第204話 エイルの審査眼
「看守さん、ありがとう、ございました」
「ありがとうございました」
「あいよ……おや? んん……んー少し飲み過ぎたかのぉ。嬢ちゃんが2人に見えるぞ」
看守が酒を片手に目を擦っている。
幻覚ではないので、素面でも2人に見えるのは確実だ。
「ふふっ、お大事に」
「ああ、ありがとよ。またおいでな」
「「はい!」」
拘束室を出て、部屋へと戻る。
会う人が皆二度見をしていく。
中には持っている物を落として、小さな悲鳴を上げる人まで現れた。
「そんなに、変、かな」
「いきなり2人に分裂したらねー。そりゃ驚くでしょ」
「でも、悲鳴を、上げる、ことは、ないで、しょ」
「失礼だよねー」
「ねー。でも、よかった。お姉ちゃんが、大きく、なれて」
「あー、それね。あははは」
「ほら、試験の、時に、頑張ったから、大きく、なれない、って、言ってた、でしょ」
「そんなこと言ったかな」
「それって、ふう、バッテリーを、いっぱい使った、って、ことでしょ。だから時子、充電、頑張ったんだよ」
「それでマスターに充電充電言ってたの?」
「初めはね。でも、段々、モナカくんと、先輩、の、境界が、薄れて、いって、気がつい、たら、はぁ、充電を、言い訳に、ベタベタ、してたの」
「そうだったんだ」
「だから、お姉ちゃんが、大きく、なって、いられるよう、に、これからも、充電、頑張るよ。なーんて」
「「っふふふ」」
部屋まで戻ってきて、ふと気づいた。
タイムは自力で扉を開けることができない。
「2人揃って、入ら、ないと、ダメみたい、だね」
「そうだね。エイルさんに協力してもらおうか」
なので、先にエイルの待つ部屋へ入る。
アニカは既に、夢の中だった。
エイルはタイムといつものように、プログラミングに励んでいる。
エイルの元に残っていたタイムは、普段通り小さいままだ。
向かい合わせで、作業をしている。
「エイルさん」
「なにか用な……のよ? タイムちゃんと時子?」
「はい」
「隠すのは止めたのよ?」
エイルが訪ねるが、返事がない。
「時子、なにやってるの? 返事しなきゃダメでしょ」
「そっか。今は、時子が、お姉、ちゃん、ふぅ、なんだっけ」
ヒソヒソとやり取りをする2人。
エイルが怪訝な顔で、首を傾げた。
「あ、うん。バレてるから、もういい、かなって」
「ん? ……あーそういうことのよ。タイムちゃん、こっちで手伝ってほしいのよ」
「あ、はい」
いつものように、タイムが手伝おうとする。
「時子じゃなくて、タイムちゃんなのよ」
「あ」
「お姉ちゃん、時子に、エイルさんの、お手伝い、なんて、できないよ」
「チビが耳元で教えるから、頑張って」
「えー?!」
「タイムちゃん、早くするのよ」
「は、はい!」
「これなのよ」
時子にとって、エイルの話はチンプンカンプン。
耳元でタイムが言うことを、ただただオウム返しで言っているだけ。
それでも専門用語は言い間違えるし、聞き取れなくて詰まったり。
とてもじゃないが、やっていられない。
そんな様子を、タイムは後ろからハラハラしながら見ていた。
すると、エイルが手を止めてしまった。
「タイムちゃん、今日はおしまいにするのよ」
「え?」
「疲れてるみたいなのよ。だから今日は終わりにするのよ」
「分かり、ました」
「だから今日のよ、モナカと寝てくるのよ」
「モ……マスターと?!」
「分かったのよ?」
「は、はい。分かりま、した。おやすみ、なさい」
「おやすみなのよ。あ、タイムちゃん」
出て行こうとする2人を呼び止めた。
そして一言。
「時子の胸のよ、もう少し小さいのよ」
「「! ご、ごめんなさい!」」
逃げるように、部屋から出た。
エイルには、初めからバレていたようだ。
「もう、お姉ちゃんが、見栄張って、大きく、しすぎる、からっ!」
「時子だって、なにも言わなかったじゃない!」
「自分の、胸の、大きさ、なんて、客観的に、見ないもん。分かんな、いよ。エイルさんが、おかしい、ううっ、だって」
「それは否定できないな。とにかく、少し小さくしてっと」
「小さく、しすぎじゃ、ない?」
「そんなことないと思うよ。それにマスターがそんな細かい違いなんて分かるわけないよ」
「それも、はぁ、そうか。なら、大きい、ままでも、よくなかった?」
「よくないよっ!」
「そ、そう? とにかく、次は、本番だよ」
「分かってる。ほら、扉開けて」
「うん……なんか、中が、騒がしいね」
中から2人の声が聞こえてくる。
内容までは、よく分からない。
「そうだね。ナームコさんが暴走してマスターを困らせてるのかな」
「とにかく、開けるよ」
中から言い争うような声が聞こえてくる。
不審に思いつつ、時子が扉を開ける。
そこでは、スケスケのネグリジェ姿のナームコと、モナカが言い争っていた。
エイルは相変わらずおかしいのであった
次回は寝るにも順番がある




