表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/233

第61話 待ちきれない

 目的の駅が近づいてきた。

 異世界に来て1年ちょっと。

 やっと他の都市に降り立つことになる。

 中央省も都市の外と言えなくもないが、あれは例外だ。

 新しい都市は、どんなところだろう。

 フブキは受け入れてもらえるだろうか。


「さて、僕は注意事項を説明するよ」


 今からかよ、と突っ込みたい。

 そういうのは前もって言おうぜ。

 隣でスヤスヤと寝ている時子を揺り起こす。

 結局魔列車では、殆ど寝ていた。

 一緒に寝ていた俺は、ぐっすり眠れたというのに。

 遠足前の小学生が、バスの中で爆睡してるみたいだな。


「駅周辺は局所結界が張られていて、魔素濃度がある程度保たれている。でもその外に出れば、かなり薄いから、辛くなったら言うんだよ。結界の出入りは、許可を受けた身分証を持っていれば、制限はない。だから駅を出たら、中央省の出張所に向かうよ」

「中央省のよ?」

「そうだよ、僕たち中央省の仕事は、結界の管理・維持だ。どんなに小規模でもね」

「そうなのよ?」

「それから、僕たちは中央省に寝泊まりすることになっているからね」

「中央省にですか?」


 それって、中央省で仕事してます的な既成事実を、作ろうということだろうか。

 とはいえ、今更()めることもできない。


「そうだよ、僕の都合もあるし、宿屋より安全なんだ」

「宿屋は危険なんですか?」

「そうなんだ、僕は悲しいのだよ。こんな状況だと、中々治安維持にまで人手が回らないし、それだけ貧困が蔓延しているということなのだよ。移住するにも、お金が掛かるからね」

「補助金は出ないんですか?」

「そうだね、僕もそう思うよ。でも一番の問題は、受け入れ先が無いことなんだ。何処もいっぱいいっぱいだからね。第3都市の受け入れもあったから、尚更さ。地元民と問題を起こした例もある。一番の問題は、治安の悪化なのだよ。一度そういうことが起こると、次からは慎重にもなるのさ」


 確かに。

 幾らお金があったとしても、受け入れ先が無ければ無理だ。

 地元民との相性などもあるだろう。

 受け入れたが為に、治安が悪くなっては本末転倒だ。

 特に一度受け入れて治安が悪くなった事例があれば、尚更(なおさら)だろう。

 慎重にもなるし、拒絶するのも分かる。


 車掌のアナウンスが、まもなく駅に着くことを知らせてきた。

 片付けをして降りる支度を始める。

 程なくして魔列車が、再びガタンゴトンとレールを鳴らす。

 魔力軌道から石道(いしどう)に戻ったようだ。

 駅のホームにさしかかると、魔列車は速度を落とし始めた。

 俺たちは停車を確認してから、席を立った。


「ご乗車、有り難う御座いました。ヤルスウェ、ヤルスウェです。お忘れ物の無きよう、ご注意下さい」


 俺は魔列車を降りると、走り出した。


「あ、モナカ! 何処に行くのよっ」

「フブキの所! 荷物受取所だ」

「場所は分かるのよ?」


 そう言われて、足を止めた。


「分からないのよ?」


 俺は振り向くことなく、頷いた。

 が、再び走り出した。


「なんとかなるっ!」


 案内板を見れば分かるだろう。


「ゴメンな、巻き込んで」

「気にしなくていいよ」


 当然のことだが、時子も俺と一緒に走る羽目になった。

 悪いとは思うが、手を離すことも、この足を止めることもできない。


「こうなるような気はしてたから」

「っはははは! さすが時子」

「褒めてもなにも出ないよ」

「別にいいよ、今は」

「今後もありませんっ。もう」


 2人して改札を出る。

 一瞬とんでもない運賃が表示されたような気がしたけど、一桁見間違えたかな。

 事前に魔列車賃を受け取っていたけど、財務大臣はタイムだ。

 俺に受け取り金額の確認は出来ない。

 多分受け取っていなかったら、時子は改札で引っかかったんじゃないか?

 などということは脇に置いておいて、今はフブキだ。

 天井からぶら下がっている案内板を見る。

 荷物受取所は……左の方にあるようだ。

 左に向かって走り出す。

 時子を連れているから、全力では走れない。

 むしろ抱えて走った方が早いだろう。

 が、それは止めた方がいいかな。

 それに足並みを揃えて、一緒に走るのも悪くない。

 同じ目的に向かって、供に歩を進める感覚は、やはり気持ちがいい。

 時子もそれを楽しんでいるように思える。


 受取所には、先客が5人いた。

 並んで待っていると、エイルたちが歩いてやってきた。

 急いだ意味が無い……などと思ってはいけない。

 気持ちの問題だ。


「まだなのよ?」

「先客が居たんだ」

「時子も大変なのよ」

「あはは、慣れてるから大丈夫」


 ここで荷物を受け取る人は、手荷物では運べないような大きなものだったり、数が多かったりしている。

 台車に乗せて持ち帰る人。

 数人で運んでいる人も居る。

 勿論、荷物を預けている人も居る。

 でも動物を預けたり受け取ったりするような人は、誰も居なかった。


「次の方どうぞ」


 漸く順番が回ってくる。


「いらっしゃいませ」

「荷物の受け取りで」

「それでは、こちらに身分証をかざして下さい」

「はい」

「待ちたまえ、僕が手続きをするのだよ。登録は僕がしたからね」

「あ、そっか」


 早くフブキに逢いたい一心で、そのことを忘れていた。

 俺はフブキを連れて行っただけで、手続き自体はレイモンドさんがやったんだった。

 仮に先客が居なかったとしても、フブキには会えなかったということか。


「ただいま係の者が連れて参りますので、あちらでお待ち下さい」

「分かりました」

「次の方どうぞ」


 指示された場所で待っていると、係の人がフブキを連れてやってきた。

 周りに居た人がザワついている。

 幾らリードで繋がれているとはいえ、大型の動物が来るんだから仕方が無い。

 しかもフブキは不本意ではあるが、その身体的特徴により害獣指定を受けている。

 リードで繋がれているとはいえ、町中に熊だの虎だのが現れたら、騒ぎになるのと同じようなものだ。

 荷物を落とし、腰を抜かしてしまった人まで居る。


「フブキー、寂しくなかったか? 狭くなかったか? 怪我は無いか? ん?」


 俺がフブキに抱きつくと、より一層外野がうるさくなった。

 が、気にすることはない。

 時子も自由な方の手で、フブキを撫でてくれている。


「わふっ」

「モナカは心配性なのよ。元気なのよ?」

「わふんっ」


 エイルは必要以上に近づかない。

 フブキも分かっているから、飛び掛かって(じゃ)れたりはしない。

 お互い、距離というものを知っている。

 その距離を、俺が破っているだけなのだから。


「それでは、僕はみんなを出張所に案内するよ。付いてくるのだ」

「「「はい」」」

「分かったのよ」

次回、新しい精霊の登場です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