第17話 試行錯誤の代償
あちしはまだ一度も無いよ
今日もいつものように山へと素材採取にやってきている。
こんなことばかりしていても先輩を見つけることはできないだろう。
とはいえ、日銭も稼がなくてはいけない。
探しに出掛けるとなれば、尚のこと貯蓄がないと無理だ。
無計画に旅に出れば、直ぐ無一文になってしまう。
その辺が時子さんにとっては歯痒いようだ。
しかし時子さんが補助魔法を掛けてくれるようになってから、採取効率が上がったので、とても助かっている。
オオネズミを狩るのが早くなったのではなく、エイルとアニカに掛けている〝収集率上昇〟がいい効果を出している。
〝体力上昇〟で疲れにくくなるし、フブキに〝嗅覚向上〟は鬼に金棒だ。
〝隠密行動〟でオオネズミに気づかれなくなった。
なにこのチート魔法。
勿論、そんな便利な魔法がポンポン撃てる訳ではない。
それなりにダウンロード時間も長いし、成功率も低いし、効果時間も短い。
それでも、掛ける価値がある。
時子さんも意外と負けず嫌いで、成功するまで何度も何度も掛け続けてくれた。
……もうなんでもアリだな、携帯魔法。
携帯アプリが霞んで見える。
ところが今日は調子が悪いようだ。
いつもならサクッとみんなに補助魔法を掛けてくれるのだが、今日は中々掛からない。
「なんか調子が悪そうだけど、大丈夫?」
「ん? 時子は元気だよ。どうしてそう思ったの?」
「ほら、魔法掛けるのに、今日は随分と時間が掛かっているみたいだからさ」
「あーやっぱり遅い? なんかねー、携帯の調子が悪いみたいなの」
「携帯の?」
「うん。ダウンロードに凄く時間が掛かるんだよ。ほら」
そう言って見せてくれたダウンロード画面だが、中々終わらずにいるようだ。
初めのうちはタイムを通して見ていたけれど、最近は見ていなかった。
だから気がつかなかったのかも知れない。
見ていた頃のダウンロード速度と比べると、本当に遅くなっている。
電波障害でも発生しているのだろうか。
そういえば、携帯も携帯も、何処とどうやって通信しているのだろう。
あの管理者に改造されてしまっているのだろうか。
「タイム、なにか分からないか?」
携帯の中でサポートしているタイムに聞いてみる。
「それがね、通信速度が上がらないんだよ」
「通信速度?」
「今までも時々遅くなることはあったけど、ここまで遅くなることはなかったんだよ」
「原因は分からないのか?」
「調べてみたんだけど、何処にも異常は見つからなかったんだよ」
「つまり、こっちではなくて、サービスを提供している側の問題なのか?」
「そうなのかな。そうなのかも」
突然速度が遅くなるなんてあるのか?
俺の携帯は特にそういった障害は発生していないと、タイムが確認を取っている。
つまり、携帯ではなく携帯の問題なのか?
……ん? 通信速度が上がらない?
「なあタイム、それって速度制限が掛けられているって事はないか?」
「速度制限?」
「ほら、使いすぎると速度制限がーなんて話は、よくあることだろ」
「でもそれは元の世界での話でしょ。タイムが貰った取説にもそんな話は……」
「「あ!」」
俺とタイムは、同時に1つのことに思い至った。
「なあタイム」
「うん、きっとそうだと思う」
「でも、今月頭に俺もアニカも、勿論時子さんもエイルから先月分の取り分は貰っているよな」
「そうだね」
「つまり、それでは足りなかったってことか?」
「携帯代が、携帯代を上回るの?」
「なあ時子さん、先月の携帯の利用料金は幾らだった?」
「え? 携帯の利用料金?」
「そう」
「携帯代はお母さんが払ってるから、時子は知らないよ」
「え? じゃあ携帯の料金って、元の世界に請求が回っているのか?」
「そうなんじゃないの?」
「うんとね、〝請求は時子に回したぞ〟って言ってるよ」
「え、時子に?!」
「……え?! ホントに?? ……マスター、滞納したから制限掛けてるって。なんでもっと早く教えてくれないの?! ぷぅー」
「あー、やっぱりそれかぁ」
「……滞納してたんなら、タイムにちゃんと教えてよっ。役立たず」
「え? え?」
「……迷惑メールと勘違いされるからだよっ。――」
なんか、タイムが空に向かって言い合いを始めてしまったぞ。
とりあえず、それは放っておこう。
どうやら先月、Mmodeを沢山試したから、沢山通信をしたということだろう。
それによって通信費が膨らんで支払いが足りなくなった……と。
で、引き落としに失敗して滞納してしまった。
一体幾らになったんだ?
「時子さん、利用料金の明細書がメールで届かなかった?」
「利用料金の明細書?」
「そうそう。いつも月頭にメールで届くはずだから、時子さんの携帯にも届いているはずだよ」
「……あ、もしかして。迷惑メールだと思って消したアレかな」
「消しちゃったの?」
「うん。だってタイトルに明細書なんて書いてあったら、迷惑メールだと思うでしょ」
「まぁ、そうだね。タイム、復元できるか?」
「――あーもう、うるさいうるさいうるさーい! ……ん? あ、えっとね、ゴミ箱に入ってるんじゃないかって言ってる」
「じゃあ時子さん、ゴミ箱から明細書を見てみてよ」
「ゴミ箱? 分かった、後で探してみる」
なので、今日は時子さんはなにもすることがなくなってしまった。
エイルたちの採取を見学することにしたようだ。
護衛の方は、時子さんの補助魔法がなくても問題はない。
なら使う意味はあるのかといえば、単なる練習だ。
いざというときの為に、自分がどう動けば良いかを知っておくのは良いことである。
次回はゴミ箱を漁ります




