第203話 大きいか、小さいか
時子がタイムを叩く。
そしてタイムたちが時子を叩いたり噛み付いたり引っ掻いたりする。
「大勢で来るなんて卑怯だよ。このペチャパイ!」
「ちっちゃいんだからハンデだよ! このデカパイ!」
タイムはそう反論したが、そのまま自分にダメージとなって返ってくる。
「自分で言ってて落ち込んでんじゃないよ」
「うるさい! チッパイで悪いかっ!」
そう言って、更に落ち込んだ。
「だったら大きくなればいいでしょ!」
「タイムは成長しないから大きくなれないんだよ」
そう言って、自分で傷口に塩を塗っていた。
「やっぱり嘘つきじゃない! 時子見たんだからね。お姉ちゃんが大きくなってるとこ!」
「えっウソっ。いつタイムの胸、大きくなってたの?」
突然の朗報に、感極まった。
「胸じゃなくて、身体の話! 身長の話! 時子と大差ないくらいに大きくなってたでしょ!」
「背は高くなっても、胸は大きくならないんだよっ」
現実を再確認させられてしまう。
「胸はどうでもいいでしょ!」
「よくないっ。大は小を兼ねるんだよ。大きいに超したことないんだよ。どうでもいいならタイムにちょうだいよ!」
「そういう意味じゃないよ。あげないよっ! お姉ちゃんは時子と同じ大きさになれるでしょって話」
「……え? な、なれないよ? 時子のケチ」
「なってたでしょ! お姫様抱っこされて、部屋を出て行ったじゃない。お姉ちゃんならいくらでも盛れるでしょ」
「ウソ! いついついつ? シリコン注入とか、怖いじゃない」
「時子がご主人様とシャワー浴びて倒れたときだよ。シリコン入れなくても、身体を大きくする要領で大きくできるんじゃないの?」
「えっ、あのとき? それができないから苦労してるんじゃない」
「泣き疲れて寝ちゃったお姉ちゃんを、モナカくんがお姫様抱っこで連れてったんだよ。なんでできないの?」
「泣き疲……えっと、もしかして聞いてた? できなくないけど、CPUの演算が追いつかないから、揉まれたときに指がめり込むって」
「なにを? 揉まれたって……モナカくんに?」
「聞こえなかったんならいいの。気にしないで、あはははは……って、まだ揉まれたこと無いよっ」
「とにかく、そのとき時子と同じ大きさになってたでしょ。めり込むくらい気にしなければいいじゃない。揉まれたいの?」
「そっか、あのとき見てたんだ。迂闊だったな。よくないよっ。服とか着ても、胸が服を貫通して見えちゃうって言ってた。マスターが望むなら……って、なに言わせるのよっ! そういう時子はどうなの?」
「だから、もう隠さなくていいんだよ。なにそれ、あり得ない! 時子?! ま、まだ早いかなって、あはははは……」
「やだよ。時子と同じ大きさなのに、胸は小さいままなんだよ。そんなの、惨めじゃん。お姉ちゃんなのに……それに小さかったら、揉んでも楽しくないかなって」
「そんなこと気にしてたの?!」
「気にするよっ! 時子が召喚されたとき、マスターは胸を見て別人だって判断したんだよ」
「ウソでしょ!」
「ホントだって」
「モナカくん、胸の大きさで時子とお姉ちゃんを判断してるの?」
「……多分」
「なら、試してみる?」
「試す?」
「うん。お姉ちゃんの胸を大きくして」
「だから、服からはみ出ちゃうんだって」
「ボールかなんか入れればいいじゃない。で、時子はさらしを巻いて潰すの。それで入れ替わってみればいいんだよ」
「マスターを試すの?」
「胸で判断するようなクズは、先輩なんかじゃない」
「マスターだって男の子なんだよ。仕方ないじゃない」
「そりゃ、先輩だって男の子なんだから、エッチなのは仕方ないと思うよ。でも胸の大きさで人を区別するようなヤツは先輩じゃない」
「他に区別できるところが一切無くても?」
「無くても!」
「時子は夢を見すぎだよ。大事なのはそこじゃないんだからね」
「いいから、やるよ。さらし出して!」
「はぁ。分かったよ」
タイムは観念して、大きくなった。
その見た目は、時子の生き写しであった。
胸を除いて。
「ん? 今誰か悪口言ってなかった?」
「気のせいじゃない? でも、本当にそっくりだね。鏡を見てるみたい」
