第25話 エイルの生まれ
エイルが転生者。
もしかして、だから科学世界について詳しいのか?
俺はエイルが勇者小説を読んでいるところを見たことがない。
もしかしたら、紙媒体ではなく、電子媒体……この場合は魔導媒体?
なんて言うのかは分からないが、とにかくエイルが使っている端末の中にあるのかも知れない。
勇者小説自体は、デイビーさんの話で実在することは分かっている。
エイルがいつも言っている〝勇者小説の知識〟というのも、嘘ではないのだろう。
だが、それにしては詳しすぎた。
だからエイルが転生者だというのなら、それはそれで納得できる。
エイルは俯いたまま、なにも言おうとはしない。
「御自分ではお話ししづらいようですので、僭越ながら僕からお話しさせて頂きましょう。エイル様は――」
「待つのよ。うちが話すのよ」
静かに、エイルが言葉を放つ。
「失礼致しました。差し出がましいことをしてしまい、申し訳ない」
「エイル、お前も……なのか」
エイルを見つめるも、視線を合わせようとはしてくれない。
どうして話してくれなかったのだろう。
「うちは……のよ」
口は動いているのだが、言葉が中々出てこない。
喉で渋滞を起こしているかのようだ。
俺は固唾をのんで、エイルの言葉を待った。
そして、エイルの口から予想外の言葉が出てきた。
「3千年前のよ、妖精族はみんな妖精界に還ったのよ」
いきなり先ほどやった歴史の復習が始まった。
一体なんの関係が?
「でもハーフのよ、人間界に残ったのよ。ハーフは妖精界で生きられないのよ。うちの祖先のよ、ドワーフハーフが居るのよ。うちはドワーフの先祖返りなのよ」
「……え?」
「だからうちの身長のよ、低いのよ。手先も器用なのよ」
なるほど。
言われてみればトレイシーさんと比べても背が低い。
髭も……いや、生えてはいないな。
だがドワーフのような樽体型ではない。
ちびマッチョっていうのかな。
俺よりも筋肉質で力が強い。
その癖出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
先祖返りではあるが、転生者ではない。
ということは、知識はすべて勇者小説が元なのか。
それも禁書時代の。
「……上出来でしょう。有り難う御座いました」
「……うるさいのよ」
こんどこそ、全員が話し終わったんだよな。
「それでは最後に、妖精様のことをお話しして頂きます」
そんなに甘くはなかったか。
なんとか誤魔化せないものか。
「妖精……ですか?」
「はい。試験の時にも大活躍されていたではありませんか」
あー、これは誤魔化せそうにないか。
仕方が無い。
『タイム』
『うん、分かった』
タイムが携帯の中から出てきて、俺の手のひらの上に立った。
「初めまして。タイムは、タイム・ラットと言います」
片足を1歩下げ、スカートの裾を摘まんで軽く膝を曲げる。
今回は一発で決まったようだ。
「貴方様が、妖精様で在られますか」
「そ、そうです」
デイビーさんに気圧されながらも、タイムはそう答えた。
デイビーさんはタイムを頭の先からつま先まで、正面から見つめ、右から見つめ、左から見つめ、じっくりと観察している。
あまりにもしつこいので、俺はサッとタイムを抱え込んで隠した。
「タイムは見世物ではありません。あまりじろじろ見ないでやってくれますか」
「これはこれは、大変失礼致しました。僕は話でしか妖精様を存じ上げませんので、つい。気分を害されたのでしたら、謝罪致しましょう」
そう言って、頭を深々と下げた。
エイルに言わせれば、猿にでもできるというが、猿には絶対にできないだろう。
何故なら、謝罪しているときでさえ、声色が変わらないからだ。
普通なら感情に左右されて声色が多少なりとも変わるものだ。
なのにデイビーさんは全く変わらない。
少なくとも、俺には変化が感じられない。
〝仕事〟と言ったときでさえ、雰囲気に威圧感はあったが、声色は変わらなかった。
そういう意味で、猿には無理なのだ
「もう構いませんよね」
「もう少し詳しくお話しして頂けませんか」
「もう少し、ですか」
「そうですね。出会った経緯や、何故共に居られるのか、といったことをお聞かせ願えれば幸いで御座います」
出会い、か。
さて、何処まで話せば良いのやら。
と思案していたのだが。
「タイムがマスターに一目惚れしたんだよ」
タイムが勝手に語り始めた。
『おいタイム』
『マスターは黙ってて。ね?』
『……分かった。変なこと、口走るなよ』
『分かってる』
「妖精様、一目惚れとはどういうことでしょうか」
「そのままの意味だよ。散歩しているときに見かけて、思わず走り寄っちゃったんだよね。それで何度か逢ううちにお話しするようになって、遊びに行くようにもなって、そして一緒に居るようになったんだよ」
それはさすがに嘘が過ぎないだろうか。
「そうでしたか。有り難う御座います」
あれ?
簡単に信じてしまったな。
別に嘘が見抜ける能力があるとかではないようだ。
気づいていないということは、無いはずだ。
予言者もタイムのことまでは予言しなかった、あるいはできなかったということか。
いや、時子さんに似ていることについて、なにも言わない。
それがかえって不気味だ。
どうですか
エイルのこと、予想は当たりましたか?
次回、細かい条件や報酬などの取り決めです




