第33話 犬>>>越えられない壁>>>時子
家に戻るため、再びバスを利用する。
バスは自動で扉が開くから、魔力が無くても乗り込むことができる。
公共の乗り物なら、問題はなさそうだ。
携帯を読み取り機にタッチさせる。
考えてみれば、どうしてこの携帯はこの世界の物と干渉できるのだろう。
データのやりとりをするにしても、この世界の理……つまり魔力の影響を受ける。
俺自身は魔力とは相容れることはできない。
なのに携帯は何故か親和性が良い。
俺の携帯は親和性が悪いのか、身体自体が邪魔をしているのか。
時子さんは純粋な肉体を持っている。
その身体が魔力を拒んでいるのだから、やはり身体が邪魔をしているのだろう。
俺たちが2人掛けの座席に座ると、バスが動き出した。
行きと違い、今度は正真正銘2人っきりだ。
他に客が居るといっても、前に1人、後ろに2人しか乗っていない。
なんか、緊張する。
タイムとなら、こんなことにならないのに。
「時子さん」
「は、はい」
いや、そんなに緊張しなくても……。
「俺、最近タイムに避けられている気がするんだよね」
「え、タイムちゃんに?」
「うん。ほら、最近は時子さんと手を繋いでいても、焼き餅焼いてくれないし」
「あはは、焼いて欲しいんだ」
「いや、そういう意味では……」
「うん、分かってる。構ってくれなくて、寂しいんだよね」
「そうなのかな」
「タイムちゃんにとって、モナカくんが一番じゃないと嫌なんでしょ」
「そんなことないと思うけど……」
「自覚が無いだけだよ。結構独占欲が強いんだね」
「独占欲?」
「タイムちゃんが他の人と仲良くしてるのが、嫌なんでしょ」
「そんなことないよっ。むしろいいことだと思うし。そういうのとは違うんだよ。なんていうか……あれだけ時子さんを敵対視していたのに、急に態度が変わったでしょ。だからかな、こう来るって思ったのと違う反応をされて、戸惑ってる……のかも知れない」
「親離れしただけじゃないの?」
「お、親?!」
「もしくは、思春期にある反抗期?」
「反抗はされてないと思うけど……時子さんも反抗期?」
「あはは。だってお父さん、すぐ先輩のことガミガミ言うんだもん。嫌になっちゃう。味方はお母さんだけだよ。花ちゃんには勝てそうもないし」
「……花子さんって、ペットの犬じゃなかったっけ?」
「そうだよ」
「犬に勝つって、なに?」
「先輩は犬が大好きなんだよ。周りが見えなくなるくらい。時子も花ちゃんと一緒に居ると、忘れられちゃってたんだ」
「あははは、なにそれ。そんなことあるの?」
「……」
時子さんが怪訝な顔で見つめてくる。
あれ、なんか変なこと言ったかな。
「ね、モナカくん。フブキちゃんの散歩はいつも誰と一緒に行ってるか、分かる?」
時子さんがいつもとは違う真剣な顔をして、おかしなことを聞いてきた。
「はは、なにその質問。そんなの、フブキとタイムと時子さんに決まってるでしょ」
時子さんだっていつも一緒に居るんだから、そんなことは分かり切っていることだ。
この質問になんの意味が? と思ったのだが……
「……はぁ」
大きなため息を吐かれてしまった。
なんでだ?
「それじゃあさ、散歩に行ってる間、エイルさんとアニカさんはなにしてるの?」
「え?」
言われてみると、なにしているんだろう。
気にしたこともないな。
「んー……家で待っているんじゃないか? エイルは仕事もあるし、アニカは……分からないけど。ほら、散歩が終わると、いつも側に居るでしょ。俺たちが帰ってくるのを待っててくれてるんだよ」
「……モナカくん、それ本気で言ってるの?」
「え、なんで?」
どの辺に冗談の要素があったんだ?
「モナカくんって変だよね。なんでタイムちゃんと時子は分かるの?」
「分かるってなに? 意味が分からないんだけど」
フブキとの散歩? 分かる?
そもそもそれと時子さんと先輩のことに、なんの関係が……?
「……時子の話はいいんだよっ。タイムちゃんなら、心配ないよ」
気にはなるけど、気にしている場合でもない。
しかし心配ないと言われても、その根拠がないと思う。
「そうかな」
「そうだよ。ほら、タイムちゃんって、今エイルさんと色々やってるんでしょ」
「……みたいだな」
「きっとそれが面白くて他に目が行ってないだけだよ。今だって、エイルさんと一緒に居るんでしょ」
「うん」
「それよりも時子の方が、タイムちゃんに避けられてるよ」
「え? そうかな。前みたいに突っかからなくなったよね」
「だからだよ。時子、タイムちゃんと全然話してないもの」
あれを話しているといっていいものだろうか。
「それに今までは時子の居る方に居てくれたけど、あれから一度も時子の居る方に来てくれないじゃない」
「居る方?」
「ほら、モナカくんの肩にいつも居るでしょ」
「ああ、そういえば、このところ逆側の肩に居るな。でもそれは、時子さんを牽制しなくなったからでしょ。それこそ気にする必要ないんじゃない?」
あれ以来、タイムが時子さんにきつく当たることはなくなった。
だから良い傾向だと思っていたのだが、違うのか?
「モナカくんは〝好き〟の反対ってなんだと思う?」
「え? 〝好き〟の反対? 普通に〝嫌い〟じゃないかな」
「じゃあ、〝嫌い〟の反対は?」
「いや、だからそれは〝好き〟なんじゃ……」
「あのね、〝好き〟の反対は〝嫌い〟じゃないんだよ」
「え、違うの?」
「〝好き〟と〝嫌い〟は、根っこが同じなの」
「どういうこと?」
「相手に関心があるから、好きになったり嫌いになったりするんだよ。関心がなければ、好きになることも嫌いになることもないんだよ」
「あー、そうかも知れない」
「だから、〝好き〟と〝嫌い〟の反対は、無関心なんだよ」
「無関心……」
確かに。
無関心は嫌われているより辛いかも知れない。
「時子、タイムちゃんに関心を持たれなくなっちゃったのかな」
「そんなことないよ。だってなにかと――」
「なにかにつけて、モナカくんと手を繋がせてるけど、あくまでモナカくんが相手なんだよ。時子は繋がせる相手でしかないの」
「そうかなー」
「時子は、前の方が楽しかったんだよ」
「楽しかった?!」
「だって、前は時子と向き合ってくれたのに、今は事務的なんだもの」
「事務的って……」
「次は、マゴニ9丁目、マゴニ9丁目です」
「あ、次降りるところだ」
「じゃあ、ボタン押さないと」
「ああ」
しかし、ボタンに触ってもウンともスンとも言わない。
……!
そうだ。ボタンとはいっても、こっちの世界には押しボタンというものは存在しない。
全てが魔力感知式だ。
つまり、誰かが押さないと降りられない?
次回はどうにかしてバスを降ります