頭の先から足の先までジッと見比べ、そして再び頭の先へと見比べたとき、思わず胸で目が止まる。
その瞬間、反射的に目を反らした。
「今、時子も胸を見て〝あ、鏡じゃないや〟って思ったでしょ!」
「そ、そんなこと思ってないよ」
「だったらタイムの目を見て言ってみなさいよっ」
「そんなわけないじゃない。あはは、はは……」
「ほら、目が泳いでるじゃない。自分で言っておいて、自分もそうなんじゃん。そんなんでマスターのこと、悪く言わないでよっ!」
「う……ごめんなさい」
「もう。じゃ、もういいよね」
「ううん。それはそれとして、試してみようよ」
「えー。じゃあ、服脱いでよ」
「なんで?!」
「服も交換しなかったら、変でしょ。タイムは時子の寝間着のデータ、持ってないんだから」
「お姉ちゃんは服脱げるの?」
「脱げるよ。脱げなかったら裸になれないじゃない」
「裸になるときは、服を消してるんじゃないの?」
「使い分けくらいできるよ。それに消しちゃったら、マスターに脱がしてもらえないでしょ」
「モナカくんに脱がしてもらってるの?!」
「あ……えっと、まだない、かな。あはは」
「ホントに?」
「いいから! あ、ブラも貸してよ」
「ブラも?!」
「当たり前でしょ。まさかブラの上からさらし巻くつもりだったの?」
「そんなことしないよ。じゃあ、お姉ちゃんのブラも貸してよ」
そう言われて、タイムは動きを止めた。
メデューサに見られて、石像になってしまったかのようだ。
「お姉ちゃん?」
「うるさいな! チッパイで悪いかっ!」
「あ……ごめんなさい」
「謝るなっ! バカッ!」
「あはははは……はい、ブラ」
渡されたブラジャーを無造作につかみ取る。
そしてまじまじと見つめて、改めて自分との差を実感してしまう。
敗北感に襲われ、歯を噛みしめた。
「あ、付け方分かんないよね。付けてあげようか?」
時子は、タイムが動かないのを、付け方が分からないからだと勘違いしてしまった。
それが更にタイムを奈落の底に落とすことになるとも知らずに。
タイムが以前、何度も付けていた……などということを、知るよしもない。
「分かるよっ!」
そう叫んでブラジャーを付け始める。
分かっていたことではあるが、あるべきものが全く無いので、ブカブカどころの騒ぎではない。
自分で言い出しておいて、後悔するのであった。
しかし、付けないわけにもいかない。
取り出したボールを胸とブラジャーの間の虚無空間に詰め込む。
大きさを調整し、それっぽくはなった。
そして時子の寝間着を着込み、準備万端だ。
だが、ただ詰めればいいタイムと違い、あるものを無いものとして見せなければならない時子は大変だ。
さらしを巻くには巻けたが、それでも中々の存在感がある。
中々無いようには見えない。
「もっとキツく絞めなきゃダメだよ」
「そんなこといっても、無理だよぉ」
「もーしょうがないなぁ」
見かねたタイムが思いっきり締め上げる。
まるで恨み言でもあるかのように。
いや、あるのだろう。
「痛い痛い!」
「時子が言い出したんだからね。我慢してよ」
「そんなこと言われても。く、苦しいよ」
「こんな駄肉を付けてるのが悪いんでしょ」
「そんなぁ」
かつて自分も付けていたことを棚に上げ、親の敵と言わんばかりに締め上げていた。
そしてタイムほどではないが、無いように見せかけられる程度には小さくなった。
「ん? また悪口が聞こえたような気がする」
「時子には、なにも、聞こえない、よ」
「もう少し普通に喋れない?」
「苦しくて、無理」
「じゃあエイルさんに話しておくから、マスターと会わずにエイルさんの部屋に入って」
「会わないん、だったら、時子が、さらし巻く、必要、無いんじゃ、ない?」
試す相手はモナカただ1人。
会わないのなら、潰す必要は無い。
「ついでだからエイルさんとアニカさんも試してみようよ」
「2人も?」
「そうそう。じゃ、戻ろうか」
「う、うん……うう、キツいな」
「文句言わない! 嫌ならちっちゃくなりなさい」
「無理だよぅ」
胸の大きさの話はよく出てくるけれど、男の息子の大きさの話ってあんまり出てこないよね
せいぜい茸の話くらいだ
次回はエイルの神眼です




