第29話 拡張される現実
1日目は買い物に費やして過ごした。
2日目はエイルの仕事がまだ残っているので、工房の人に引き継ぎをしてもらっている。
これはエイルがやることだから、俺たちは暇を持て余すことになった。
なので、いつものように俺は石人形と模擬戦をしている。
時子さんはそれをぼんやりと眺めている。
眺めているとはいっても、俺が暴れている姿をぼーっと見ているだけだ。
時子さんに石人形は見えない。
見えるようにしてしまうと、また狩猟協会に通報されて大騒ぎになってしまうからだ。
『なあタイム』
『ん?』
石人形と剣を合わせながら、タイムにちょっと質問を投げかけてみる。
『時子さん、暇じゃないのかな』
『そうだね。んー、じゃあ試してみようか』
『試してみる?』
そういうと、視界の端に居たタイムのアイコンが〝出張中〟の看板を取り出して掲げた。
あれ、俺のサポートは?
この石人形は試験の時と比べものにならないくらい、強くなっている。
なんでも石人形に人工無脳を搭載させていて、俺の動きを学習して対応してくるようになっているそうだ。
とはいえ、石人形3体ならなんとかなっている……かな。
結構ギリギリだ。
4体だとちょっと辛いだろう。
「時子さん」
「わっ。あ、タイムちゃん? どうしたの」
どうやら時子さんの携帯に出張したようだ。
「えっとね、ARカメラを起動して」
「ARカメラ?」
「うん。QRコード読み取りカメラを改造して、ARカメラにしたんだよ」
「改造?」
「いいから、早く」
「あ、うん。えっと……これかな」
「うん、それそれ。起動したらマスターをカメラで映してみてよ」
「モナカくんを?」
え、俺をカメラで映す?
『タイム、どういうことだ?』
『百聞は一見に如かずだよ』
いつものように視界の端っこに携帯の画面が浮かび上がってくる。
石人形と模擬戦をしている最中に、これは結構邪魔だな。
右の石人形と被って、動きが見づらい。
案の定、正面の石人形の斬撃を躱して懐に潜り込もうと右に回り込んだら、右に居た奴が放った火球が目の前に迫っていた。
とっさに火球を斬り捨てたが、無理な体勢になったため、躱した剣の切り返しをモロに食らってしまった。
視界の左上にある、俺のHPゲージが4割持って行かれたぞ!
これが現実だったら、致命傷だ。
よそ見している暇なんかない!
「わ! え、なにこれ」
時子さんが携帯の画面を見たり、直接俺を見たりしている。
っと、あっぶね。
よそ見してると久しぶりにHPが全損しそうだ。。
『で、どうなってるんだ?』
『見た通りだよ』
『見てる余裕が無いんだよ』
『えっ?』
〝えっ?〟ってなんだよ。
タイムの想定より、俺が弱いってことか。
……くそっ。
『そういえばさっき食らってたね』
『……それはいいからっ』
『う、うん。えっとね、携帯の画面にマスターと同じようにARを表示してるんだよ。だから携帯のカメラを通せば、マスターと同じものが見えるようになるんだよ』
『へー、凄いな』
「画面の中のモナカくんは石人形と戦ってるのに、画面の外のモナカくんは1人チャンバラしてるよ」
1人チャンバラ……
せめて演武って言って欲しかったな。
『でも、見えるだけだから、マスターみたいに模擬戦はできないんだよ』
『それもそうか』
『だから、お試しなの』
『いずれはできるようになるのか?』
『エイルさん次第かな』
『エイル?』
『メインプログラマーはエイルさんだから』
『エイルが作ったのか?!』
エイルのヤツ、そんなことしてるのか。
この前のみんなの身分証と俺の携帯を繋いだことにも関わっているようだし、ソフトウェア面にも強いみたいだな。
『凄いよね。でも色々と足りないから、中々思い通りにいかないみたい。ところでマスター』
『ん?』
『タイムのサポートが無くても、大丈夫みたいだね』
『なんとか、なっと。よし、討伐完了!』
『お話しする余裕もあるんだね』
『余所見する余裕はないけどな』
『なら、4体にしようか』
『え、なんで増やすの?』
『結界の外で生き残るために、だよ』
『……そうだな』
またタイムのスパルタが始まった。
今日1日で何処まで意味があるかは分からない。
それでも、やらずにはいられないんだ。
それに時子さんも携帯越しに見ているから、無様なところは見せられない。
いつの間にか、精霊と戯れていたはずのアニカまで携帯を覗き込むようになっていた。
こういうのは目聡く見つけるんだよな。
こうして、二日目が過ぎていった。
次回は公共交通機関で移動します




