第59話 線路は続くよ何処までも
身分証をかざし、改札を通ってホームに向かう。
ホームには、魔列車を待つ人が、まばらに居た。
暫くすると、魔列車がホームに入ってきた。
「うわぁ、SLみたい」
確かにSLっぽい見た目をしている。
「でもバックで走ってない?」
SLは運転室が後ろに付いている。
でも魔列車は運転室が前に付いている。
だから後ろ向きで走っているように見えた。
「そうだね。なんか不思議な感じ」
「煙も出てないしね」
煙突はなく、蒸気とかも出てはいない。
蒸気機関ではないようだ。
「当たり前なのよ。蒸気でも電力でもなく、魔力で動くのよ」
蒸気機関車ではなく、魔力機関車ということか。
「エイルは蒸気機関車を知っているのか」
「勇者小説に出てくるのよ」
「おや、僕はジョウキキカンシャなるものが出てくる勇者小説を知らないよ。よければタイトルを教えて欲しいのだよ」
「え……っとのよ、後で調べておくのよ」
「残念だ、僕は楽しみをお預けされてしまったよ」
見た目こそSLによく似ているが、やはり鉄製ではない。
バスのような木製かというと、それも違う。
運転席が木製なだけで、後はほぼ石造りとなっている。
車輪は前方に大きめのものが4つずつ、後方に少し小さめのものが2つずつ付いている。
車輪と車輪を繋いでいる連結棒はなく、独立して動いていた。
だから車輪を動かすピストンもない。
SLによく似た牽引車両に引っ張られて、客車が後ろに連なっている。
牽引車両と客車の間に、石炭のような燃料を積む車両がなかった。
もしかして、燃料をボイラー室に焼べる必要が無いから、逆向きみたいな外観をしているのかな。
更に後ろは貨物車両になっている。
そこにフブキが乗るのだろう。
1人で寂しくしていないだろうか。
乗っている間は、当たり前だが貨物車両に行くことはできない。
フブキの胸には、ドッグタグが埋め込まれている。
これがフブキにとっての身分証で、これによって居場所が簡単に分かるようになっている。
しかしフブキは常に監視されているとも言える。
この身分証は相互通信ができるものではないので、タイムが出張することもできない。
だから降りる駅まで独りぼっちだ。
客車の扉をレイモンドさんが開ける。
どうやら自動ではなく、手動のようだ。
……一人旅はできないな。
タイムに振られた傷心旅行を……とかはできない。
「モナカ、なにしてるのよ。さっさと乗るのよ」
「ああ、先に行って席を取っておいてくれ」
「なんなのよ」
俺と時子を残し、みんなは先に乗車した。
「もしかして、フブキちゃん?」
「ああ」
貨物車両の方を眺めていると、職員に連れられたフブキが乗り込むのが見えた。
乱暴な扱いはされていないようだ。
フブキも大人しく従っているように見えた。
「ふふっ、ホントにフブキちゃんが好きなんだね」
「なんだ、焼き餅か?」
「なっ……モナカくん相手に焼き餅なんか妬きませんっ」
「それは残念」
「もう……バカ」
中に入ると、通路を挟んで4人掛けのボックス席が並んでいた。
「あ、モナカくん、こっちこっち」
アニカが俺を見つけ、手を振って招いている。
エイルとアニカが座っている座席の前に、俺と時子が座った。
そして通路を挟んで反対側に、レイモンドさんが1人で座っている。
5人だから仕方がないよね。
「エイル、扉を閉めてこられなかったんだけど、いいのかな」
「発車する前のよ、勝手に閉まるのよ」
「そっか。ならよかった」
貨物車両の搬入出終了のアナウンスが響く。
そして魔列車が静かに動き出した。
「レイモンドさん、どのくらい時間が掛かるんですか?」
「そうだね、僕は質問に答えるよ。大体4時間で着くよ。」
「4時間……結構掛かりますね」
「ああ、僕は更に答えるよ。結界内唯一の石道は環状線でね。1周約628km、都市間約1時間、12都市で1周約12時間掛かるんだ」
「石道?」
「線路が石でできているのよ。だから鉄道ではないのよ、石道なのよ」
「へー」
なるほど。
確かに鉄道は鉄の道だから、鉄道という。
石の道なら、石道というのも、納得だ。
というか、エイルは鉄道も知っているのか。
相変わらず勇者小説知識、半端ないな。
「そうだね、僕は補足するよ。石道は駅周辺だけで、後は魔力でレールが作られているんだ」
「魔力で?」
「そうだよ、僕も詳しくは知らないけど、機関部に魔力を増幅する仕組みがあるんだよ。後は一定距離に設置されている魔法杖に魔力を送ればいいらしい」
機関部というと、ボイラー室に当たる部分かな。
運転手の魔力を増幅して、動輪を動かしているのか。
「もう新しく作れないのよ。材料と技術がないのよ」
「おや、僕は心外なのだよ。材料さえあれば、エイル君なら作れると思うのだよ」
「バカ言わないのよ。知識があってのよ、技術が足りないのよ」
「おやおや、僕の睨んだ通り、知識はあるのだね」
「ゆ、勇者小説で仕組みを知ってるだけなのよ」
技術的な資料にもなるのか。
それは空想科学、いや空想魔学的なものではなくて、リアルな魔学なのかな。
「ふむ、また僕にはそのタイトルを教えてくれないのかな」
「……忘れたのよ」
「いやはや、僕は残念で仕方がないよ」
石道区間が終わったのか、魔列車はガタンゴトンと線路を鳴らすこともなく、静かに走って行く。
つまり線路と線路の継ぎ目がないということだ。
継ぎ目がないから、あの独特なガタンゴトンという音も出ない。
だから静かなのだ。
しかもここは客車で、動力が無い。
だから電車に乗ったときのような、モーター音すら無い。
揺れをほぼ感じることもなく、風景を見ていなければ、停車しているのかと勘違いするだろう。
アニカがカードゲームで遊ぼうと言い出した。
こっちの世界のトランプは、Jackの代わりにBraveとなっている。
後は変わりがない。
これも言語相互翻訳のお陰なのかな。
図柄を新しく覚える必要がなくて、楽だ。
問題はゲームの方だ。
さすがにルールまでは言語相互翻訳でも、改変はできない。
でも神経衰弱とババ抜きはルールが同じで助かる。
こういった単純なルールは、異世界でも定番らしい。
ちなみにしりとりもやったけど、全くゲームにならなかった。
理由は推して知るべし、だ。
漸く第2章は終わりです
やっとクラスクから旅立てました
予定の3倍くらい掛かったw
次回から第3章に入ります
といっても、魔列車の話は続きます




