第10話 英語力なんて要らなかった
一体何発の魔法が飛んできたことだろうか。
そのどれもが大きく逸れて飛んでいった。
どれ1つも当たる軌道を描いてこない。
そして一発撃つのに1分以上掛かっている。
さすがにそれは掛かりすぎだろう。
『英語入力に手こずってるんだよ』
『そんなに遅いのか?』
『メアド登録のときにしか、使ったことないからね』
パスワード入力には使っていないのか?
もしかしてパスワードは全て数字とか……
今時数字だけのパスワードが登録できるサイトなんて、あるとでもいうのだろうか。
いや、あるのだろう。
あるいは、そういったサービスを時子さんが一切利用していなかったとか……
考えても仕方がない。
慣れてもらうしかない。
スペルも覚えてもらうしかない。
「あーもー。なんで日本人なのに英語なんか覚えなきゃいけないの?」
「でも、覚えないと魔法が使えないよ」
「いいな。タイムちゃんは英語ができて」
「タイムの英語力は、時子さんと同じだよ。全然わかんないもの」
「え、そうなの?」
「うん。さっきだってメモ書き見ながら言ってただけだから」
「そうなんだ。でも今すぐ使えるようにならないし……時子は日本人なんだよ。だから英語なんて要らないんだよ!」
「時子さん?!」
そう言うと、時子は今までもたもたと入力していたのがウソのように、英字一文字を入力するよりも素早く入力を完了させていた。
そして入力した文字を確定させ、[送信]した。
入力から[送信]まで、2秒と掛かっていない。
送信された文字列は、エラーにはならず、ダウンロードが始まっていた。
「やったー! やっぱり時子は日本人でよかったよ」
「それ、行けるんだ」
時子が入力していたのは、当然だが英語ではない。
日本語で〝風刃〟と入力していた。
意味は〝windcutter〟とほぼ変わらない。
しかも英語ではなく日本語だから、普段友達とやりとりしていた言語だ。
入力はお手の物で、手元を見ていなくてもあっという間にできる。
とはいえ、それは魔法名が英語から日本語に変わっただけの話。
狙いは相変わらず方向音痴で、どれ1つ当たらない。
下手な鉄砲は数撃っても当たらないのだ。
「まだ終わらないのよ?」
「あ、エイルさん」
「時子の魔法のよ、興味深いのよ」
「あはは。でも全然当たらないんだ」
エイルが見守る中、時子が魔法を何発か放つ。
やはりどれも当たらない。
「照準器は付いてないのよ?」
「ショウジュンキ?」
「狙いを定める為のよ、装置なのよ」
「付いてないと思う」
「タイムちゃん、どうなのよ」
「携帯と違うから、タイムも分かんないの」
「調べることはできるのよ?」
「どうかな。潜ってみる?」
「頼むのよ」
「分かったー。時子さん、ちょっと携帯の中に入るね」
「え、中?」
時子の返事を聞く前に、タイムは携帯の中へ入っていった。
「ふえ?! タイムちゃんが携帯の中に?」
「驚くことじゃないのよ。タイムちゃんはA.I.なのよ。機械の中に入るのよ、簡単なのよ」
「そうなんですか?」
「勇者小説に書いてあるのよ」
「それって、確か昔この世界に召喚された勇者のお話が書かれてるっていう、物語ですよね」
「そうなのよ。科学世界のことが色々書いてあるのよ」
「へ、へぇー」
「エイルさん、大丈夫みたいだよ」
「うわっ」
携帯のスピーカーから、タイムの声が聞こえてくる。
時子が携帯の画面を見ると、そこにはタイムの顔のアイコンが表示されていた。
「タイムちゃん?」
「どうだったのよ?」
「機能限定版だけど、RATSがインストールされてるよ」
「そうなのよ? ならスクリプトが組めるのよ?」
「どうだろう。携帯と比べたら処理力低いし、かなり制限もあるから難しいと思う」
「それはうちが判断するのよ。タイムちゃんは橋渡しをお願いするのよ」
「うん、そうだね。分かった」
「え、えーと?」
「帰ってから話すのよ。今はオオネズミを処理するのよ」
エイルは連射式詠唱銃をホルスターから抜き、射撃モードを3点バーストに設定した。
オオネズミに狙いを定め、詠唱銃に魔力を込める。
それがトリガーとなり、3発の魔力弾が速射された。
オオネズミへ向かって飛翔し、狙いが逸れることなく3発とも命中した。
「お、エイルか?」
「さっさと片付けるのよ」
「分かった。サクッと倒すぞ!」
2匹居るとは言え、所詮はオオネズミ。
しかも1匹はエイルの射撃で虫の息だ。
熟練度を元に戻した野太刀を使えば、オオネズミが俺の攻撃を爪で防ごうとも、爪ごと斬り倒せる。
もっとも、手加減しなければ爪で防がれるような剣速ではない。
「モナカくんって、強いんだね」
「相手がオオネズミだからな。手こずっているようでは護衛は務まらないよ」
「う……ごめんなさい」
「ま、まぁ、時子さんはこれからだよ」
倒したオオネズミをフブキに運んでもらい、山を下りて駐車場に戻ってきた。
そしてオオネズミを解体しようと解体場に運んだ。
2秒は早すぎただろうか
こういう電脳世界に潜り込む最初の物語って、TRONなのだろうか
次回は言うまでも無く、解体です




