第22話 中央省 異世界部門のお仕事
デイビーさんが俺を見つめてくる。
目を反らさずに俺も見つめ返す。
タイムが出てくるまで動かないつもりか?
そう思っていたのだが。
「それでは、お話ししましょう。まず簡単に異世界部門の仕事内容について。異世界があることは、勇者小説の愛読家であるエイル様ならご存じですよね」
「……知ってるのよ」
「遙か昔、魔王による圧政に耐えかねた民衆が決起しました。そのとき、希代の天才召喚術師が、あろうことか異世界から1人の少年を召喚してしまったのです」
チラリとアニカを見る。
が、それも一瞬で、直ぐに視線をエイルに戻した。
「そして、その彼こそが魔王を倒し、次期魔王となる勇者なのです」
「え、勇者が魔王になったのですか?」
「はい、なにかおかしいですか」
「いえ……」
まぁ、勇者が魔王になる話なんていくらでもあるからな。
別におかしな話でもないのか。
それに魔力世界の王なのだから〝魔の王〟、つまり魔王というだけの話かも知れない。
「この勇者召喚は意図的に行われたのではありません。存在が伝説であった神界への扉を開けようとして、新たな召喚法則を構築しました。つまりは、神族の召喚実験だったのです。成功していたならば、神族を召喚しているはずでした。しかし、実際には神界ではなく異世界に繋がってしまっていたのです」
「デイビーさんは、まるで見てきたかのように話すのですね」
「僕が見ていたのではありません。そう記述された古文書があるのです」
「古文書なのよ?!」
「ふふ、ご協力頂けるのなら、エイル様の閲覧許可の申請をお出しすることもできますよ」
「い、要らないのよっ」
「そうですか」
「話を続けるのよっ」
「いえ、ここまでです。勇者様の話は、異世界が実在する根拠ですので。お気になるようでしたら、やはり閲覧許可の申請をお出ししておきましょうか」
「……」
今度は拒否しないのか。
エイルも意外と分かり易い奴だな。
「異世界部門では、異世界から渡航してきた異世界人の把握が主な任務なのです。この世界の住民である貴方方なら、5千年前の世界崩壊をご存じですよね。とある軍事大国が新兵器の実験をしておりました。その実験は一時は成功したかに思われました。しかし、程なくして暴走を始め、世界の半分が消失したと言われています」
「〝言われています〟?」
「ええ。何故なら、半分失ったはずなのですが、失っていなかったのです」
「どういうことですか?」
「なにかが代替して現れた……と考えられています。それがなんなのかは分かっていません。しかし世界の魔素は確実に半減してしまいました。その魔素の減少に耐えられなくなった妖精族が、人間界から妖精界に還っていき始めました。それから2千年後、今から3千年前のことですが、妖精族は人間界から居なくなったとされています」
今度は俺に一瞬だけ視線を送ってきた。
『タイム』
『うん、分かってる』
「そして更に2千年後、つまり今から1千年前ですね。更なる魔素の減少が始まりました」
「魔素の減少が始まった?」
「はい、同時に毒素が発生するようになりました。魔素の減少は止まるところを知りませんでした。徐々に徐々に、しかし確実に減少していきました。そしてそれは、失われた半分と言われる地域から広がっていったのです」
「どういうことですか?」
「原因についてはなにも分かっていないのです。当時の調査記録では、調査に行った者は誰1人帰ってこなかったとしか記されていないのですから」
「誰1人……ですか」
「世界の侵食は更に進み、人類の生息圏は狭まっていきました。人類は生き残る為、試行錯誤の結果、600年前に現在の結界を張ることに成功しました。その結界の維持・管理を中央省が行っているのです。そしてこれらの事態は異世界から来た何かが原因であると結論づけたのです」
「何故異世界から来たなにかが原因だと?」
「世界の半分の代替品。これが異世界から来たとするのが有力なのです。エイル様にお渡しした鉱石、あれも異世界から来たものだと言われています。ですよね、エイル様」
「……知らないのよ。あれは父さんが結界の外のよ、見つけて持ってきた物と同じ物なだけなのよ」
「そうでしたね。失礼しました。当時の人々は異世界人の仕業であると断定し、異世界人に敏感になりました。異世界人と疑われた者は、異世界人狩りや審問に合い、異世界人裁判なるものまで行っていました」
「異世界人裁判?!」
「はい。罪なき人々が大勢殺されたと言われています」
まるで俺たちの世界の魔女と同じだな。
何処の世界でも、似たようなことが起こるということか。
「勇者小説も禁書として、その多くが焼き払われました」
「えっ?!」
「ご安心ください。現在、そのようなことはありませんよ。勇者小説も新たに出版されています。内容は大分変わってはいるようですが……ですよね、エイル様」
「いちいちうちに聞くんじゃないのよ」
それはつまり、エイルは禁書として焼き払われることなく、現代に残っている勇者小説を知っている、ということだろうか。
「今となっては彼らが本当に異世界人だったのか分かりません。そのようなことを繰り返さない為、中央省が管理するようになったとされています。異世界部門では、異世界人の把握と、渡航目的の聞き出しをすることが主な仕事です。もしこの世界に害をなすような異世界人であれば、排除も止むなし、ということです」
「その仕事を手伝えというのよ?」
「左様で御座います」
「……それでのよ、どうすればいいのよ」
「エイル、受けるつもりなのか?」
「まだ最後まで聞いてないのよ。それだけなのよ」
本当にそうか?
聞いても聞かなくても、もうエイルの中では決まっているのではないか?
それならそうと、はっきり言ってくれてもいいのに。
まだ迷っている振りをするのか。
それとも、本当に迷っているのか……
俺には分からなかった。
この世界にとっての異世界がなんとなく分かったかな
これが全てではないけどね
次回はいよいよエイルが決断します




