第15話 初ヒット
目を覚ますと、時子さんが心配そうな顔で覗き込んでいた。
「時子さん、おはよう」
「よかった。このまま起きないのかと思って心配したよ」
「そういえば、時子さんには説明していなかったな」
「時子に目覚めのキスでもさせた方が良かったのよ?」
「良いわけないだろ。そもそも時子さんがする訳ないだろ」
そんなこと言ったらまたタイムが〝タイムがするから間に合ってます〟とか言いそうだ。
と思っていたのだが、そんな言葉は出てこなかった。
代わりに……
「時子さん、遠慮しなくていいんだよ」
「遠慮なんかしてませんっ。時子には先輩が居るんだからっ」
「……タイム?」
「ん? なに、マスター?」
俺の|携帯《身体と一体化したスマホ》をアップグレードすると、俺自身が再起動する。
当然タイムも一緒に再起動される。
それで元に戻るかとも思ったのだが、変わった様子がない。
つまり、一時的なA.I.の不具合ではないのか。
ということは、タイム自身が変わってしまった?
尚更分からなくなってきたぞ。
「……いや、なんでもない」
「?」
「そんなことのよアニカ、身分証を机の上に置くのよ」
「身分証ですか? 分かりました」
「俺は?」
「モナカはタイムちゃんが居るのよ、必要ないのよ」
「そうか」
机の上にはエイルの端末と時子さんの携帯に加え、エイルとアニカの身分証が並べられた。
「タイムちゃん、任せたのよ」
「タイム、いっきまーす!」
今度はタイムが4人に分裂して、各々机の上に並べられたものに入っていった。
タイムの奴、身分証にまで入れるのか。
「「「じゃ、やるよ」」」
タイムの掛け声と共に、4つの端末が碧く光り始めた。
そして光の筋が俺の胸に飛び込んできた。
かと思うと、直ぐ光が収まった。
「「「終わったよー」」」
「早かったのよ」
「繋いだだけだからね。調整はこれから少しずつするよー」
「分かったのよ」
「繋いだ?」
そういえば、以前エイルの身分証と俺の|携帯《身体と一体化したスマホ》を繋げたとか言っていたな。
あのときはアルファバージョンとか言っていたけど、もしかしてそれが完成したのか?
……完成していたら、どうなるというのだろうか。
「うん。これでタイムの行動範囲が広がるし、みんなにもサポートがし易くなるんだよ」
「そうなのか?」
「時子さんの照準と一緒に、確認してみようよ」
「そうだな。そうしようか」
なので、午後にいつもの採取場所へとやってきた。
果たして時子さんのノーコンは直るのだろうか。
道具が優れていても、結局は使う人間次第なのだから。
そういう意味でも、まだ不安が拭えない。
いつものように山へ入り、エイルとアニカが採取を始める。
各自配置に就き、辺りを警戒する。
そしてノコノコと現れるオオネズミ。
今日は1匹か。
普段通り、倒さないように軽く相手をする。
「時子さん!」
「うん。えっと……[風刃][送信]っと。わわっ、これが照準?」
時子さんのサポートをしているタイムの目を通して、時子さんの様子が視界の端に映し出される。
携帯のカメラで捉えた映像が画面に映し出され、その中心に十文字が表示されている。
そして隅にはタイムのアイコンもあった。
俺の視界の隅にいるタイムのアイコンより粗い。
携帯と携帯の解像度の差だろう。
「じゃあ、チュートリアルを始めるよ」
「チュートリアルなんてあるの?」
「あっても時子さんには難しいかもね」
「そんなことないよっ!」
「だってこれ、FPSと同じだよ?」
「う゛……難しいかも」
「でしょ。だから、タイムが補佐してあげる」
「補佐?」
「時子さんは画面の中に対象を捉えるだけでいいよ。細かい狙いはタイムがつけるから」
『へー、そんなことができるようになったのか』
『マスターと時子さんの携帯を繋げたからできるんだよ』
『繋げてなかったら?』
『えっと、タイムがサポートできないから、ターゲットのロックができないの。だから時子さんが自分で狙わないといけなくなるよ』
『それは……絶望的だな』
「狙ってる対象は、輪郭が強調表示されるよ」
「ふんふん」
「もし違う対象を狙いたかったら、カーソルキーで選択できるから」
