第52話 同衾事故
一緒に寝ることがタイムではなく時子さんで残念だ。
という正直な感情を見せたら、理不尽にムカつかれてしまった。
どうしろというんだ……
そもそも時子さんには先輩が居るんだから、ムカつかれても困るんだよね。
なんで俺相手にタイムと張り合うんだ。
先輩はいいのか?
「それで、明日は何時にここを出るの?」
そういえば、まだ時子さんに話していなかった。
「ああ、それなら時子さんがシャワーを浴びている間に、エイルから聞いておいたぞ。フブキが通れるルートも限定されているからな」
「フブキちゃんが?」
「ああ。フブキはシヴァイヌだから、通れる道に制限があるんだよ。散歩コースだって、届け出を出して認可をもらわないといけないんだ」
普通の人はシヴァイヌに長時間触ることはできない。
側に居るだけでも、冷気を感じてしまう。
勿論人だけではない。
故に色々と規制が定められている。
それを忘れてはいけない。
俺と時子さんだけが、側に居ても問題ない異常種だということも。
「そうなんだ」
「ここを朝5時に出るから、その1時間前に起きればいいよね」
「え、1時間?」
「あれ、足りなかった?」
「ううん、なんとかなると思う」
「1時間半にしようか?」
「1時間で大丈夫だよ」
「ん、分かった。朝早いし、寝ようか」
「そうだね……」
「……」
〝寝ようか〟とは言ったものの、俺も時子さんも動かない。
こういうときって、男がリードしないとダメなのか?
エイルのときは、エイルが仕事で遅くまで起きていたから、俺が先にベッドで寝ていた。
アニカのときは、アニカが先にベッドに潜り込んでいた。
なら時子さんは?
2人供動かず、時間だけが過ぎていく。
ぼーっと突っ立っているのは良くない。
気まずさが増える一方だ。
なら俺が先に潜り込んで、時子さんを迎え入れるか。
腹は決まったので、俺はベッドに潜り込んだ。
そして奥へ身体を寄せると、片手で掛け布団を上げて開いた。
「ほら、時子さん」
「ふぇえ?!」
布団の空いているところを手でポンポンと叩き、時子さんを呼び寄せる。
「う、うん……」
ゆっくりと、恐る恐るベッドに横たわる時子さん。
俺の横で縮こまっている。
やはり緊張は隠せないようだ。
上げていた掛け布団を、時子さんの上に掛ける。
意図せず俺が半ば覆い被さるような形になってしまった。
そのとき、俺の腕が時子さんに触れると、ビクッと震えられてしまった。
「ごめんっ」
腕をサッと引っ込める。
「だ、大丈、夫」
お互い、身体が触れないように距離を取る。
時子さんと一緒に寝るには、このベッドは狭く感じる。
エイルと寝ていた時は、ここにタイムも居た。
にも拘わらず、今より広く感じていた。
何故だろう。
とりあえず、時子さんの手を握らないといけないのか。
「きゃっ」
「あっ、ごめん」
パッと手を離し、時子さんに背中を向けた。
「ううん、ちょっとビックリしただけ。手、繋がないとね」
「うん。じゃあ、握るよ」
「うん」
2人して仰向けになり、お互いに手を繋ぐ。
普段と違い、布団の中で繋いでいる所為か、いつもより手のひらが熱く感じる。
「じゃあ、電気消すね」
「うん」
『タイム、聞こえるか?』
『あ、うん。なに?』
『すまんが、電気消してくれ』
『分かったー』
『ありがとう。おやすみ』
『おやすみ、マスター』
タイムとの会話を終えると、ランタンごと明かりが消えた。
部屋の中が暗闇に支配される。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
〝おやすみ〟とは言ったものの、そう簡単に寝付けるものではない。
エイルやアニカとは違う匂いが、神経を覚醒させてくる。
こんなの、寝られるはずが……
「モナカくん、起きてる?」
どのくらい経っただろうか。
中々寝付けない時子が、モナカに話しかけた。
「すぴー……」
「もう。時子は緊張して寝られないのに、隣でグースカ寝られたら立場無いよ」
手を出されたら出されたで、それは困る。
しかし全く手を出されず、気にもされないのは女としてプライドが許さない。
自分ばかりがドギマギしているのが、更にプライドを傷つける結果になった。
「あーあ、時子ってそんなに魅力ないのかな」
暗闇に目が慣れてきた時子は、モナカの寝顔を覗き込んだ。
「もう、幸せそうな顔して寝ちゃって。ばかっ」
時子がモナカの鼻を、指で軽く弾く。
するとモナカが鼻を手の甲でぐりぐりと擦った。
そしてそのまま時子の方へ身体ごと覆い被さるように寝返りを打った。
「へ?! いや、だからって……そういうのは止め――」
「タイム……ムニャムニャ」
「え……。こ、この男はっ! はぁーバカバカしい」
時子は覆い被さってきたモナカを押しやって、元に戻そうとした。
しかし時子の細腕では、筋肉で体重が増えたモナカをどかすことはできなかった。
「え、もしかして朝までこのまま?!」
片手はモナカに握られているから自由にできない。
しかも身体は、モナカの半身が上に乗っていることで、身動きが取れない。
横にズレて下敷きから逃れようとすれば、ベッドから落ちてしまう。
唯一自由なのは、握られていない方の手だけだ。
「ちょっと、モナカくん。起きて。モナカくんっ」
モナカの背中を叩きながら、起きるように声を掛ける。
しかしピクリとも起きる気配がない。
モナカはタイムというボディーガードが居ると言っていた。
しかしどうやらそのボディーガードは、職務怠慢なようだ。
全く役に立っていない。
「やっぱりお姉ちゃんは助けてくれないじゃない。もう。だから信用したらダメなんだよ」
もっと大きな声を出せば起きるかも知れない。
しかしそれではトレイシーさんも起きてしまう。
そして何事かと部屋に入られては、ややこしいことに発展する。
時子は、それだけは避けたかった。
だから自力でなんとかしようと、自由になっている手でポカスカとモナカを叩く。
「起ーきーてー! おーもーいー!」
しかし、幾ら抵抗しようとも、モナカが起きる気配はない。
どうしようかと思案していると、さらなる事態に発展した。
モナカが握っていた手を離し、両手で時子を抱きしめたのだ。
「ちょっとー! いい加減にしてよぉ」
「んー、タイムぅー。すかー……」
「〝タイムぅー〟じゃないよぉ。時子は時子だよっ。ねぇ、起ーきーてーっ」
「あはは、なんだよぉやめろよぉ。むにゃむにゃ……」
「〝やめろよ〟は時子の台詞だよっ」
今にも泣き出しそうな声で訴える時子。
幾ら抵抗しても、所詮ひ弱な女の子。
こちらの世界で1年間鍛えた男の子に、力で勝てるはずもない。
抱きしめてきた腕を振り払うこともできず、為すがままである。
時子は次第に力尽き、抵抗することが困難になってしまった。
抵抗することは無駄だと悟り、モナカに身を委ねてしまう。
「先輩。穢れてしまった時子を、お許しください」
時子は半べそを掻きながら、先輩に懺悔をする
とはいえ、モナカは寝ぼけて抱きしめているだけなので、自主的になにかをするということはない。
〝自主的に〟、は。
自主的でなければ、一体なにをしたんでしょうね
次回はなにをしたかが判明する?




