第2話 親子登録
1週間もすると、エイルの体調も戻ってきた。
明日狩りに行く為、エイルに付き添って貰い、俺と時子さんは狩猟協会に来ていた。
前回来たときと同様、まずは書類を書かなければならない。
だが俺も時子さんも魔力を持っていない。
だからエイルに代筆してもらう必要がある。
半ばこの為にエイルの回復を待っていたようなものだ。
更にいえば、俺はこの世界の文字を、左目を通して読むことができる。
時子さんも似たようなもので、携帯のカメラで文字を撮ると、携帯の画面に翻訳された内容を上書きした映像が表示されるから、読むことができる。
重要なのは、俺と同じで異世界文字を読むことができても、書くことができないということだ。
書類を読みながらエイルに必要事項を書いてもらい、受付で処理をしてもらう。
「承りました。親になる方の身分証を右側に、子になる方の身分証を左側に置いてください」
受付嬢が提示した石版の右側に俺が携帯を置く。
そして左側に時子さんが携帯を置いた。
「……失礼ですが、そちらが身分証でお間違い無いでしょうか?」
「はい、間違いありません」
間違いはないが、受付嬢が確認してくるくらいだ。
特に携帯をまじまじと見ている。
余程変わった形なのだろう。
「失礼しました。それでは、そのまま暫くお待ち下さい」
受付嬢が手元の端末を操作する。
石版の表面に線が走り、携帯と携帯を囲んだ。
淡く青い光が携帯と携帯の間を行き来し始める。
「ねえ、これなにしてるの?」
「俺と時子さんで親子関係を登録してるんだよ」
「親子関係?!」
「見習いの時子さんの責任を、俺が取るんだよ。本当の親子になるわけじゃないよ」
「あはは、そうなんだ」
「時子さんは見習いだから、俺が居ない時に狩ると、密猟になるから気をつけてね」
「気をつけるもなにも、モナカくんが居なかったら無理だよ」
「その……使用道具は本当にこれでよろしいのでしょうか?」
「あ、はい。構いません」
「分かりました。手続きを進めます」
「どうかしたの?」
「なんでもないよ。狩りの道具が特殊すぎるから、確認されただけだよ」
「そうなんだ、あはは」
登録終了後、受付嬢に先輩のことを聞いてみた。
だが〝真弓〟という名前に聞き覚えは無いという。
それから時子さんと2人で講義を受けることになった……のはいいんだが。
「あー、仲が良いのは構わねえが、真面目に聞けよ」
「それは勿論です。気にしないで貰えると助かります」
時子さんと隣り合って座っているのだが、当然ながら今も手は握ったままだ。
こんなときくらいは握らなくてもいいと思うのだが、エイルが五月蠅いのだ。
そのエイルは待合室で待っている。
待合室からここは見えないから手を離そうとしたのだが、時子さんが離してくれなかった。
「ふふっ、モナカくんに死なれたら、困るのは時子だもの」
そうかも知れないけど、寝ているときは手を離しているだろうに。
その時間の方が圧倒的に長いんだぞ。
まぁ、タイムが言うには、寝ているときは起きているときに比べて消費電力が少ないらしい。
スマホも画面を点けているときより、消しているときの方が消費電力が少ない。
……それと同じっていうのが、なんか複雑な気分だ。
「ったく、独りもんの俺に見せつけやがって。爆発しやがれ」
「マスターと時子はそんな関係じゃないよっ」
「おお?! 妖精様ではありませんか。お久しぶりでございます。その節は助かりました」
「……誰?」
「去年試験官をやらせて頂きました、ランドールでございます」
「……そんな人知らないよ」
タイム……それは可哀想というものだ。
あぁあ、しょげちゃったじゃないか。
「……ん? よく見たら、お前エイルの旦那じゃねぇか」
「モナカくん、エイルさんと結婚してたの?!」
「してないしてない! 嘘を拡散するなっ」
「マスターはタイムの旦那さんですっ。エイルさんでも時子でもないよっ」
「時子の旦那様は先輩です。モナカくんは要りません」
分かってはいるが、〝要らない〟と言われると、心に来るな。
「……このことは、エイルにゃ黙っといてやる」
「エイルも知ってるっての! 大体外で待っているの、知っているだろ」
「なんだ、嫁公認かよ。おーおー、いいご身分じゃねぇか」
「いいからさっさと講義を始めろよっ」
講義内容は狩りについての心構えが殆どだ。
親になる俺の為の話が大半を占めた。
ただ、節々に時子さんとの仲を弄ってくる。
その度にタイムが口を挟むから中々先に進まない。
その所為なのか、去年の何倍も時間が掛かったのに、タイムは最後まで寝ずに起きていた。
本当に結婚はしてないからね
次回は、堪忍袋の緒が切れたっぽい