第111話 躍り食い
「なんで最弱を選出したんですかーっ!」
戦場に響く最弱の声。
奇襲に成功したのは良かったが、魔獣に跳ね飛ばされるに終わっていた。
その魔獣は、なにかが当たった程度の認識すらしていなかった。
何度となく攻撃を重ねるも、気づいてすらもらえない。
最終的には魔獣の鼻っ面にまたがることで、漸く気づいてもらえたくらいだ。
魔獣が軽く頭を振ると、最弱は悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
それでもめげず、果敢に攻め込んでいく。
たとえ軽くあしらわれようと、何度でも挑む。
魔獣は面倒臭そうに前足ではたき落としたり、噛み付いて投げ捨てたりを繰り返す。
時折飛んでくる狙撃詠唱銃の一撃も、ひらりと躱している。
最弱を無視して進もうとしても、それを許さない存在感が、何故かある。
そうこうしているうちに、狙撃詠唱銃の餌食となっていた2頭が、復活して現れた。
1対1でも敵わないのに、1対3はもっと無理だ。
案の定、1頭が一緒に最弱を弄ぶことを選び、1頭はエイルたちに向かって走り出した。
「あ、待って! ぅわっ! そ、そっちはダメー!」
最弱は2頭に弄ばれながらも、走り出した魔獣を追いかけようとした。
しかし折角手に入れたオモチャを魔獣が逃してくれるはずもない。
生かさず殺さずで、最弱をいたぶっている。
「大丈夫だよ」
走り出した魔獣に[氷槍]を撃ち込む。
その飛翔速度は決して遅くはない。
しかし狙撃詠唱銃の半分も出ていない。
魔獣はいとも簡単に避けてしまった。
が、照準でロックオンしているから、氷槍が追従していく。
これを初見で避けるのはまず無理だろう。
魔獣の身体に深々と刺さった。
「わうぅぅっ!」
止めとばかりにフブキの咆哮が響く。
ただの咆哮ではない。
指向性の衝撃波となり、氷塊を伴って魔獣を襲う。
氷槍が刺さっていては避けることもできず、魔獣は氷柱へと変貌することになった。
「うわぁ、フブキちゃん凄い!」
「わふん」
「よし、次いくよ」
「わうっ」
最弱を弄んでいた内の1頭が、標的を雪狼に変えた。
◆◆◆
ここ最近では、最大にして最高のご馳走が、目の前に現れた。
へへ、まだこんなヤツが残っていたとはな。
俺たちは運がいいぜ。
チビスケで遊んでる場合じゃねえぞ。
しかし、俺が近づけば、雪狼が逃げていく。
同じオオカミなのに、逃げるとは。
臆病者め。
逃げるくせに、時折氷の塊が飛んできやがる。
あれはすげー厄介だ。
避けても追ってくるから、避ける意味がない。
魔力の塊と比べたら、止まっているも同然だから、叩き壊すのが一番いい。
魔力の塊も、来ると分かっていれば耐えられるっちゃあ耐えられる。
が、痛いことに変わりはない。
痛いのは嫌だ。
できれば食らいたくないが、中々避けられない。
チビスケで遊んでいたときと違い、避ける余裕がないのだ。
忌々しい奴らめ。
少しでも足を止めれば、エモノであるはずの雪狼が反撃してくる。
仲間はあれで氷柱に変えられてしまった。
一番注意しなければいけない攻撃だ。
先日の人間どもと違い、ただの飯というわけではないようだ。
〝おい、いつまで遊んでるんだ。雪狼を殺るぞ〟
〝ふははは、は? 雪狼だと?! ちょっと待ってろ。こいつを丸呑みにしてやる〟
〝っはは。相変わらず腹の中で暴れるのを楽しむやつだな〟
〝こいつ、想像以上に硬くてな。噛み千切れないんだ〟
〝ふっ、いつもそんなこと言ってないか?〟
ヤツが咥えていたチビスケを上に放り投げた。
「うわあああ!」
〝あーん〟
「ふへ? あ、ちょっ、きゃあー!」
「お姉ちゃん!」
チビスケが頭からヤツの口の中へと落ちていく。
本当に趣味の悪いヤツだ。
いつものように、丸呑みにしてやがる。
〝待たせたな〟
〝ふっ、いつものことだ。気にしてない〟
〝手強いのか?〟
〝逃げ足が速いんだ。人間も厄介でな〟
〝この間の3匹とは違うのか〟
〝お前も見ただろ。俺が吹き飛んで、あいつが氷柱になるところを〟
〝え……あ、ああ、そうだったかな〟
こいつ、見てなかったな。
〝まあいい。殺るぞ〟
魔獣だって知能はあるんであるんである
なので、会話させてみた
次回は再びボス戦です




