第5話 文字入力
モナカとフブキのシーンは、いつ書いても理解しがたい会話にしかならない
「エイルさん、アニカさん、ご迷惑をお掛けしました。フブキさん、本当にごめんなさい」
エイルたちが待っている山道入り口まで戻ると、いの一番でタイムが謝った。
「別にいいのよ」
「ボクも別に……」
「わふっ」
「フブキものよ、怪我はしてないのよ」
「ホント? よかった。ごめんなさい」
「わうっ」
どうやらフブキに怪我はないようだ。
とはいえ、一応大事を取って今日は止めた方がいいかな。
「フブキ、今日は止めておこうか」
「わふ?」
「念のためだよ」
「わう!」
「えっ?」
「わうわうっ」
「フブキは大丈夫なのよ」
「でも……」
俺が不安がっていると、フブキが俺の耳元で話し始めた。
「ここで止めるのよ、タイムちゃんが気にするのよ」
「それはそうかも知れないけど……」
「俺はフブキの身体を――」
「フブキが大丈夫って言ってるのよ。信用できないのよ?」
「そんなことないよ。気分を害しなのなら、謝るよ。ごめんな、フブキ」
「わふっ」
「そっか、許してくれるか。ありがとうな」
「……世話が焼けるのよ」
「ん? なんだい、フブキ?」
「アホの子の相手は疲れるのよ」
「あはは、アホの子かー。タイムとお揃いだな」
フブキの身体は心配だけど、本人が大丈夫だと言っているんだ。
これ以上は野暮というもの。
いつものようにフブキを先頭にしてエイル・アニカ・時子さん・俺の順で山の中を歩く。
さすがに狩り場で手を繋いでいるのは不味いので、繋いでいない。
タイムは時子さんの手前、やはり大きくはならずに俺の肩に乗っている。
……そう言えば、最近タイムは増殖せずに、ずっと1人だ。
食卓を走り回るときでさえ、増殖していない。
どうしてだろう?
などと思っていたら、いきなりバラバラとタイムたちが現れた。
久しぶりに四天王を見た気がする。
いつ以来だろうか。
「うわっ。タイムちゃんが増えた?!」
「初めまして。四天王で最弱と呼ばれています。よろしくお願いします」
「え、最弱??」
「あ、最弱のくせに一番乗りとか、生意気にゃ!」
「そうだわん。引っ込むんだわん」
「我ら、タイム四天王である。よろしくお願いする」
「四天王? ……モナカくん、どういうこと?」
「あー、まぁ。話せば長くなるけど、とにかく全員タイムだ」
「そ、そうなんだ。あはは」
『タイム、急にどうしたんだよ』
『急にって?』
『ここんところ、ずっと1人だっただろ』
『あー、まぁ、その。もう1人で居る必要がなくなったって事かな。あははは』
『どういうことだ?』
『いいからいいから、気にしないで。これからは、ちゃんとサポートするから』
『いや、そこは信用してるけど……』
『……うん、任せて』
そう言うと、四天王は散開していった。
それは良いんだが、なんとなくいつもの元気が感じられない。
いつもなら蜘蛛の子を散らしたような感じで我先に走って行くのだが、今日は競うというより協力している雰囲気がある。
「タイム? 何処に行くんだよ」
「ちょっとネズミを捕まえてくるよ」
答えたのは視界の隅に現れたタイムのアイコンだった。
普段と違うのは、音声が携帯から聞こえてくることだ。
「捕まえてくる?」
「うん、だからみんなはこの先の開けたところで待ってて」
「ああ、分かった……」
タイムに言われたとおり、少し先の開けた場所で待つことにした。
……なんだろう。
元気はないけれど、だからといって活気がない訳ではない。
子供のような元気がない、と言えばいいのだろうか。
よく言えば大人っぽくなったとか、落ち着きが出たと言えなくもない。
でもそういうのとは、少し違う気がする。
具体的になんだとは分からないが、やはり俺が言い過ぎて一歩引くようになってしまったのだろうか。
『なあ、タイ――』
「あ、居たよ! 連れてくるね。時子さん、準備して」
「う、うん。えっと……どうすればいいの?」
「え? ああ、そうだな。なにか攻撃魔法を撃てるように準備しておけばいいんじゃないか」
「準備って?」
「魔法名入力欄に前もって入力しておけば良いと思う」
「なにを入力しておけばいいの?」
「だから、攻撃魔法? 〝fireball〟(半角英字8文字)とか」
「なるほど。〝ファイヤーボール〟(全角片仮名8文字)だね」
そうこう言っている内に、タイムがオオネズミの首根っこをひっつかみ、空を飛んで戻ってきた。
オオネズミはジタバタと暴れているが、逃げられずにいる。
「モナカくん、〝ファイヤー〟(全角片仮名5文字)までしか入力できないよ」
「え? 〝fire〟(半角英字4文字)だけ?」
取説をパラパラとめくり、Mmodeの仕様を確認する。
間違いなく、魔法名入力欄には10文字まで入力できると書いてある。
なのに4文字しか入力できないって、どういうことだ?
「魔法名入力欄には10文字まで入力できるから、問題ないはずだぞ」
「でも、〝ファイヤー〟までしか入らないよ。〝ファイヤーボール〟って8文字であってるよね」
「ああ、〝fireball〟は8文字で間違いないぞ」
分からない。
なにが間違っているんだ?
他に10文字以内の魔法は……
ゲーム特有の魔法名も有効なのかな。
あ、でもそういうのって、英語版やったことないからスペルが分からないな。
もっと短いもの……〝meteor〟……はヤバイよな。
〝flare〟も危険すぎる。
そもそも4文字まで?
そんな短い単語で魔法か……
〝heal〟……いや、敵を癒やしてどうする。
〝kill〟……は危険だし。
「マスター、連れてきたけど……今離したら不味いかわん?」
目の前でオオネズミが宙ぶらりんになり、ジタバタと暴れている。
これが今回のターゲットだ。
中々生きがいいではないか。
……じゃなくて、準備ができていないのに、離されるのは不味いな。
「そうだな。悪いが、もう暫く捕まえておいてくれ」
「分かったー」
タイムはロープを取り出すと、オオネズミをグルグル巻きにしてふん縛った。
すると今度はチューチューとやかましく鳴き始めた。
黙らせるには〝silent〟〝quiet〟〝sleep〟。
ダメだ。4文字以内が見つからない。
どうしたらいいんだ。
同音異字語とでも言うのか?
次回は見せてやろうか。時子の携帯の性能とやらを