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第20話 望まない来訪者

 携帯(ケータイ)のダウンロードが遅くなった問題は、原因が分かったので対策をした。

 しかし根本の問題がまだ未解決だった。


 利用料金の未納問題。


 異世界に来て、まさかこんな問題が発生するとは思わなかった。

 確かに俺も最初の頃は収入がどのくらいになるかも分からなかったから、同じ問題を抱える可能性はあった。

 最初の明細に〝通信費〟とあったので、契約を見直して、今では定額契約を結んでいる。

 短期間で使いすぎなければ、無制限の契約だ。

 ……それを無制限というのかは(はなは)だ疑問ではあるが、気にしてはいけない。

 Mmode(マジックモード)と違い、基本的にアプリをダウンロードしてしまえば、通信をすることはほぼない。

 世界地図(ワールドマップ)を使うときくらいだろうか。

 だから俺は高額請求になったことはない。

 来月10日までに約80万円を支払いできないと、口座凍結になるという。

 それまでに、なんとか金策をしないと……


「ゲンコウ類を狩るのはどうだ?」

「今は殆どのゲンコウ類のよ、禁猟期間中なのよ」

「そういえばそうだな」

「狩れる種のよ、旬じゃないのよ。買取額が低いのよ」

「となると、オオネズミを狩り尽くすしかないのか?」

「……1つ方法があるのよ」

「どんな?」


 エイルは机の引き出しから、1つの小さな宝石箱のようなものを取り出した。

 そしてそれを開いて見せた。


「これを売るのよ。支払いをしてもお釣りが来るのよ」

「それって1次試験の時に報酬として貰った、例の鉱石じゃないのか?」

「そうなのよ」

「それを売るって、どういうことだよっ」

「そのままの意味なのよ」


 玄関の呼び鈴が鳴った。

 誰か訪ねてきたようだが、そういった話は聞いていない。

 エイルが対応しようとしたが、トレイシーさんの返事が聞こえてきたので、任せることにしたようだ。


「……持っているだけなのよ、価値は無いのよ」

「だってそれは――」

「父さんの石じゃないのよっ」


 エイルがお父さんから貰った鉱石は、俺が転生したときに紛失してしまった。

 エイルは鉱石が俺になったと思っているらしい。

 事実は分からないが、無関係とも言いがたい。


「それは、悪かったと思ってる。すまん」

「気にしなくていいのよ」


 そんな折、伝送管の蓋が開いた。

 エイルの部屋には、玄関と台所と作業場2カ所の計4ヶ所と伝送管が繋がっている。

 そのうちの玄関のものが開いた。

 関係ないが、開いていれば俺も相手と会話することができる。

 開いていれば……だ。


「エイルさん、お客さんよ」


 尋ねてきた者は、エイルに用があるようだ。


「お客なのよ? 誰なのよ」

「みなさん、お久し振りです。僕は中央省で補佐官をしているデイビー・ラッセル・ルーゼドスキーと申します」


 この声は……中央省で俺たちのことを尋問してきた2人組の、背の高い方だ。


「母さん、お客さんのお帰りなのよ」

「エイル様、お話だけでもお聞き頂け――」

「ないのよ」


 そう言うと、エイルは伝送管の蓋を閉じた。


「エイル、いいのか?」

「話すことなんてないのよ」

「まあそうなんだけど……」


 あれから一ヶ月ほど経っている。

 こっちからは一切連絡をとっていない。

 あっちが痺れを切らしたのか?


「酷いではありませんか」


 扉の向こう側から声が聞こえてきた。

 どうやら上がり込んでいるらしい。


「勝手に上がり込むんじゃないのよ」

「お母様には許可を頂きました」

「中央省に刃向かえるわけないのよ」

「エイル様は刃向かっていらっしゃるようですが……」

「うちはいいのよ」


 どんな理屈だ。


貴方方(あなたがた)にとっても、悪い話ではありませんよ」

「さっさと帰るのよ!」

「ほんの5分で宜しいのです。お話しをさせて頂けませんか」

「そういう奴の話のよ、5分で終わった(ため)しがないのよ」

「トキコ様の携帯(ケータイ)利用料金、足りていらっしゃらないのではありませんか」


 何故それを知っている?

 俺たちがそれを把握したのはついさっきだ。

 中央省からここまで来るのだって、結構掛かる。

 それなのに、狙い澄ましたかのようなタイミングでここに来やがった。


「なんのことなのよ」

「ふふ、隠さなくても宜しいのです。僕はそれを手助けできる話を持ってきました」


 手助けできる話?

 80万円が支払える話といったら、相当ヤバいのではなかろうか。

 確かに金は欲しい。

 だがそんな危険なことに、時子さんを巻き込むわけにはいかない。

 ん? 違うな。

 ()わせるわけには、か。

 エイルは時子さんの顔色を(うかが)っている。

 困っているのは時子さんだ。

 勝手にエイルが断るわけにはいかないということか?

 しかし当の時子さんは、それに気づいていないようだ。


「時子さん、どうするの?」

「ん? なにが?」

「だから、携帯(ケータイ)代がどうにかなるかも知れないんだよ」

「え、ホント?」

「代償になにかやらされるかも知れないけど」

「代償ってなに?」

「それは分からないけど……」

「どうでしょう。僕の話を聞いてから判断しても宜しいのではないでしょうか」


 確かにその通りである。

 それを時子さんが判断する、というのが気がかりではある。


「引き受けて頂けるのなら、結界の外へ行けるかも知れま――」


 言い切らないうちにエイルが扉を開けていた。

 お前、そんな簡単に釣られる奴だったっけ。

 それだけ外に行きたいという現れなのか。


「有り難う御座います」

「話を聞くだけなのよ。ここは狭いのよ。下の仕事部屋に行くのよ」

第1部のキャラが再登場しました

出世したなー

次回は心理戦っぽいなにかです

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