第44話 タイムがいい
前回よりかなりキツいかも?
ま、本格的な人の物と比べたら、児戯にも等しいでしょうが
時子さんがご飯を食べようとすると、おかずを載せたお皿が飛んできた。
「はい、簡単なものでごめんなさいね。あんまり材料残ってなくて」
お皿にはベーコンエッグが乗っていた。
「いえ、十分です。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「マスター、美味しかった?」
「え? ああ、美味しかったよ」
「ふーん。時子の食べ残し、美味しかったんだ」
それを聞いた時子さんが、思いっきり咳き込んだ。
「なに言ってんの?! 違うよ、トレイシーさんのご飯が美味しかったんだからねっ」
「お姉――」
「しー!」
時子さんがハッとして、口を両手で塞いだ。
なにかあったのか?
「あはは。タイム、そういうこと言わないでよ。もう」
あれ、今〝タイム〟って呼び捨てにした?
そういえば、タイムも〝時子〟って呼び方に戻っていたような。
ん? 時子さんが箸を咥えたまま、頬を染めて俺を見つめている。
「なに?」
「な、なんでもないっ。タイムのバカ!」
気のせいではないようだ。
「あー、バカって言ったー。バカって言った方がバカなんだよっ」
「タイムが変なこと言うからでしょ!」
「えー。じゃあマスター、美味しくなかったの?」
俺に振るな。
そもそもどっちに応えても、破滅しかないだろうがっ。
まぁ、正直に言えば、凄く美味しく感じた。
感じたけど!
「黙秘します」
「あ、ズルい!」
「うるさいっ。味覚なんて人それぞれなんだから、それでいいだろ」
「ぷぅー。じゃあ時子との間接キスは嬉しかった?」
それを聞いた時子さんが、食べているものを盛大に吹き出し、噎せ返っていた。
「時子さん、大丈夫?」
「げほっごほっ、んー」
どうやら食べていたものが喉に詰まったようだ。
苦しそうに胸を叩いている。
「トキコさん、はいお水」
トレイシーさんが汲んできた水を、時子さんに渡す。
時子さんは水を受け取ると、胸を叩きながら飲み干した。
「ぷはーっ、はぁ、はぁ」
「あーもー勿体ないな、こんなにまき散らしちゃって」
タイムがテーブルを台拭きで拭きながら、ブツブツと愚痴をこぼす。
「タイムが悪いんだろ」
「なんでよー。だったらマスターとして責任取って、これ食べてよね」
と言ってタイムが取り上げたものは、トレイシーさんが時子さんのために作ったベーコンエッグだった。
そしてそれは、先ほど時子さんのブレス攻撃をモロに受けたものでもある。
「……は?!」
「そんなの、時子が責任もって食べるに決まってるじゃない!」
「マスターはこういうのが嬉しくて興奮するんでしょ?」
「そんなわけないだろっ。人を変態扱いするなっ!」
「でも時子の食べ残しのご飯を食べてるとき、凄い興奮して喜んでたよね」
「根も葉もないウソを吐くなっ」
「ナースタイムの目は誤魔化せないんだよっ」
タイムは手に持っているカルテをポンポンと叩きながら、俺を追い詰める。
「マスターのバイタルは正直だからね」
「なん……だと」
くっ。
所詮感情なんて体内物質の増減で感知できてしまう代物だ、とでも言いたいのか。
「そうなの?」
「時子さん、違うからね」
「あら、でもすごく幸せそうな顔をして食べてらしたわよ」
「トレイシーさんまでっ」
「そ、そうなんだ。ふーん」
時子さんは横目で俺を見ながら、俺から逃げるように身体をよじった。
「違うからね。そんなことないからね」
「じゃあ、時子の食べ残しは不味かったんだ……嫌々食べてたんだ」
今度は箸を咥えて俯き、悲しそうな顔をしている。
「そんなことないよっ。美味しかったし、全然嫌じゃなかったよ! ……あ」
「むぅー。やっぱりそうなんじゃない!」
あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たない。
どうしろっていうんだっ。
もうーヤケだっ!
「そりぁもう美味かったなんてもんじゃなかったね。お米の一粒一粒がそれはもうつやっつやで輝いていて神に捧げられた供物ではないかと見間違うくらいに神々しかったねっ。口に入れればその芳醇な香りが鼻をくすぐってなんとも言えない気分になったよ。噛めば噛むほどに甘みが口の中に広がっていつまでも噛み砕いていたい気分にさせられたさ。一度味わったら病み付きになってもっと食べたいもっとくれってならない方がおかしいくらいだっ。どうだっこれで満足したかこの野郎っ!」
一気にまくし立て、全てを吐露し、肩で息をつく。
それを聞かされたタイムは終始目を見開き、口をポカンと開けていた。
時子さんは徐々に顔が赤くなり、俯いて手で耳を塞ぎ、足をバタバタさせて悶えていた。
ただ1人、トレイシーさんだけが見守るような眼差しで、俺を見ていた。
そんな眼差しに気づき、ハッと我に返る。
なに言っているんだ、俺。
決してウソではないのが、悔やまれる。
とはいえ、一度口から出たものを引っ込めることはできない。
認めようではないか。
時子さんの食べ残しは、嗜好品であると。
……いやいやいや、それは違うぞ。
それこそなに考えているんだ、俺。
「モナカさん」
「はい」
「それなら、今度は時子さんに口移しで食べさせてもらってはどうでしょう」
タイムは見開いた目を更に見開いて、トレイシーさんを凝視した。
時子さんは耳を塞いだ手に力が入り、身体を縮み込ませ、足のバタバタを加速させた。
「トレイシーさん?! なに言っているんですか?」
もう意味が分からない。
どういうこと?
どうしてそうなる。
「食べ残しで幸せになれるのだから、口移しならもっと幸せになれるんですよ。それにモナカさんはもっと食べたいと言っていましたよね」
「それは……」
「言ってましたよね」
有無を言わさぬ強い言葉。
あれ?
トレイシーさんってこんな言い方したっけ。
「……はい、間違い御座いません」
「だそうですよ、トキコさん」
「無理無理無理無理無理無理無理無理……」
「あら残念ね。ではタイムちゃん」
急に振られたタイムは、自分が呼ばれたことに気づいていないようだ。
「タイムちゃん」
「ひゃい?」
「代わりにタイムちゃんがやってあげましょう」
「……タイムが?」
「んー、もしかしてタイムちゃんも無理なのかしら」
「そんなことないよ。でも、マスターが食べたいのは、時子のだよね」
「え……それは勿論タイムの……って、なに言わせるんだよっ」
「え、タイムの?」
それを聞いた時子さんは、足のバタバタを止めた。
そして頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「それじゃあタイムちゃん。はい、あーん」
「えっ?」
トレイシーさんがベーコンエッグを箸で小さく千切って摘まみ、タイムに差し向ける。
タイムはそれを口に入れることを躊躇い、俺の顔を上目遣いで覗き込んできた。
もしかして、俺の答えを待っている?
「トレイシーさん」
「あら? 私が指名されました?」
「違いますっ。……その、時子さんをエイルの部屋に連れていってもらえますか? トレイシーさんも時子さんと一緒に居てもらえると助かります」
「あらあらあら。分かったわ。トキコさん、私の部屋に行きましょうか」
「ぷぅー。あ、はいっ」
勢いよく立ち上がった時子さんは、椅子を倒してしまった。
椅子を直し、トレイシーさんと一緒に、台所にある扉から出て行った。
次回はモナカとタイムのちょっとラブラブシーンです




