第61話 待ちきれない
目的の駅が近づいてきた。
異世界に来て1年ちょっと。
やっと他の都市に降り立つことになる。
中央省も都市の外と言えなくもないが、あれは例外だ。
新しい都市は、どんなところだろう。
フブキは受け入れてもらえるだろうか。
「さて、僕は注意事項を説明するよ」
今からかよ、と突っ込みたい。
そういうのは前もって言おうぜ。
隣でスヤスヤと寝ている時子を揺り起こす。
結局魔列車では、殆ど寝ていた。
一緒に寝ていた俺は、ぐっすり眠れたというのに。
遠足前の小学生が、バスの中で爆睡してるみたいだな。
「駅周辺は局所結界が張られていて、魔素濃度がある程度保たれている。でもその外に出れば、かなり薄いから、辛くなったら言うんだよ。結界の出入りは、許可を受けた身分証を持っていれば、制限はない。だから駅を出たら、中央省の出張所に向かうよ」
「中央省のよ?」
「そうだよ、僕たち中央省の仕事は、結界の管理・維持だ。どんなに小規模でもね」
「そうなのよ?」
「それから、僕たちは中央省に寝泊まりすることになっているからね」
「中央省にですか?」
それって、中央省で仕事してます的な既成事実を、作ろうということだろうか。
とはいえ、今更止めることもできない。
「そうだよ、僕の都合もあるし、宿屋より安全なんだ」
「宿屋は危険なんですか?」
「そうなんだ、僕は悲しいのだよ。こんな状況だと、中々治安維持にまで人手が回らないし、それだけ貧困が蔓延しているということなのだよ。移住するにも、お金が掛かるからね」
「補助金は出ないんですか?」
「そうだね、僕もそう思うよ。でも一番の問題は、受け入れ先が無いことなんだ。何処もいっぱいいっぱいだからね。第3都市の受け入れもあったから、尚更さ。地元民と問題を起こした例もある。一番の問題は、治安の悪化なのだよ。一度そういうことが起こると、次からは慎重にもなるのさ」
確かに。
幾らお金があったとしても、受け入れ先が無ければ無理だ。
地元民との相性などもあるだろう。
受け入れたが為に、治安が悪くなっては本末転倒だ。
特に一度受け入れて治安が悪くなった事例があれば、尚更だろう。
慎重にもなるし、拒絶するのも分かる。
車掌のアナウンスが、まもなく駅に着くことを知らせてきた。
片付けをして降りる支度を始める。
程なくして魔列車が、再びガタンゴトンとレールを鳴らす。
魔力軌道から石道に戻ったようだ。
駅のホームにさしかかると、魔列車は速度を落とし始めた。
俺たちは停車を確認してから、席を立った。
「ご乗車、有り難う御座いました。ヤルスウェ、ヤルスウェです。お忘れ物の無きよう、ご注意下さい」
俺は魔列車を降りると、走り出した。
「あ、モナカ! 何処に行くのよっ」
「フブキの所! 荷物受取所だ」
「場所は分かるのよ?」
そう言われて、足を止めた。
「分からないのよ?」
俺は振り向くことなく、頷いた。
が、再び走り出した。
「なんとかなるっ!」
案内板を見れば分かるだろう。
「ゴメンな、巻き込んで」
「気にしなくていいよ」
当然のことだが、時子も俺と一緒に走る羽目になった。
悪いとは思うが、手を離すことも、この足を止めることもできない。
「こうなるような気はしてたから」
「っはははは! さすが時子」
「褒めてもなにも出ないよ」
「別にいいよ、今は」
「今後もありませんっ。もう」
2人して改札を出る。
一瞬とんでもない運賃が表示されたような気がしたけど、一桁見間違えたかな。
事前に魔列車賃を受け取っていたけど、財務大臣はタイムだ。
俺に受け取り金額の確認は出来ない。
多分受け取っていなかったら、時子は改札で引っかかったんじゃないか?
などということは脇に置いておいて、今はフブキだ。
天井からぶら下がっている案内板を見る。
荷物受取所は……左の方にあるようだ。
左に向かって走り出す。
時子を連れているから、全力では走れない。
むしろ抱えて走った方が早いだろう。
が、それは止めた方がいいかな。
それに足並みを揃えて、一緒に走るのも悪くない。
同じ目的に向かって、供に歩を進める感覚は、やはり気持ちがいい。
時子もそれを楽しんでいるように思える。
受取所には、先客が5人いた。
並んで待っていると、エイルたちが歩いてやってきた。
急いだ意味が無い……などと思ってはいけない。
気持ちの問題だ。
「まだなのよ?」
「先客が居たんだ」
「時子も大変なのよ」
「あはは、慣れてるから大丈夫」
ここで荷物を受け取る人は、手荷物では運べないような大きなものだったり、数が多かったりしている。
台車に乗せて持ち帰る人。
数人で運んでいる人も居る。
勿論、荷物を預けている人も居る。
でも動物を預けたり受け取ったりするような人は、誰も居なかった。
「次の方どうぞ」
漸く順番が回ってくる。
「いらっしゃいませ」
「荷物の受け取りで」
「それでは、こちらに身分証をかざして下さい」
「はい」
「待ちたまえ、僕が手続きをするのだよ。登録は僕がしたからね」
「あ、そっか」
早くフブキに逢いたい一心で、そのことを忘れていた。
俺はフブキを連れて行っただけで、手続き自体はレイモンドさんがやったんだった。
仮に先客が居なかったとしても、フブキには会えなかったということか。
「ただいま係の者が連れて参りますので、あちらでお待ち下さい」
「分かりました」
「次の方どうぞ」
指示された場所で待っていると、係の人がフブキを連れてやってきた。
周りに居た人がザワついている。
幾らリードで繋がれているとはいえ、大型の動物が来るんだから仕方が無い。
しかもフブキは不本意ではあるが、その身体的特徴により害獣指定を受けている。
リードで繋がれているとはいえ、町中に熊だの虎だのが現れたら、騒ぎになるのと同じようなものだ。
荷物を落とし、腰を抜かしてしまった人まで居る。
「フブキー、寂しくなかったか? 狭くなかったか? 怪我は無いか? ん?」
俺がフブキに抱きつくと、より一層外野がうるさくなった。
が、気にすることはない。
時子も自由な方の手で、フブキを撫でてくれている。
「わふっ」
「モナカは心配性なのよ。元気なのよ?」
「わふんっ」
エイルは必要以上に近づかない。
フブキも分かっているから、飛び掛かって戯れたりはしない。
お互い、距離というものを知っている。
その距離を、俺が破っているだけなのだから。
「それでは、僕はみんなを出張所に案内するよ。付いてくるのだ」
「「「はい」」」
「分かったのよ」
次回、新しい精霊の登場です




