第119話 追い詰められる
ボスがエイルに向かって猛突進してきた。
通り過ぎるボスに時子が照準を合わせようとしたが、あまりの速さにカメラの画角へ納めることもできず、射程外になってしまった。
エイルもボスが速すぎて、狙いを定めることができない。
「来るにゃ」
「龍魚、通せんぼしようよ。あの走ってくるオオカミがここまで来たら、龍魚の負けだよ」
〝なになにー〟
〝通せんぼー?〟
〝オオカミ?〟
〝アレじゃない?〟
〝アレかなアレかな〟
〝わ、凄く速いよ〟
〝速い速ーい〟
魔獣は速いが、龍魚も負けず劣らず速い。
魔獣の行く先に、先回りして通せんぼをする。
魔獣は中々近づけないことにイライラして、息を大きく吸い込むと、思いっきり吠えた。
それは衝撃波となり、龍魚を吹き飛ばし、エイルたちに襲いかかった。
「主!」
衝撃波はエイルたちに届く前に、鎌鼬によって防がれた。
相変わらずアニカの精霊たちは、呼び出しもせずに行動を起こす。
これで魔獣は、直接牙を立てるしかなくなった。
龍魚はいくら衝撃波で吹き飛ばされても、次々と現われる。
体当たりをされても数匹の龍魚が集まって盾になり、先へ進ませることはなかった。
〝通さないぞー〟
〝やーいやーい〟
〝痛いなー。なにするんだよー〟
〝触っちゃいけないんだぞー〟
〝そうだそうだー〟
体当たりをされて弾き飛ばされても、直ぐに次が立ち塞がる。
そう簡単に通すつもりはない。
龍魚自体はそこまで強くはない。
しかし数というものは、それだけで力となることもある。
それが如実に現われた結果だ。
魔獣の体当たりで数匹の龍魚が弾かれ、泡と消えたとしても、それは単純に精霊界に還っただけ。
また戻ってくればいいだけなのだ。
〝ただいまー〟
〝おかえりー〟
〝さー行くぞー!〟
〝おー!〟
魔獣の周りをグルグルと回る。
通さないどころか、輪の中に閉じ込めてしまった。
足が止まったことで、エイルが狙い撃てるようになった。
しっかりと狙撃詠唱銃に魔力を込め、狙い撃つ
しかし、魔獣にとって来ると分かっていれば対応できる程度の威力。
微々たるダメージを与えることはできるが、通用していないといっていい。
手下ならいざ知らず、ボスの防御力を抜くことはできない。
それがエイルの実力だ。
魔獣が咆哮と体当たりを繰り返してくるが、龍魚の包囲網に穴を開けることはできない。
〝無駄だよー〟
〝無駄無駄ー!〟
〝ただいまー〟
〝おかえりー、遅かったねー〟
〝うん、なんかちょっと掛かったー〟
龍魚が弾かれ、精霊界に還るということは、それだけ召喚術師に、つまりはアニカに負担が掛かるということ。
龍魚1匹1匹は小さい。
当然負担も小さい。
だが数が多い。
そして精霊界に弾かれるということは、反動が術師に返るということでもある。
アニカの体力は、徐々に削られていった。
「主!」
最初に気づいたのは、鎌鼬だった。
「しー、みんなには内緒だよ」
「主……」
アニカは、あくまで笑顔で鎌鼬にお願いした。
召喚主の命令は絶対だ。
しかしお願いなら話は別だ。
なのに、鎌鼬は逆らえなかった。
魔獣が不利に見えて、追い詰められているのは、エイルたちなのだ。
アニカが倒れるのが早いか、ボスが倒れるのが早いか……
火を見るより明らかかな
次回はチョットイチャイチャします(ナニ




