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第27話 旅支度

 デイビーさんが立ち去ると、あからさまにエイルの機嫌が良くなった。

 元に戻ったのではない。

 明らかにご機嫌だ。

 一応隠そうとしてはいるようだが、滲み出る喜びが抑えきれないといった感じだ。


「エイル、ご機嫌だな」

「へ?! そ、そんなことないのよ」


 そう言ったエイルの声は、普段より(うわ)ずっていた。

 やはり結界の外へ行けるかも知れないというのが、そうさせているのだろう。

 しかし……


「分かっているとは思うけど、結界の外へ行けるかも知れないが、お父さんを探しに行けるわけじゃないんだぞ」

「そ、そんなこと分かってるのよ。それでも父さんの居る世界のよ、やっと行けるのよ」


 我に返ったエイルの声は、普段のそれに戻っていた。


「そうだな。お父さんの居る世界がどんなところか、知ってこよう。下見とか、お試しだと考えればいい。俺たちが生きて帰ってこられるのなら、エイルのお父さんが生きている証拠になるさ」

「モナカに言われなくのよ、分かってるのよ」

「そうだったな。わるい」

「別にいいのよ……バカ」

「え?」

「なんでもないのよっ!」


 なんでもないと言った割には、頬を染めている。

 俺如きに指摘されて恥ずかしかったのだろう。

 浮き足立つエイルなんて滅多に見られないからな。

 心のフォルダーに保存しておこう。


「それより、支度ってなにを用意すればいいんだ? やっぱり携帯食とか、キャンプ道具かな」


 結界の外へ行くことになるのなら、野宿は避けられないだろう。

 キャンプをした記憶はないが、テレビや漫画で見た程度の知識が残っている。

 つまりはただの素人だ。

 なにを用意すればいいのか、分からない。


「食糧はヤルスウェで用意するのよ」

「ヤルスウェ?」

「さっきの男が言ってたのよ。第2都市のことなのよ」

「ああ、そっか。ならキャンプ道具もそこで案内人とやらに、買い揃えてもらえばいいか」

「そうのよ。なら着替えくらいなのよ」

「着替えか……」


 着替えだけとなると、俺は手ぶらで行けることになる。

 着替えは全部タイムが幻燈機ポップアップディスプレイで出してくれるからだ。

 今のところ手で持てる程度の物しか実体化させたことはない。

 何処まで可能なのだろう。

 車とか出せて、乗って走れたりしたらいいな。

 ……免許はないけど。


 幾日分の着替えを用意すればいいのか分からないから、洗濯しながら着ることになる。

 そうなると、やはり最低3日分は欲しいだろう。

 しかしみんなは女の子だ。

 男みたいに3日分とかで足りるとは思えない。

 果たしてエイルと時子さんの荷物は、何処まで大きくなるのだろうか。

 その点俺とタイムは考える必要がないから、楽と言えば楽だ。

 むしろ待っている間暇だから、普段通り石人形(ゴーレム)と模擬戦をしていてもいいくらいだ。

 そのはずなのだが……何故か俺は今、婦人服売り場にいる。

 婦人服といっても、ヒラヒラした普段着ではない。

 どちらかというと、動きやすいカジュアルな物がそろっている。

 何故こんなところに居るのかというと、エイルたちに連れられてきたからだ。

 要は荷物持ちだ。

 服選びは3人でワイワイしながら選んでいる。

 アニカはよくあの輪の中に入れるものだ。

 感心してしまう。

 しかし、ぼんやり見ているだけではあるが、1つ気づいたことがある。


「エイル」

「なんなのよ」

「エイルは選ばないのか?」

「うちには必要ないのよ」


 確かにエイルは普段から仕事着ばかり着ている。

 私服といえば、寝間着とか部屋着くらいなものだ。

 だから今も仕事着を着ている。

 無頓着すぎやしないか?


「たまには気分転換で、そうだな……こういうのはどうだ?」


 別にエイルに似合ってそう、とかではない。

 手近にあったサイズが合いそうな服を、何の気なしに薦めてみた。


『マスター、本当にそれを薦めるの?』

『なんか変か?』

『だってそれ、あっ』


 エイルは俺が薦めた服を手にすると、試着室に入っていった。

 必要ないとは言っていたが、気が変わったのだろうか。


『どうなっても知らないよ』

『サイズが合わなかったか?』

『大丈夫だと思うよ。胸以外は』

『え?』


 そうか。

 女物の服を選ぶなら、胸回りも気にしないといけないのか。

 ということはアレか。

 俺の選んだ服にはないが、胸にプリントされたキャラが横に伸びる現象が現れるのか。


「バカモナカっ!」


 怒鳴り声と共に試着室のカーテンが開いた。

 そこには、俺が選んだ服で身を包んだエイルが、顔を真っ赤にして立っていた。

 なんというか、普段の作業着姿と違い、凄く可愛らしい。

 丸首のシャツと、吊り紐の付いたスカートだ。

 子供っぽく感じるが、エイルの仕事着も吊りズボンだから問題はなかろう。

 問題があるとすれば、タイムの言うように、シャツが胸で横に広がっていてボタンが今にも弾けそうだ。

 そして吊り紐が真っ直ぐにならず、胸の脇を通って広がっている……いや、胸を押し縮めている点だろうか。

 〝バカモナカ〟などと悪態は()いているが、きっちり着てくれている。


『マスター、あれ子供服だよ』

『えっ?!』

『ジャンパースカートにリブトップスでしょ。肩紐に猫ちゃんのワンポイントとか。マスターってああいうのが趣味だったっけ』

『昔は違ったのか?』

『少なくとも……って、タイムが知ってるわけないでしょ』

『はは、それもそうか』

『……』


 そりゃ〝バカモナカ〟と悪態も()きたくなるだろう。

 でもきっちり着てくれているし、まんざらでもないのでは?

 シャワー室で見慣れているとはいえ、こうやって胸が強調されていると、裸より目のやり場に困る。

 とはいえ、それを抜きにしてみれば、中々良いのではないだろうか。


「あーなんだ。結構、可愛いな」

「可愛いとか言わないのよ」


 そうはいうものの、後ろ手に組みモジモジしている。

 もしかして照れているのか?

 この場合、似合ってる……とか言わない方がいいよな。

 えっと、大人用の服は……


「モナカくん、ボクには無いのかい?」

「ん? フレッドでも呼んでくるか?」

「どうしてだよっ」

「きっと俺以上に似合う服を選んでくれるぞ」

「もう。モナカくんが選んでくれるから、意味があるんだよっ」

「そういうものか?」

「マスター、時子さんの服は選んであげないの?」

「時子さんの? タイムの……じゃなくて?」

「じゃなくて」

「なぁに。モナカくんが選んでくれるの?」


 時子さんが無邪気に聞いてくる。

 本当は先輩に選んで欲しいのではないだろうか。


「選んでいいの?」

「あはは、別にいいよ」


 なら、先輩の代わりに選んでみようか。

 エイルのは割と適当に選んでしまったからな。

 女の子の服を選んであげた記憶は無いけど、ちゃんと考えてみよう。


「あれ? ボクの服は?!」

次回は時子の服を選びます

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