第36話 初めて分かる
今回は会話少なめです
暇だ……
なにが暇かって、ゲームしかすることがないくらい、暇だ。
なので、音ゲーのNotesSaberで遊んでいる。
通常モードで遊ぶと、茶の間で踊ることになるから埃が立ってしまう。
だから椅子に座っていても遊べる、簡略モードにした。
それでも上半身が激しく動いてしまう。
ARで音楽と供に流れてくるノーツを斬り付ける。
身体を動かしていれば、少しは紛れるというものだ。
……紛れる? なにがだ?
台所ではトレイシーさんと時子さんが夕飯を作っている。
〝することはないか〟と聞こうとしたが、聞き終わる前に〝無い〟と断られてしまった。
タイムはタイムで「エイルさんとやることがあるから」と言って、こっちに来てさえくれない。
8人居るんだから1人くらい……とか思ってしまう。
なのに「ゴメン、猫の手も借りたいくらいなんだよ」とか言われたら、なにも言えないじゃないか。
というより、なにがそんなに忙しいのだろう。
つまり、今俺は独りを満喫していることになる。
なので夕飯ができるまで、ゲームで遊んでいる最中なのだ。
台所からまな板をトントンと叩く包丁の音が聞こえてくる。
とてもリズミカルで聞いていて心地良い。
っと、あまりそっちに気を取られていると、リズムが狂うな。
集中集中!
時子さんは洗い物や炒め物はできない。
できることといえば、下ごしらえくらいだ。
火加減をトレイシーさんにやってもらえば、煮物くらいはできる。
だからこの頃は時子さんの料理が食卓に並ぶようになった。
グツグツと鍋の煮える音や、ジュージューとフライパンで焼く音も聞こえてきた。
「ああ、くそっ。また失敗だ」
〝時子の手料理なんかに気を取られるからだよっ〟
「ははっ、そうかもな」
そしていつものように右肩に居るタイムに顔を向ける。
しかしそこには、誰も居なかった。
「あ……そっか」
久しぶりに焼き餅を焼いてくれたと思ったタイムは、そこに居なかった。
さっきのは幻聴だろうか。
まだ半日も経っていないのに、胸にぽっかりと穴が開いたような感じだ。
「どうしたの?」
「いや、タイムが……って、時子さん? できたの?」
時子さんが隣の席に座ってきた。
「まだだよ。トレイシーさんが、もうこっちはいいから、モナカくんの相手をしてあげてって」
「へ?」
「タイムちゃんが居なくて寂しそうにしてるから、だって」
「そんなことないよ。寂しくなんか……うん。寂しいかも」
「こっちには来てくれないの?」
「エイルとやることがあって、忙しいから無理って言われちゃった」
「あはは、そうなんだ」
「すっかりエイルに懐いちゃったなー」
……まさか、マスターの座まで奪われたりしないよな。
さすがにそれはエイルといえども、渡せないぞ。
「2人して振られちゃったね」
「そうだなー。きっと2人にしかできないことをしているんだよ。邪魔はできないけど、やっぱ寂しいかな」
「なにをやってるんだろうね」
「多分外に行く際に必要ななにかを、作っているんだよ」
「作る?」
「携帯のアプリかなにかだと思う」
「なーんだ、結局モナカくんのためなんじゃない」
「そうかも知れないけど……あれかな」
「〝あれ〟?」
「これが噂に聞く〝仕事と私とどっちが大切なの?〟って感情なのかな」
「あはは、モナカくんが奥さんだ」
「えー……そうかも、ははっ」
タイムが居なくてちょっと寂しいけど、時子さんと話していると少し気が紛れる。
エイルとは雑談にならなかったからな。
大体がこの世界の話や勇者小説の話だった。
役には立つんだけど、あれは知識話だ。
雑談しているのか、お勉強しているのか、分からなくなってくる。
アニカは基本お子様なんだよな。
精神年齢は一番高いはずなのに、そういうことを全然感じない。
揶揄ってて楽しいって感じだ。
……あいつ、マゾっ気があるんじゃないか?
叩けば叩くほど、懐かれている気がする。
勿論物理的に叩いたことはない。
精神的にはかなり叩いたと思う。
〝もう少し優しくしておくれよ〟と言いつつ、楽しんでいるように見える。
だからついつい……いやいや、サドっ気なんか無いよ。
それに俺がアニカにやっていることなんて、アニカがフレッドにやっていることと比べたら、可愛いものだ。
そういうことにしておこう、うん。
タイムとはなんの気兼ねもなく話せるんだよ。
お勉強にはならないし、むしろタイムの方がお勉強してるのではないか?
俺からもそうだが、例の声にもかなり言われているようだし。
タイムを揶揄っても楽しいし、逆に揶揄われることもある。
対等って感じでいい。
それになにも言わなくても自然と先が分かる。
あー、それは最近分からないこともあるけれど、狩りのときはバッチリだ。
なら時子さんは?
同じ世界から来たというのもあって、共通の話題があるのが嬉しい。
エイルやアニカじゃ絶対無理だ。
帰り道に歌った童謡なんか、最たる例だろう。
タイムは……どうなんだろう。
知っているような感じではあるが、そういう話になると口ごもる。
もしかしたら俺の記憶に関わることなのかも知れない。
その所為で管理者に口止めとかされているのだろう。
だから自然とそういう話題に触れなくなった。
でも時子さんにはそういう縛りがない。
時子さんの話を聞いて、記憶を手繰って思い出したりもする。
それでも、それが誰から教わったのか、誰と経験したのか、そういったことは欠片も思い出せない。
その度に時子さんはバツが悪そうな顔をして謝ってくる。
そして俺がその度に〝気にしないで〟と言うことまでが、ここ最近のお約束になっている。
閑話休題、時子さんと話すと懐かしさを感じられる。
実感があまり感じられないのは残念だけれど、どことなく懐かしく感じるんだ。
そんな他愛ない話を時子さんと重ねていても、必ずタイムのことが出てくる。
どちらから……と言う訳でもなく、自然とそうなっている。
それだけタイムという存在が大きいのだ。
次回、「抜け初めて分かる、髪は長~い友達」みたいな話




