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第31話 中央省の案内人

 バスに揺られること1時間半、漸く目的の場所に着いた。

 そこは駅……の近くにある喫茶店だ。

 恐らくはこの後列車で移動になるのだろう。

 話には聞いていたけど、本当にあるんだな。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「待ち合わせなのよ。レイモンドは居るのよ?」


 え、そういうのって、店員に聞いて分かるものなのか?


(うけたまわ)っております。こちらへどうぞ」


 分かるものらしい。

 相手が中央省だからか?

 なんにしても、相手の顔が分からないのだから探しようがない。

 恐らくは前もって〝店員に聞け〟とでも言われていたのだろう。

 店員に案内された先には、1人の男がいた。

 背は高めで眠たげな目をしている。

 白髪交じりの頭から、それなりの年齢なのが(うかが)える。


「やあ、僕は中央省で結界外探索部門に属しているレイモンド・ヴァン・ネリガンだよ。よろしくね」


 ゆったりとした穏やかな声だ。


「エイル・ターナーなのよ。みんなの保護者なのよ」

「おや、僕が聞いていた名前と違うね。確かエイル――」

「違わないのよ」

「そうかい、僕の勘違いかな。すまなかったね」

「俺はモナカだ。エイルの護衛をやっている」

「なるほど、僕はモナカくんが転生者だと聞いているよ。見た目は変わらないのだね」

「そうですね、期待に添えず、すみません」

「タイムはタイム・ラットだよ。マスターのサポーターだよ」


 あれ?

 てっきり〝マスターのお嫁さんだよ〟とか言うのかと思ったのに……


「? マスター、どうかしたの?」

「いやいや、どうかしてるのは……なんでもない」

「変なマスター」


 変なのはタイムだろ。


「おやおや、僕が知っていることと少し違うぞ。確か小さくて可愛らしいレディは、妖精様でモナカ君のお嫁さんだよね」


 レイモンドさんは、俺の心を代弁しているかのような言葉を発してきた。


「あ……サ、サポーターだよ」

「そうかい、僕はまた勘違いしてしまったのか。すまなかったね」

「う、ううん」


 本当にどうしたんだろう。

 以前ならあんなことを言われたら、舞い上がっていたと思うのだけど。

 そして俺が〝違うからね。タイムもなに言ってんの〟とか返していたはずなのに。

 もしかして、そんなことを言い続けた結果がこれなのか?

 なんとなく悲しそうな顔をしているタイム。

 もしかして結界の外に行くかも知れないようなときなのに、サポートだと思われていないことに傷ついたのか?

 〝サポーター〟ってことを強調してたし。


「レイモンドさん、タイムは頼もしいサポーターです。安心してください」

「そうかい、僕は認識を改めないといけないようだね」


 よし、ちゃんとタイムのフォローを入れたぞ。

 そう思ったのに、エイルに後頭部を叩かれてしまった。

 叩かれたところをさすりながらエイルを(にら)んだ。

 しかしそっぽを向かれた上、「バカモナカ」と言われた。

 酷い仕打ちだ。


「エイルさん」

「なんなのよ?」

「エイルさんはタイムと時子さんの、どっちの味方なんですか?」

「……うちは女の子の味方なのよ」

「答えになってませんよ」

「はっきりしないモナカが悪いのよ」

「ん? なにが悪いって?」

「モナカがバカだから悪いのよ」

「……はいはい」


 なんか、エイルに〝バカ〟って言われるのに、慣れてしまった感があるな。

 ……良くない傾向だ。

 で、結局なにが悪いんだ?


「ボクはアニカ・ルゲンツ・ダン・ロックハートです。精霊召喚術師をしています」

「おや、また僕が聞いていた名前と違うね。またまた僕の勘違いなのかい?」

「いえ、勘違いではありませんが、お気になさらないでください」

「そうかい、僕には事情が分からないけど、分かったよ」


 そういえば、アニカの本名はまだ知らなかったな。

 言いたくないっぽいから聞いていないけど、いつか話してくれるのかな。


「時子は子夜(しや)時子だよ。中学3年生です」

「なるほど、僕は聞いているよ。アニカ君に召喚されたそうだね」

「はい、そうみたいです」

「ところで、僕は疑問に思うんだ。モナカ君はフブキ君と外で待っているのだと思ったよ。彼女は1人で外で待っているのかな」


 俺がフブキが大好きなことを知っているようだ。

 確かに離れるのは(つら)いけれど、連れて行くのは危険だ。


「フブキは留守番なのよ。連れてきてないのよ」

「おかしいね、僕は通信でエイル君に全員で来るように話していたと思うんだ。言い忘れていたかな」

「フブキも入るのよ?!」

「そうか、僕は言い忘れていなかったのだね。エイル君、困るな。きちんと連れてくるように」


 確か結界の外は毒素に溢れていると聞いた。

 獣が毒素に(おか)されると、魔獣になるとも。

 そんなところにフブキを連れていけるはずもない。


「どうしてフブキも連れてこなければダメなんですか?」

「なんだい、僕は君たちは結界の外へ行くつもりだと思っていたのだけれど、違ったのかい?」


 だからこそ、連れて行きたくない。


「外へ行くのよ、フブキと関係ないのよ」

「おいおい、僕は知らなかったよ。君たちがそこまで無知だったとはね」

「どういう意味なのよ」

「そうだね、僕が教えてあげよう。結界の外は公共の交通網なんてものはないのだよ」

「そのくらいのよ、分かってるのよ」


 結界の中と違って、外には人が住んでいない。

 交通網どころか、家もなにもかもが廃墟と化しているだろう。


「だからね、僕は移動手段としてフブキ君が必要だと言っているのだよ」

「フブキに全員は乗れないのよ」

「そうだね、僕もそう思う。だからフブキ君には客車を()いてもらうのだよ」

「フブキに馬車馬(ばしゃうま)になれっていうのかっ」

「おや、僕の認識だと、彼女は荷運びが仕事だと思うのだけれど。またまたまた勘違いしてしまったのかな」

「いえ、そうですけど……」

「ああよかった、僕は間違えてなかったんだね。だから彼女の参加は必須なのだよ」

「でしたら、ボクの泥猪(マッドボア)()かせればいいのではないでしょうか」


 おおアニカ! たまにはいいことを言うじゃないか。

 確かにあの精霊なら、簡単に()くことができるだろう。

 ……アニカがちゃんとお願いできれば、という条件はあるが。


「そうですね、僕は一言足りなかったね。アニカ君の泥猪(マッドボア)とフブキ君で()いてもらうのだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「ふむ、僕の認識が甘すぎるようだね。君たち全員と荷物をフブキ君1匹に()かせるつもりかい? それは(こく)というものではないかな」

「あ……そうですね」


 フブキならそのくらい余裕で()けるだろう。

 だけど負担を減らすという意味なら、大歓迎だ。


「ならば、僕は適任を選ぼうかな。モナカ君にフブキ君を連れてきてもらうとしよう。残りの君たちは、僕と一緒に買い出しだ」

「買い出しのよ? ヤルスウェでするんじゃないのよ?」

「なんだい、僕はまた認識を下方修正しないといけないようだね。ヤルスウェで買い出しは不可能なのだよ」

「不可能なのよ?!」

「なるほど、僕は話さなければいけないようだね」


 ヤルスウェでは買い出しができない。

 エイルでさえ知らないこととは一体なんだろう。

次回、メインヒロイン交代劇です

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