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第54話 責任

 廊下で待っていても仕方がないから、茶の間で待つことにした。

 というか、さっきからなにやら良い匂いが漂ってきていて、凄く気になっていたのだ。

 もしかして、トレイシーさんが朝ご飯を作ってくれているのか?

 普段よりかなり早い時間なのに。


 茶の間に入ると、食卓に朝ご飯が並べられていた。


「モナカさん、おはようございます」

「おはようございます」

「トレイシーさん、おはようございまーす」


 タイムも携帯(スマホ)から出てきて、挨拶をする。


「はい、おはようございます」

「朝ご飯、作ってくれたんですか?」

「ええ。おばさんにはこのくらいしかできないから」


 いつもと違い、少し元気が無いように見える。

 声もなんか暗い?


「いえ、とても助かります。毎日ありがとうございます」

「トキコさんは、まだ寝ているの?」

「いえ、着替えている最中(さいちゅう)です」

「じゃあ、来るまで待ちましょうか」

「はい」


 いつもの席に座り、時子さんを待つ。

 匂いで腹がくすぐられる。

 待っていると、時子さんが普段通りセーラー服姿でやってきた。

 昨日出るときもそうだったからな。

 新しい服を見られるのは、また今度か。


「トキコさん、おはようございます」

「おはようございます。朝ご飯、作ってくれたんですね」

「ええ、おばさんにはこのくらいしかできないから」

「そんなことありません。いつも美味しく頂いてます。ありがとうございます」


 時子さんは俺と目が合うとビクッとなる。

 そしていつもの席のは座らず、反対側の席に座った。

 とことん信用が無くなった?


「あら。いつもの席に座らないの?」

「たまには気分転換もいいかなって。あはは」

「そうなの?」


 気分転換、か。

 〝あんなこと〟があった後だから、気分でも変えなければやっていけないということか。

 ……結局、〝あんなこと〟ってどんなことなんだ?

 分からない以上、〝あんなこと〟で押し通すか。


「時子さん、ごめんっ」

「ふへ? 急になに?」

「〝あんなこと〟しておいて、謝って済むとは思わないけど、ごめんなさい」

「あ、あんなことって……。いいよ、もう過ぎたことだし」


 そっぽを向いていて、こっちを見てくれない。

 〝いいよ〟とは言っているが、まだ怒っているのかも知れない。


「そうですよ、モナカさん。男の子は少し強引な方がいいんですよ」

「トレイシーさんまでなにを言い出すの?!」

「勿論、女の子が嫌がるようなことはダメですけど、本気で嫌がっていないのなら、押せ押せですよ」

「そうなんですか?」


 つまり時子さんは怒っているのではなく、照れているってことか。


「ふふ、男と女の駆け引きですよ」

「な、なるほど」

「駆け引きなんてないよっ」


 これがツンデレという奴か。

 ※違います


「時子さんは嫌がっていないようですし、昨夜のようにグイグイ行っちゃいましょう」

「ふへ?!」

「昨夜、ですか」


 俺が寝ている間に、一体俺がなにをしたというのだろうか。

 〝あんなこと〟ってなんだ?

 トレイシーさんは〝あんなこと〟を知っているのか?


「さ、ささ昨夜って、ど、どどど、どういう意味で、すか?」


 確かに、時子さんは〝過ぎたこと〟と言って、あまり怒っているような感じはしない。

 とはいえ、隣に座らず、向かい側に座るくらいには、距離を取っている。

 これはどんな駆け引きだというのだろう。


「ふふ。ごめんなさいね。おばさん、トキコさんの声が聞こえてたのよ」


 ……いや待て。

 時子さんには先輩が居るし、俺にだってタイムが居る。

 グイグイ行くもなにも無いだろう。


「声?!」


 しかしタイムは〝責任を取らないとダメ〟と言っていた。

 もしかしてタイムを諦めて、時子さんを選ばなければいけないような〝あんなこと〟をしてしまったのか?

 ある意味、タイムに〝責任を取れ〟と言われた時点で、三行半(みくだりはん)を突き付けられたようなものではないのか?


「聞くつもりはなかったんですけど。若いって良いわねえ」


 となると、タイムへの気持ちを断ち切って、時子さんを大切にしていかないといけなくなった……のか?

 なら先輩はどうする?

