第5話 サキの過去
「1番、中村晃弘でぇーす!んーと、あ、趣味はバスケです!ヨロヨロ〜」
「5番、高橋颯稀です。嫌いな物は、味のない飯です。」
「8番、鈴木美優、好きな事は本を読むこと。よろしくお願いします。」
みんなが出席番号順に自己紹介。
嫌いな物を言ったサツキが1番異質か。
わたし、なんて言おう…
趣味はダラダラすること…なんて言ったら間違いなく引かれる!
能力についての紹介もできないしなぁ…
「9番、佐藤綾です。えっと、能力はまだわかんないんですけど、まあよろしくお願いします。」
無難。
無難だ。
こんなんでいいんだよ。
というか、普通は能力の説明とかしないから!
だからといって趣味もないけど。
はぁ…
自己紹介も全員終わって、授業は今日はもう終わり。よし、帰ろ。
「ちょ、アヤぴー、どこ行くの?」
廊下を歩くわたしをサキが引き留めた。
「え?駅まで」
サキは帰る支度もせずキョトンとしているので、こちらがキョトンとしたくなる。
「え?アヤぴー、これから学校で寮生活じゃん。なんで駅まで行くの?帰るの?」
え?!?!?
聞いてないよ!?そんなこと!?
説明受けてません!意味わかりません!
おのれガキんちょセンセー、肝心なところを説明し忘れてるじゃないか…
どうしよ…
お母さんにもお昼過ぎくらいには多分帰るって言っちゃったし。
着替えとかもなんにも持ってきてないし、困ったことになった。元から困ってるけど。
取り敢えずわたしはサキと一緒に寮まで向かうことにした。
寮は別校舎にあるみたいで、ここから少し遠い。
「サキはさ、いつ自分の能力に気付いたの?」
自分の中に湧いたこの疑問は、わたしが能力に気付くヒントになるかもしれないと思って訊いた。
「え?ウチ?あー、小2の時。早い人は幼稚園の時には気付いてると思うよ。
ウチはさ、ウチが物に念をかけると物が凄いスピードで移動するのが面白くて、友達にそれをかけて遊んでたんだ。」
「へぇー、そんな小さい頃から気付いてたんだ…」
「でもね…」
「ん?」
途端に暗くなったサキの声に、まだ出会って半日しか経ってないにも関わらず、サキらしくないと感じた。
「あの日もまた、いつもみたいに遊んでたんだ。
なんとなく、この遊びが普通じゃないのには気付いてたから、先生の陰に隠れてやってたの。
いつもみたいに友達を飛ばしたら、道路の方まで吹き飛んじゃって…」
「ま、まさか…」
「友達は車にはねられて、命は助かったんだけどね、下半身不随になって、もちろん大人にもバレた。」
「それから、『カワリモノ』だって疎まれて、友達もずっといなかった。
あれから、自分に能力をかけて1人陸上部やってた。ドーピングしまくりじゃんって話だけど。
さっきLINLIN交換したじゃん?あれ、友達追加、みんなが初めて。」
「…」
サキの過去は、わたしが想像していたものよりずっと重苦しかった。
友達を下半身不随にしたと語る彼女は、もはやわたしの方なんて向いていなかった。
カワリモノの中には成功している人もいるけど、こうやって疎まれて苦しむ人もいる。
現に今までわたしはカワリモノには正直いい印象は無かったし、割といじめにあったりしている人も多いと聞いていた。
ここに来る人たちは、誰もが「孤独」を味わってるんだ…