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第102話 全ての魔獣を無駄にしないのは、無理でしょ

「レイモンドさん、これから何処へ行くんですか?」

「それはね、僕が決めることではないのだよ。モナカ君が決めてくれたまえ」

「俺がですか?」

「そうだ、僕は付いていくだけなのだよ」


 さて困った。

 何処へ行けばいいのかな。


「とりあえず、あの魔獣が居た場所に向かってみるか?」

「拠点はどうするのよ?」

「そうだな。拠点も移動しよう」


 どうせ魔獣(オオカミ)を見つけるまでの予定だったんだ。

 目的は果たしたし、移動させよう。

 問題は群れが何処に居るかだな。

 まさかあの1匹しか居ないってことは無いだろう。

 ならば、もう少し近づいた場所に拠点を置くのも悪くない。


「タイム、あの魔獣を見つけた場所に拠点を置けるか?」

「大丈夫だと思うよ」

「なら、そこを拠点にして探そう」


 移動するにしても、今回からはフブキに乗ることはできない。

 万が一毒素がフブキに付着したら、大変だ。


「モナカと時子のよ、先に行って偵察してくるのよ」

「いや、フブキに乗れないんだから、無理だよ」

「そうなのよ? レイモンド、どうなのよ?」

「ふむ、僕も大丈夫だと思うよ。多少の汚染なら、問題はない」


 多少……ね。

 上限値以下なら、大丈夫ということか。

 確かに毒素漂う場所にいる以上、完全に防ぐことはできない。

 俺にはその加減が分からないから、専門家を信用するしかない。


「分かりました」


 フブキと供に、先行して偵察をすることになった。

 なにかあれば、タイムを通して連絡を取り合えばいい。

 時子と共にフブキに乗り、昨日魔獣(オオカミ)を見かけた場所へと駆けていく。

 魔獣(オオカミ)の肉は、タイムが厳重に包んで、フブキに載せている。

 アニカに運ばせることも考えたが、アニカに担(かつ)げるとは思えない。

 普段はゆとりのあるフブキの背中も、魔獣(オオカミ)の肉のせいで狭くなっている。

 普段より時子との密着率が高い。

 それは……うん、悪くない。

 魔獣(オオカミ)一頭でこれだ。

 まだまだいるということを考えると、運搬するのは無理だろう。


「なあタイム、全部の魔獣を食材にするのか? 何頭居るか分からないけど、フブキに運んでもらえない以上、俺と時子で運ばなきゃならないんだぞ」


 さすがに解毒のできていない魔獣(オオカミ)を、フブキに載せたくない。

 それが1頭ではなく、何頭なのかさえ分からない。


「時子に解毒させればいいよ」

「簡単に言うな。リスクが高すぎる。今回はたまたま成功したけど、次も成功するとは思えない。失敗したときのこと、考えてるのか?」

「失敗を恐れていたら、成功は掴めないんだよ」


 確かにそれはその通りだ。

 だが恐れている訳ではない。


「この場合、それは当てはまらないだろっ」

「むぅー。時子もなんか言いなよ」

「……2人で決めればいいでしょ。時子のことはほっといて」


 まだ機嫌が悪いの?

