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第51話 ベッドは1つ

[開けゴマ]


 エイルの部屋の扉が開いていく。

 例の(やかま)しい音も健在だ。


「へー、そうやって開けたのか。でも夜中にこの轟音はトレイシーさんに迷惑なんじゃ?」

「あ、そうだね。んー、そうだ!」

「なにか思いついたの?」

「うん」


 部屋の扉が開いたので、中に入る。

 中は暗かったが、タイムがどこからともなく、ランタンを出してくれた。

 ランタンの明かりが部屋をぼうっと照らし出す。

 そして再び時子さんは携帯(ケータイ)魔法を使う。


[閉じろゴマ]


 今度は先ほどのような轟音は発生せず、静かに閉じた。

 代わりに凄く揺れている。

 いや、揺れるというよりは、振動している?


「とととと時子ささん?」

「あ……れ? あ、こう、か」


 時子さんがまた携帯(ケータイ)をいじると、振動も収まった。


「やったー! やっぱりそうだったんだ」

「ふう。なにをしたの?」

「ん? 携帯(ケータイ)をマナーモードにしたんだよ」

「マナーモード?」

「そう。最初はバイブになっちゃったけど、サイレントモードにしたら、バイブもなくなったんだよ」

「そ、そうなんだ」


 え、そんなことで音がしなくなるの?

 確かにどう考えても携帯(ケータイ)から出てるとしか思えない効果音だけど。

 いや、〝効果音〟の時点で普通じゃないのか。

 それにしても、だ。

 音がしないとなると、敵に見つかりにくくなるぞ。

 先制しやすくなる。

 しかしバイブは……

 何でもありすぎだろっ。

 とにかく、部屋には入ることができた。

 後は寝るだけか。


「じゃ、俺は床で寝るから。時子さんはベッドを使いなよ」

「いいの?」

「女の子を床に寝させて、自分は布団でグースカ寝られるほど、神経太くないよ」

「あはは。ありがとう」

「2人でベッドで寝ればいいじゃない」

「タイム?!」


 タイムがとんでもないことを言い出した。

 というか、そこは3人じゃないんだな。


「そんなの無理に決まってるでしょっ」


 時子さんの反応は、当然のものである。

 俺も……無理ではないけど、先輩に悪いからな。


「なに言ってるのよ。結界の外には宿泊施設なんてないの」


 確かにそれはその通りだ。


「しかもいつなにが襲ってくるか分からないところなんだよ。タイムが結界でみんなを守るのなら、マスターは常に充電してないとダメなんだよ」


 なるほど。

 つまり寝ている間も充電が必要になる、と。


「そうなの?」

「そうだ(と思う)よ。生きて帰ってくるためにも、必須な(んだと思う)の。今から恥ずかしがってたら、みんな生き残れないよ」

「そうなんだ。分かったよ」

「分かったって、いいのか? 俺は先輩じゃないんだぞ」

「寝るだけよ、寝るだけ。モナカくんは時子に変なこと、しないよね」


 変な事ってなんだ。

 〝しないよね〟と聞きながら、何故身を隠すようなポーズを取るんだ。


「しないしない。それに、時子さんにはタイムっていうボディーガードがいるから、平気だよ」


 もし俺が時子さんにちょっかいだそうものなら、今度こそタイムが黙っていないだろう。

 恐らく今まで我慢してきたものが、一気に吹き出て恐ろしいことになるに違いない。

 そんな地獄絵図、俺は見たくも経験したくもない。


「それが一番信用できないんだけど……」

「え?」


 やっぱり、俺は信用できないってことか?

 それなりにいい関係を築けていたと思ったのだが……

 自信過剰だったようだ。


「あはは、なんでもないよ。大丈夫、時子はモナカくんを信用してるよ」


 本当だろうか。

 たった今〝信用できない〟って聞こえたばかりなんだけど。


「あ……でもさ、タイムを真ん中にして寝れば、問題……ない、よね」

「タイムは携帯(スマホ)の中で寝るよ」

「おいおいおい」


 今タイムに退場されたら、凄く気まずいんですけど。


「明日マスターと一緒に帰るけど、それでもやらなきゃいけないことが残ってるんだよ」

「……本当か?」

「ホントだよ」


 そっか。そうだな。

 タイムには、やるべきことがある。

 なら俺は俺で、時子さんに信用してもらえるように努力すれば良いだけだ。

 今すぐ……ってことが、かなりハードル高いけど。


「なら、おいでタイム」

「なに、マスター」


 俺が手のひらを見せると、タイムは肩からその上に飛び移った。

 そして俺はタイムが潰れないように、そっと抱き締めた。


「マスター?!」

携帯(スマホ)に入ったらギュッてしてやれないからな。ギュッてされると、頑張れるんだろ」

「あ……うん。ありがとう。ちょっと元気出た」

「やっぱり元気なかったんだな」


 やっぱり、こういうスキンシップが足りなかったのかな。

 最近は全然してやる機会が無かったから、もう少し考えないと。

 そうすれば、また以前のように接してくれるはずだ。


「はうっ! そんなことないよ、タイムはいつだって元気ですっ」

「ふっ、そうだな。おやすみ、タイム」

「おやすみマスター。時子もおやすみ」

「おやすみ」


 そしてタイムは携帯(スマホ)の中へ入っていった。

 部屋の中には俺と時子さんが取り残された。


「……どうする?」

「ホントになにもしないんだよね?」


 やっぱり信用してもらえていないみたいだ。

 いや、ここで引き下がったらダメだ。


「さっき信用してるって言ってなかったっけ?」

「あはは、そうだったね。はは……はぁ」


 社交辞令だったのかな。

 仕方ないか。

 先輩ではない男と一緒に寝るなんて、抵抗が無い方がおかしい。


「やっぱり床で寝ようか?」

「ううん、今ここで逃げたら、ずっと逃げることになると思うから」


 そこまで思い込まなくても……

 ならばせめてこれからは、身体をよく洗って……アニカによく洗ってもらうことにしよう。


「モナカくんこそ、タイムじゃなくて時子で残念ね」

「はは、そうかも」


 考えてみれば、タイムを抱きかかえずに寝るのはいつ以来になるのだろうか。


「むぅ」


 俺の言葉を聞いて、時子さんはむくれてしまった。

 何故?


「なんだよ」

「そういうときは、ウソでも〝そんなことない〟って言うもんだよ」


 多分それを言うと、またタイムが偶然聞いてしまうことになりそうだから嫌だ。


「おいおい、俺は先輩じゃないんだぞ」

「そうだけど、なんかムカつくんだよ」

「なにそれ」

「分かんない」

「分かんないって……」

「もういいっ!」


 えー、なにその理不尽。

 女心って、分からない。

次回はモナカと時子が一緒に寝ます

そしてモナカは時子に……あんなことを!!

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