閑話休題
王宮は戻った俺たちを迎えて日に日に慌ただしさを増していた。
なにせ〈宮廷カクトリエル〉カルヴァドスを襲ったと思われる男を引き摺っての凱旋だ。
俺もお世話になった地下牢へと放り込まれたセルドラは口を閉ざしていたけど、正直なところ声も聞きたくなかったんでよかったのかも。
マルティさんとシードルさんは今回の件で書類作成のために連れていかれてしまい、スミノルフさんとブリューはお目付役とともに〈宮廷医師〉と今後の調整が始まったらしい。
主は自分が見てきた魔素の影響を女王様を含めた偉い人たちと連日話し合っている。
――俺はといえば。
「……キール。グラスの磨きが甘い」
「ごめん爺ちゃん……じゃなかった、申し訳ありません〈宮廷カクトリエル〉」
「ふん、一端の口でも利いているつもりか? まったく」
苦笑いしてみせる爺ちゃんのもと――王宮で酒を振る舞うためのグラスの手入れや酒蔵の掃除に精を出していたりする。
「体はもう大丈夫なの?」
「ああ。……不意を突かれたとはいえ記憶まで飛ばすとはな」
「でも思い出したんだろ? そろそろなにがあったか話してよ」
「そうだな。……よしキール、お前が作ったカクテルを見せてみろ」
「うん?」
「アルカシスに『最初に呑ませたいひとは別にいる』と啖呵を切ったそうじゃないか」
「……女王様のことだよな? いや、まあそうなんだけど……」
呼び捨てとは畏れ多いよ爺ちゃん。
思わずグラスを磨く手を止めると……爺ちゃんはスグリノ酒の瓶と発泡性グレプ酒を出す。
「……作ったらなにがあったか話してくれるってこと?」
「出来次第だな」
「まったくもう。……わかった。それからほかのやつもちょっと味見してほしいんだけどいい?」
「それも出来次第だな」
「む……わかったよ……」
俺は細いグラスを出し、スグリノ酒の瓶を手に取る。
思えばこのカクテルから始まったんだな……。
「なあ爺ちゃん。俺さ、絶対に〈宮廷カクトリエル〉になるよ。爺ちゃんみたいに、誰にも流されなくて強くて……なにより美味い酒が作れるような〈宮廷カクトリエル〉に」
美しい紅色のカクテルは……彼女の瞳のような煌めきを持つ。
「だから俺は俺の主と……もっと勉強して、強くなろうと思うんだ」
俺は迷わず言い切って……そのカクテルを差し出した。
「カクテル【スグリノレクス】。爺ちゃんがカシスの成人を祝うために作るはずだった、彼女の瞳を模した王族の【スグリノ】だ」
――決まりを守って呑む酒はひとを笑顔にする。
俺は頬を引き上げて……強気に笑ってみせた。
~カクト・リェルの幻想酒譚 第一部 Fin~
続く予定ですが、いろいろ応募用の作品とか書きたいなと思っており一旦更新が開きそうです。
そのため今回で一度『完結』としております。
よろしかったら感想などいただけますと幸いです!
引き続きよろしくお願いします。
奏