 先輩には悪いけど、〝あんなこと〟をしてしまった以上、俺が責任を取らないとダメなんだ。


「き……聞かれて困るようなことはしてませんっ」


 ……だから〝あんなこと〟ってどんなことなんだよっ。

 訳の分からない〝あんなこと〟でタイムを諦められるのか?


「そうよね。惹かれ合う男女の営みは、別に恥ずかしがるようなことじゃないもの。おばさんは気にしてないわ」


 とはいえ、タイムに見限られているっぽいのは事実だ。

 最近の態度もよくよく考えてみれば、その前兆だったのではないか?


「営みってなんですか?!」


 ここは男らしく、タイムへの未練は断ち切って、時子さんを愛せばいい。

 な、タイム。

 それでいいんだよな。


「あら? それをおばさんに言わせるなんて、トキコさんは酷い人ですね」


 タイムはトレイシーさんになにも言わない。

 俺たちの会話から1人外れて、第三者を決めているような感じだ。

 それがお前の答えなのか。


「酷くありませんっ。モナカくんも、なんか言ってよっ」


 そうだな。

 ちゃんと言葉にしないとダメだ。


「俺は、時子さんを寝不足にしてしまうほど、〝あんなこと〟をしてしまいました。だから責任を取らないとダメだと思うんです」


 本当にこれでいいのか、俺。

 でも、もう後には戻れない。


「モナカくん?! いきなりなにを言い出すの?」

「時子さん、いや時子。俺が先輩に変わって、幸せにするから」


 こんなことを言う俺を、タイムは止めてくれない。

 なにも言ってくれない。

 やっぱりそうなのか。


「ふへっ?! し、ししし幸せにって、どど、ど、どういう、ことかな?」


 心を決めるしかない。


「時子、俺と結婚してくれ」


 ここまで言っても、タイムはなにも言ってはくれない。

 ただ1歩遠くから、少し冷めた目で俺たちを見ている。


「あらあら。トキコさん、おめでとうございます」

「めでたくないよっ! モナカくん、自分がなに言ってるか、分かってる? タイムはどうするの?」

「タイムからは、もう三行半(みくだりはん)をもらったから」


 そういうことなんだよな、タイム。


三行半(みくだりはん)?! ……ってなに」

「えっと……離縁状?」

「離縁……! お姉ちゃん、どういうこと?!」

「お姉ちゃん?」


 え?

 お姉ちゃん……って、誰?

 時子はタイム……さんを見て言ったよな。


「しー、内緒だって言ったでしょ」

「タイムさん、どういうことですか?」

「へ? マスター、いきなりどうしたの?」

「いえ、見切りを付けられた身と致しましては、今後もお付き合い頂かなくてはならない以上、ケジメは必要かと思いまして」

「タイム、見切ってなんかないよ」


 見切っていないなら、最近の態度の変化はどうなんだ?


「それに三行半(みくだりはん)ってなに!」

「だから、離縁――」

「そうじゃなくって! なんでタイムが三行半(みくだりはん)をあげたみたいな話になってるの」

「最近のタイムさんのわたくしめに対する態度と、〝責任を取らなきゃダメ〟と仰られたことを(かんが)みて、そう判断致しました」


 これで合ってるんだよな。


「どうしてそうなるのっ」


 え、違うのか?

 ふっ、でも今更だ。

 それに。


「それに時子の責任を取るのですから、これ以上タイムさんにご迷惑は掛けられないな、とも思いまして」

「あ……それは」


 間違ってないよな。


「お姉ちゃんが〝責任〟なんて言い出したのっ?」

「だから〝お姉ちゃん〟って言うなっ!」


 やっぱり見間違いじゃなかった。

 時子はタイムさんを見て言っている。

 タイムさんが時子のお姉ちゃん、なのか?


「タイムさん、お姉ちゃんとはどういう意味ですか?」

「いや、だからそれは……」

「お姉ちゃんっ!」

「タイムさんっ!」


 俺と時子は、タイムさんに迫った。

 食卓の上で俺たちに挟まれ、逃げ場もなく狼狽(うろた)えている。

ということで、メインヒロインが完全に入れ替わりました

ダブルヒロインと取れなくもないけど……

3人の関係は、今後どうなるのか

先輩はいつ現れるのか

次回はトレイシーさんの堪忍袋が破けます

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