マシュマロLOVERと非正規なる俺
牛丼喰って派遣を終えると俺はもう寝る寸前だった。
俺は家路を急ぐ。すっかり暗いだが明かりだけがともる繁華街をつっきる。
だってもう10時だよ。どこの世界に12時間労働をこの薄給でするヤツがいるんだろう。
まあ、いるわけだがというかそれは俺だ。
「まあ、負け犬ってヤツ みたいな」
「そのみたいなをつけても辛い現実は変わらんぞ というかむしろ苛立ちが増す」
俺は視界の先をホイホイ飛び回るそいつにいった。
やけに足が白くて、体格は俺より一回り小さいにしても並みの中学生女子くらいはある。
そんなヤツが羽もつけずどういうわけか宙に浮かんでいる。
「だいたいお前がいつもマシュマロを食べすぎるせいで俺の貴重な生活費が削れて行くんじゃい この超高齢化社会で俺が払っている税金と、絶対ろくに払われないであろう年金暮らしにむけて備えるための必要性にかかる費用の額をなめんじゃないよ」
俺はそういって大阪風のツッコミをそいつにあびせた。
「痛い 暴力だよ 虐待だよ 私女の子なのに」
「うるさい だいたいお前は周囲の人間には見えないから 俺が警察に捕まることも、虐待の罪問われることもない」
そう、こいつは俺にしか見えない。
最初は仕事のストレスがとうとうここまできちまったかと思ったが、なんど瞬きしても、なんどシカトしても、こいつはそこにいて俺に絡んで来た。うざい。
周囲の人間が独り言を言っているように見える俺に怪しげな視線をなげかけてくる。
俺はもうほっといてといった感じで睨み返したりもしていたが、最近はもう無視だ無視。
世の中なんて不条理だらけなんだから。
だからコイツが何で俺の前に現れたのかとか、なんで宙に浮いているのかとか、なんでマシュマロばっか食ってるのとか
どうでもいい! 心底どうでもいいわ!
「いいのかっなあ〜 神様にいいつけちゃうよ♩ 怖いよ神様 性悪説信奉者だから」
「知るか勝手にしろ だいたい神様なのに特別な信奉とか持ってるんじゃないよって話 広い心と視野を持とう」
「おお、なんか学校の標語っぽい」
俺がなんかすごいことを言ったみたに、そいつが目をキラキラと輝かせて羨望の眼差しを送って来た。
「褒められても嬉しくないんだが」
「まあまあ、今日は鍋にしようよマシュマロ鍋」
「嫌だそんな変な鍋俺は断固認めない」
「いつもおんなじ鍋ばっかでつまんない〜」
「うるせ〜 マシュマロとか買ってるせいで食費が足りないんじゃい」
俺とソイツはそんなふうにじゃれ合いながら家路へと向かう繁華街を抜けた。
今日はもう牛丼はいらない。