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出会い



生まれた時から、他人の心の声が聞こえた。






いや、実際には転生してから、というべきだろうか。


少ししか覚えてはいないから、あんまり関係ないかもしれないけど。






前世で覚えていることといえば、私が育ったのは日本というところで、とても、技術や文化が発達していて、この世界より快適だったこと。私は前世で孤児だったということ、くらいだ。




あとは、あんまり長くは生きられなかったこと、かな。


たしか・・19歳・・くらいかな?それくらいで死んだと思う。


・・すごく微妙な歳に死んでしまったな。まぁ、そこはどうでもよくて。




今問題なのは、まぁ、この能力である。割と便利な能力なので、とても重宝しているのだが、




もし、一つ文句があるとすれば




「お嬢様、勝手に出歩かれては困ります」


(探しに行くの大変じゃない。じっとしておいて欲しいわぁ)




私の意思ではコントロールをできないことだ。


そのせいで、聞きたくもない私への不満が絶えず聞こえる。




「ごめんなさい。お花を見たくて」


「ならば外出の際は、わたくし共に行き先を告げてからになさってください。」


そんなこと言ったって、呼んだって来てくれないくせにどうやって伝えればいいのか。




「・・・そうね、ごめんなさい。次からはそうするわ。」


そういう言葉は飲み込んで、素直に返事をしておく。穏便にことを進めたいなら我慢をするしかない。




「さぁ、食事ができていますので、お部屋に戻りましょう」


「うん」


まだまだ花を眺めていたかったけれど、最後に一瞬だけ花に目をやって、部屋に戻った。








「・・・」


「・・・」


独りでする食事は寂しい、気がする。


隣には先ほどの侍女が控えているけれど、後ろに立って給仕をしてくれるだけで、話したりもしないし、ましてや一緒に食べたりもしない。




前世では、どうだったか覚えていないけれど、今世では気付いた時から食事は一人だったから、私が本当に寂しいと感じているのか、私にもわからない。


けれど、昔読んだ本には、「食事は大勢で食べると楽しくて、おいしい。けれど、独りで食べると寂しさのせいで味気なく感じるものだ」と書いてあった。




うちのコックが作った料理は結構おいしいと思うんだけれど、どこか味気なく感じているのは、自分でも気づかないうちに寂しいとおもっているのかな。もしかしたら前世では誰かと食べていたのかもしれない。






「今日も食事、とてもおいしかったわ、とコックに伝えておいてくれる?」


「はい、かしこまりました」


(まぁ、時間があれば伝えようかしらね。)


「・・・うん、ありがとう」




いつものことでしょ、我慢だ我慢。


ここで私がなにも言わなければ、面倒は起きないんだから。




「じゃあ、私部屋に戻るわね」


「はい。おやすみなさいませ、お嬢様」


「・・・うん。おやすみ」


おやすみ、ね。


まだまだ夕食を食べ終わったばかりで、寝るまではたっぷり時間があるのだけれど。


もう今日は私にかかわりたくありません、ってことかしら。




いやいいんだけどね。こっちだって私の不満を聞きたくないから。






「はぁ」


自分の部屋に戻って、どすっ、とベッドに寝転がる。今日も一日疲れた。










私の両親は、どうやら後継ぎとして男の子が欲しかったらしいのだけれど、残念ながら生まれてきたのは、女である私だった。また新しく作ろうとはしたみたいだけれど、母は割と病弱だったようで次の子供はもう望めなかったらしい。だから両親からは疎ましく思われているし、使用人たちからは、「両親の関心をひかない子供に愛想よくしたって無駄だ」と思われているため、適当に育てられている。




使用人たちに育てられているうちに、彼らの心から聞こえてくる情報だけで推測したけれど、多分概ねこんなものだろう。




「はぁ。」


ため息をつく。


「明日も・・・次の日も、これから先もずっと、私はこうやって生きていくのかな。」


だれに言ってるわけでもない。単にでかい独り言だ。




「こうやって一生を終えるのかな。」


死にたいとは一度も思ったことは無いけれど、ただただ時間だけが過ぎていく日々が、苦しい。


心だけがすり減っていく。




「まぁ、もう、どうでもいっか。」


私には何もできないから、考えるだけ無駄だし。






また独り言をつぶやいた後、静かに目を閉じた。














ー翌朝ー




今日は文句を言われないように、わざわざ侍女を探しに行って、近くの森に遊びに行く旨を伝えた。


「外に出るのは構いませんが、昼食と夕食のときは戻ってきてくださいね」


「うん。そうする。」


呼びに来てはくれない、ということね。時間に気を付けながら行動しないと。








「ふーんふんふーん。ふんふーんふふふんふん」


森の中を歩きながら鼻歌を歌う。


一人だと気楽でいい。誰にも迷惑をかけないし、誰からも何も言われない。




「うーん。せっかくだしお花を摘んで、花冠はなかんむりでも作ろうかな。」


外出したからには何かしたい。そう思って、好きな花を選び出す。




生まれてからずっと一人だったので、私の娯楽は基本、一人遊びと読書だった。そして唯一の楽しみは、本で得た知識を外で実際に試してみたり、経験したりすること。




例えばこの花冠も、本で読んだ手順を覚えて、実際に何度も試行錯誤しつつ、できるようになったものだ。知識を実際の経験として自分に落とし込むのは、私にとってとても楽しいことで、いろいろなことを試していった。




植物図鑑をもって、本に載ってる花を探し出したり、実際に成長具合を観察したり。昆虫図鑑をもって虫を探しに言ったり。時には捕まえて、実際の姿はどうなのかじっくり観察したり、家に持ち帰ったりした。




まぁ家に持ち帰ったときは、普段はあまり感情を表にださない侍女に、それはこっぴどく怒られたけれど。そしてその時に、そういえば私も前世では虫が嫌いだったな、ということを思い出した。




「ふふーん、ふふーんふふーん、ふふーん」


そして最近(私の中だけで)流行っている遊びは、花冠を作るときに花言葉を考えながら一つの文章にすることである。




今日は、何にしよう。うーん、カモミールとアルストロメリア。あとは、うーんと、サンダーソニア。うん、今日はこの三つを使おうかな。


「ふーん。ふふーんふ、ふーんふふんふーん」




カモミールは、逆境に耐える


アルストロメリアは、未来へのあこがれ


サンダーソニアは、祈り




今を耐え抜いたなら、どうか、私に幸せが訪れますように。




今日の三つは文章を作るとしたらこんなところだろうか。


暇つぶしと、どうしようもない思いを消すこと。これが両方できるのもいいところだな。


そんなことを考えながら、慣れた手つきで編んでいく。


「ふーん、ふんふーん。ふふーん、ふふんふーん」


いやー、一人って楽しい!一人最高!




「何をうたってるんだ?」


さっきまでのはフラグを建築するための発言じゃなかったんだけれど、どうやら回収されてしまったらしい。




「ぎゃあああああああああっ!」




不意に聞こえた他人の声に、私は人生最高レベルの絶叫をしたのだった。

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