第26話 質疑応答
今度こそ、全員が話し終わった。
「ふむ。皆様、お話し頂き有り難う御座います。それでは前金と致しまして、トキコ様にお支払い致しましょう。残りは達成報酬ということで宜しいですね」
「分かったのよ」
「それではトキコ様、お渡し致します」
デイビーさんは懐からカードを取り出した。
エイルやアニカが持っている身分証と大きさは同じだが、色や図柄がかなり違う。
エイルたちのものは、正に石のカードといった感じだ。
エイルのものには工房の看板になっている図柄が、アニカのものにはオルバーディング家の家紋が刻まれている。
だがデイビーさんのものは碧く、そして金色でなにかの模様が施されている。
時子さんはその身分証を掴んだ。
そして受け取ろうとするが、デイビーさんはそれを手放さない。
当たり前だけどね。
「時子、携帯を出すのよ」
「え?」
時子さんはエイルから貰った腰に付けるタイプのケースから、携帯を取りだした。
今までは学生鞄に入れていたのだが、そこから一々取り出していたのでは、オオネズミといえども対処が遅くなる。
見かねたエイルがプレゼントしたのだ。
そして時子さんはその間も、デイビーさんの身分証を掴んで離さない。
「時子、手を離すのよ」
「え?」
そう言われてやっと手を離した。
もしかして、あれを金券かなにかと思ったのかな。
「タイムちゃん、携帯でのやり方のよ、分かるのよ?」
「うん、任せて」
「時子さん、携帯を開いて」
俺の腕の中のタイムが返事をしたかと思うと、次の瞬間には時子さんの携帯からタイムの声が聞こえてきた。
もうなんでもアリだな。
「あ、うん」
タイムがやり方を説明し、時子さんが携帯を操作する。
俺と違って、自分でお金の管理ができるようだ。
どうして俺はタイムに財布の紐を握られているのだろう。
デイビーさんはその様子を興味津々で見つめている。
タイムを見たときでさえ、そのポーカーフェイスが崩れることはなかった。
なのに時子さんが携帯を開いた途端、その顔が崩れた。
わざわざ操作している手元を覗き込むくらいに、だ。
「後は携帯をデイビーさんの身分証に触れればいいんだよ」
「身分証?」
「デイビーさんが差しだした碧いカードだよ」
時子さんが携帯を身分証に触れさせる。
するとデイビーさんの前に、確認画面が現れた。
しかし画面に触れようとした指が止まってしまった。
「ふむ。この額で宜しいですか」
「疑うのよ?」
「いえ、決してそのようなことでは御座いません」
止まった指が再び動き出し、画面に触れる。
画面が消え、受け渡しが完了した。
後は滞納している利用料を支払うだけだが……
どうやらタイムはそのやり方も分かっているらしく、時子さんに操作方法を教えている。
『へー、タイムは支払い方法も知っているんだな』
『ん? 違うよ。今教わりながら教えてるんだよ』
『教わりながら?』
『うん!』
また例の声に教えてもらっているということか。
本当に世話好きな声だな。
「これで確認が取れれば、普通に使えるようになるってさ」
「分かった。タイムちゃん、ありがとう」
「ふふ、どう致しまして」
時子さんが携帯をケースに仕舞うと、デイビーさんが残念そうな顔をした。
しかし、すぐにいつもの顔に戻った。
もっと見ていたかったのだろう。
なにげに、デイビーさんの感情が表に出た顔を初めて見たような気がする。
「支度ができましたら、こちらにご連絡ください。案内の者と繋がるようになっております」
差し出された身分証に、エイルが自分の身分証を触れさせる。
「分かったのよ。いつまでに出ればいいのよ」
「そうですね。今週中でお願いできますか」
今週中ということは、あと4日か。
「分かったのよ」
「有り難う御座います。なにか質問は御座いますか」
「失敗した場合のよ、どうするのよ」
「成功するまで続けて頂きます。幾日でも、何ヶ月でも、何年でも」
「本気……なのよ」
「無論で御座います」
「相手が自分の世界に帰った場合はどうすればいいのでしょう?」
「その場合は、脅威が去ったことですし、依頼達成扱いで構いません」
なるほど。
必ずしも連れて行かなければならないわけではないのか。
「ならのよ、相手が死んだらどうなるのよ?」
「死体を持ち帰って頂くことになります」
死体を?!
そこまでしないといけないのか。
「その辺りの判断は、案内の者にさせますので、ご安心ください」
「経費はでるのよ?」
「必要な物は、案内の者に支払わせてください。ご自身で支払ったものに関しましては、経費にはなりません。ご了承ください」
なるほど。
お目付役というよりは、財布ってことか。
よし、使い倒してやろう。
「他には御座いませんか」
「あの、お給料って出るの?」
「時子さん?!」
いや、報酬は前払い分と成功報酬があるでしょ。
「だって時子は貰ってるけど、みんなは要らないの? それに何ヶ月もかかるんなら、やっぱり欲しいじゃない」
確かに何ヶ月もタダ働きはアレだけど。
こういうのって、経費があるだけでも凄いのでは?
「ご安心ください。日当はきちんとお支払いしますよ」
「ホント?!」
「はい。無論、トキコ様にもお支払い致します」
「え、いいの?」
「問題御座いません」
「うわぁ、ありがとう!」
まさか貰えるとは思わなかった。
しかも日当ということは、働いた分だけ……ということか。
その判断は、案内人がするんだろう。
報酬が貰える上に日当まで出る。
相当厄介な相手なのかも知れない。
日当の出る依頼って、あんまり見ないと思った
ま、そのくらいには社会が発展している、いや衰退していないと思ってもらえたら、幸いです
次回、エイルのお着替えです




