在しない。

 存在しないものを考慮して作るのは、経費の無駄ということか。


「どうゆうこと?」

「どうゆうことですか?」


 時子とアニカが理解できないのは、いつものことだ。

 でも今回はタイムが理解できている。

 随分と賢くなったものだ。


「だからね、僕は提案するよ。君たち2人は身分証をタッチさせなくていい。エイルくんとアニカくんのどちらかと一緒に行動するんだ。供連れになってしまうが……、問題ないよね」


 レイモンドさんが保安部を睨み付けた。

 最後の一言だけ、凄みが効いている。

 意識を取り戻した隊長が、渋い顔をしながら「分かりました」と返事をした。

 ……あれ?

 折角身分証で自由に扉を開け閉めして出入りできるようになったと思ったのに、セキュリティの所為でやっちゃダメって事?!


「なるほど、僕は勉強になったよ。この世界のありとあらゆるものは、魔力ゼロを考慮していないのだよ。だから不具合が出てしまう。君たちが異世界人だと、改めて思い知らされたよ」


 いつになったら俺は独り立ちできるんだ!

次回、尿意が芽生えます

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