「ふむふむ?」
「狙う対象を確定するときは、決定ボタンを押してね。タイムが見失わない限り、ずっと狙い続けるよ」
「ほうほう……?」
「細かいところはやりながら教えるね」
「うむうむ……」
「……大丈夫?」
「……うんうん」
「今[送信]は保留してるから、ゆっくりで平気だよ。狙う対象を確定したら、保留を解除するから」
「ほむほむ……ね、タイムちゃん」
「なあに?」
「ダウンロード、始まらないよ?」
「あ、うん。チュートリアル中だからね。慣れたらダウンロード中に、狙えるようになるよ」
「う、うん……ね、タイムちゃん」
「なあに?」
「なんか、動きと画面が合ってない……よね」
「あ、うん。ごめんなさい。携帯の処理速度だと、それが限界なの」
確かに携帯の動きに比べると、画面の表示がワンテンポ遅れている。
あれではタイムのサポートが無かったら、俺でも照準を合わせるのは難しいだろう。
しかもかなり映像も荒い。
オオネズミと辛うじて分かる程度だ。
俺の背中も映っているが、もし顔が映っていたとしても、表情までは読み取れないかも知れない。
本当に古い携帯を使っているんだな。
『なあタイム』
『なに、マスター』
『時子さんの携帯は、俺の携帯みたいにアップグレードできないのか?』
『できないみたいだよ』
『そっか。無理なのか』
となると、あれに慣れていかないとダメなのか。
厳しいな。
「うう、狙いにくい」
「時子さん、頑張って」
『もうさ、タイムが狙いを定めて撃った方が、早くない?』
『無理だよ。タイムが携帯に介入できるのはここまでなの』
『ここまで?』
『タイムは魔法名の[送信]を保留することはできるけど、[送信]自体はできないの。だからあくまで時子さんが操作しないとダメなんだよ』
『そうなのか』
『マスターの携帯なら、タイムが色々操作できるけどね』
なるほど。
俺の携帯ならできるけど、時子さんの携帯だとできないのか。
ま、タイムにとって|携帯《俺の身体と一体化したスマホ》は我が家みたいなものだけど、時子さんの携帯は他人の家だから仕方がないか。
こうなると、俺の方でもサポートしてあげないとダメだな。
あまり大きく動かないようにしないと。
そうすればカメラの画角から外れることも少なくなるだろう。
そして思った通り、携帯の画面からオオネズミが外れなくなった。
後は適当なタイミングで決定ボタンを押せばいいだけだ。
「ほら時子さん、今だよ」
「うう、えいっ!」
ボタンを押す瞬間に、大きく携帯がブレている。
携帯でもカメラのシャッターを押す瞬間に多少ブレることはよくあることだ。
だがあれはブレすぎだろ。
とはいえ、カメラの追従性能が悪い所為で、携帯が大きくブレても、映像が即座に反映されていない。
処理能力が遅いお陰で、逆にカメラの画角外にオオネズミが出ずに済んでいた。
これで狙いがオオネズミに確定したことになる。
[送信]の保留が解除され、魔法のダウンロードが始まった。
「これでいいんだよね?」
「うん。後はダウンロードが終わるのを待つだけだよ」
即時性が無いから、単独でのオオネズミ討伐は難しいだろう。
前衛役ありきだな。
そうこうしているうちに、ダウンロードが終わり、魔法が発動した。
今までのノーコンが嘘のように、オオネズミにきっちり当てることができた。
そしてそれは、俺が避ける必要も無く、俺を避けるようにして当たった。
追尾機能まで備わっているというのか?
同士討ちが無くなるのは良いことだけど、これは性能良すぎないか?
ますます携帯アプリの立場が……
「やったー! 当たったよ。凄い凄い」
「う、うん。そうだね」
大喜びの時子さんとは裏腹に、凄く複雑な表情を見せるタイム。
それもそのはず。
オオネズミに当たった風刃は、茂みに当たっていたときと同様に、オオネズミの上半身を消し飛ばした。
草刈り鎌で刈り取ったような感じには、ならなかった。
……やっぱり狩りにならないな。
ということで、火力は十分
狩りには不十分、となりました
次回は……あちしは経験無いんだけどね
経験ある人も居るんじゃないかなーって話