 ナデナデは、効果を現さなかったようだ。

 今まで以上に根が深いぞ。

 〝ほっといて〟と言われても、フブキに乗っている以上、ほっとくことも難しい。

 さっきからグチグチと、小声でなにかを零(こぼ)している。

 〝ほっといて〟と言うのなら、静かにしてほしい。

 気になって気になって仕方がない。


『なあタイム、ぎゅってしてナデナデしたけど、どうにもならなかったみたいだぞ』


 時子はタイムじゃないんだから、当たり前だ。

 それに俺も先輩じゃない。

 有効な手段になり得ないのは、分かっていたはずだ。


『おかしいなぁ。時子も懐柔(かいじゅう)できると思ったのに』

『その言い方だと、タイムはいつもそれで懐柔(かいじゅう)されていると、認めたことになるぞ』

『はうっ! そ、そんなことないよ。いやだなマスターは。あはははは、はは、はぁ』

『時子は難しいお年頃ってやつなのか』

『そうじゃないよ。いろいろ混乱してるだけだと思う』

『混乱?』

『本人は気づいてないみたいだけど、いろいろ混ざって分離ができなくなってるんだよ』

『どういうことだ? 意味が分からないぞ』

『マスターがしっかりしないから、時子が混乱するんだよ』

『俺が悪いのか?!』

『他に原因なんて、無いんだよ』


「……またそうやって2人して内緒話してさ、時子をのけ者にして……ブツブツ……」


 独り言なんだろうけど、丸聞こえだっての。

 あれか、わざと聞こえるように言っているのか?

 〝ほっといて〟の次は〝ほっとくな〟って……

 ますます分からん。

 もう、どうしろと……


「とにかく、全ての魔獣を無毒化できないし、できたとしても、本当にこの世界の人たちにとって無毒か確認できない以上、持ち帰るのはリスクでしかない」

「なら、魔獣を倒しきった後に、アニカさんが無事なら、いいよね」

「……それを判断するのは、レイモンドさんだ。俺たちにはできない」


 毒素は魔素世界の人たちの問題だ。

 俺たちが勝手な基準で判断する訳にはいかない。

 そもそも俺たちの判断を、受け入れてくれるとも限らない。


「時子に[毒探知]でもなんでもやらせればいいじゃない」

「だから、それが確実な検査手段だとは言えないだろ」

「マスターは、そんなに時子のことが信用できないの?」

「違う! 時子のことは信用しているよ」

「だったら――」

「俺が信用していないのは、携帯(ケータイ)魔法だよ。あのいい加減な管理者のくれた力だぞ。全面的になんて、信用できるかっ」


 ただでさえ、時子が先輩と会えていないんだ。

 〝一緒に居たい〟という願いを叶えると言って、叶えていないような奴を、信用できるはずがない。


「え……」

〝失礼なやつだな! 僕が信用できないとか、何様だよっ〟

「〝マスター様〟に決まってるでしょ!」

「〝マスター様〟?」

「あはは、こっちの話。よかったね、時子」

「な、なにがよ」

「ふふっ、なんでもない」


 心なしか、むくれていた時子の顔が、緩んだような気がする。

 タイムは〝よかったね〟と言っているし。

 なにか良いことでもあったのか?


「でもマスター、アプリはその〝いい加減な管理者〟の力だよ?」

〝キミまでいい加減とは、なんだっ!〟

「え? 違うだろ」

〝違わなくないっ!〟

「アプリはアプリ制作者の力だよ。確かにあいつの提供したシステム下で動いているから、完全に信用しない方がいいのかも知れないけど」

〝おいっ!〟

「そうだね。ふふっ。でも根幹が腐ってたら、ダメなんじゃない?」

〝腐ってないっ!〟

「それを逆手にとって、利用してアプリを作る人も居るんじゃないか?」


 バグを利用してアイテム増殖とか、イベント飛ばしとか、ゲームじゃよくある話だ。

 そんな感じでおかしな挙動を逆手にとって、有意義なものにしてしまう人が居ても不思議じゃない。

 欠点としては、バグが修正されると使えなくなることくらいだ。


「なるほど。確かにアレよりはエイルさんの方が、賢そうだ」

「だよな」

〝そうなこと言うなら、本当にいい加減なものにするぞっ〟

「そんなことすれば、余計信用無くすよ?」

〝う……〟

「信用?」

「ああ、〝天の声〟が盗み聞きしてたから」

「〝天の声〟って、管理者と繋がっているのか?」

「そんなの、タイムには分からないよ」

「それもそうか」


 いや、繋がっていない方がおかしいか。

 そんなおかしな存在が、ホイホイ居たらたまらない。

 信用して欲しかったら、今すぐ時子の先輩をここに寄越せっての。

次回はちょっとした実験です

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