第二話 童話の住人
第二話 童話の住人
「なんだい兄ちゃん、全然戦えるじゃねぇか。しかも魔法まで使っちまって」
「そらな、伊達でクラッグやっちゃいないよ」
「そのよ、さっきからクラッグてのはよ、その剣術の流派か何かかい?」
「いや、そうじゃないんだが、そうか、クラッグもないとこなのか」
おっさん漁師の頭に疑問符が浮かぶ。ちなみにデール少年は?がキャパオーバーですでに釣りに興じていた。
魔物は陸を離れた状態でもあったので俺は魔法で燃やした。一方スイムはその槍さばきで遠距離からでも一方的な展開を繰り広げた。そして魔物は湖へと沈む。
「ほんじゃま、兄ちゃんよ、スピーノって言ったか。俺の村へ招待してやるからよ、まぁ何があったか教えてくれや」
「それなんだけどさ、俺もよくわかってないからすり合わせってやつをやらせてくれよ。何が何やらさっぱりだ」
「知ってることなら答えるぜ」
おっさんは暑苦しく俺の首に腕を回してくる。
どうやら俺はおっさんにご厄介にならねばならんらしいからな。腹を割って話そうか。
「はっぁぁあ…、何というか、兄ちゃんが冗談を言っているってのはない様子だし?かみ合わない会話もそれなら理屈は通るけどよ、初めて会った人間にこの話したら馬鹿にしてんのかってガツンとやられちまうぜ」
舵を取るながらに、俺はおっさんに俺の故郷の話をしてやった。
一つ言っては信じらんねぇ。
二つ言っては頭がおかしい。
三つ言っては、手に負えねぇ。だそうだ。
「まずな、その兄ちゃんの故郷だっていう町、ヘルパーだったか。そんな町は俺の知る限りこの星に存在しないな。だが、誰も知らないわけじゃない。
水と機会と調和の町ヘルパーだろ?それはな、童話の中の町だ」
ああ、童話と来たか。
現実逃避で周りの森に目をやるがそれも俺に取っちゃ現実ではないんだよな。
そして、俺にとってあり得ないはずの魔物があふれるこの世界のことも教えてもらい、理解した。
いわゆるこれは、異世界というやつで、俺は異世界転移してきたということかな。
なぜ、俺が太古の昔絶滅したはずの魔物が存在する世界に来たのか、あのヘルパーで俺は死んでしまってここに飛ばされてきたのか、この世界で童話とされる町から来た理由は何なのか。
俺はこの世界でやることは生き抜くことである。
だってやることもないしな。
師匠からは生きろといわれているだけだ。
ヘルパーで培ったクラッグの経歴もなくなってしまったも同然。もちろん、この世界にクラッグなるスポーツはなかった。新しく何か見つけて、この世界楽しんでみるのもありかもな。
そうしよう。
「さて兄ちゃん、見えてきたぜ、俺たちの村だ。セントリアルス村って言うんだ。この時期はよそのもんが多いから身を隠すのもありだぜ」
おっさんは俺の身を案じてかカラッと笑って俺を陸へと送り上げる。
「人生いろいろあるもんさ、でも兄ちゃんくらい腕が経つなら何しても、それこそ冒険者でもしても生きていけるさ。
俺にしてやれるのはここまでかね、俺もこの村にいるからよ、何かあったら頼ってもいいぜ?また漁の護衛でもしてくれたらだがな」
大笑いをして、スイムは船の上から別れを告げる。
「またな、スピーノ!」
さて、漁村とはいえ、何やら人も多いし、建物も大きいのがある。そうだな、のどかな村も悪くない、初めての異世界楽しいで行こうじゃないか。