プロローグ・チャンプの日常
ファンタジー小説は初めて書くので稚拙よろしくお願いします。
プロローグ・チャンプの日常
陽気な男が一人、大通りを闊歩していた。
「キング!今日もいい試合見せてくれよ!」
「任せとけ、まとめて、破壊してやるぜ」
「「「「おおおおおおおおお…」」」
慣れ親しんだ道を文字通り我が物顔で登場する。
歓声を受けながら応え歩いていると、七分丈の黄色い俺のパンツに小さな子供がぶつかった。そしてぐっと手を伸ばしてくる。
「ねぇ、サインちょうだい」
小さな手にはこれまた小さなジュラルミン製の剣が握られている。ショップで売られている俺のグッツだ。俺のカスタマージェム、スレッヂブレードのミニチュア版。
「おう、いつも応援ありがとうな、最後まで見ていてくれな」
「うん、ありがとう!頑張ってください」
小さな手にはちょうど収まる大きさのスレッヂブレード。それを腰につけて噴水街を走り抜けていく。
俺の腰には相応の大きさの剣がぶら下がっている。クラッグと呼ばれるゲームで使われる、カスタマージェムといわれる装備だ。
この町に生まれ、クラッグの総本山といわれるこの町で育ち、15でその頂点に立った。
今や、この町で俺の名前を知らない者はいないといっても、言い過ぎではない。
さぁ、今日の試合に行こう。観客が俺のゲームを待っている。
世界は緊張に飢えていた。
人々の争いはもちろん、外的からの侵略もなくなった。今やおとぎ話にある世界のような魔物と戦うことはないのだ。
そこでこの町ヘルパーをはじめとする、世界各地で、娯楽が始まった。
クラッグ、安全に魔物を狩るゲーム。各々がこれだと思う装備をカスタムし、体を電脳世界に飛び込ませ、そこで太古の昔人類が打ち勝った魔物と対決する。
俺はチャンプとして観衆に見せるのだ。人類の歴史を。
町は高発展をしているのだろう。人が働くことはわずかばかりとなり、ロボットが治安や産業を維持する。
スタジアムを目指してリニアに乗ると空から街を見下ろすのだ。災害もない、人災も、魔物もない。町は発展を遂げるばかりだ。緑はわずかに残る必要最低限、夜でも暗くならない。平和というんだろうな。俺にはわからないけどな。
そして、リニアはスタジアムに到着する。
控室に入って、俺は身だしなみを整える。これから戦うとはいえ、見世物だ。仮にもチャンプ。薄手のハーフパンツにブーツ、上半身は胸元を広げ町のシンボルを入れ墨している。
装備的なもの、防具は機械が補助してくれるとはいえ、俺も何もなしというわけではない。両手に使い込んだガントレットと右上腕から肩を覆うシルバーの防具だけは着用する。
俺を仕込んだ師匠の受け売り。
モニターを見ると前の試合が終わったようだ。銃をメインとしたカスタムジェムを使っていた。
さぁ精神を集中しよう。魔力集中。
長く魔物との闘いを失われたこのヘルパーだが、魔法の使い方まで忘れているわけではない。慎重に今できる事。
「【マインドプロテクション】【バイタルプロテクション】」
とりあえず、これでいい。さぁ、俺の試合だ。
目指せ、デストロイ。
俺はいつも通り試合に臨むが、明らかに異常が感じられる。
「この野郎、どうなってんだ!死んじまうぞこんな奴!」
一度試合に入ると会場の様子は見えない。青いデジタルな箱の中で魔物のデータと一対一で対戦するのだ。それがなんだ。
徒党を組んでやがる。
「悪い冗談だろ、ハウンドドッグが3はいい。別にいいよ。だがその後ろにいる化け物はだめだ、お前は!」
ハウンドドッグが3匹緩急を織り交ぜ、攻め込んでくる。一匹を蹴りで吹き飛ばすが後続の噛みつきをよけられない。俺はガントレットでそれを受け止める。衝撃は鉄を通り越して骨まで染み込む。
痛みをこらえて、噛みついたハウンドドッグの顎を空いている左手で抱え込み、さらにとびかかってくる3匹目へとたたきつける、そこでいったん噛みつきもはずれ、距離も取れた。
ぶっちゃけハウンドドッグが3匹ならスレッヂブレード使って大技でなぎ倒しているところが、それはできない。
また来た!
「【アル・ライトニング】」
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
ぎりぎり相殺したか。まだなんとかなっているのはあいつが魔法しか使ってこないからだろう。
「べへモス!」
おとぎ話にも十分出てくるし、いまだに資料に残っている大型魔獣。魔物としてのレベルはハウンドドッグが100匹でもおつりがくるぜ。
なんにせよ、まだべへモスがこちらを直接攻撃しないのは俺に運があるのか。わけはわからんが、当たり散らすかのようにあちこちに魔法や斬撃を放っている。今のうちに、ハウンドドッグを仕留めなければ。
しばらくたって、くそ犬は一匹まで数を減らした。いちいちべへモスの魔法を相殺しながら戦うのはうざったらしかったが、まともに相手すればなんてことない。ぶった切って一撃だ。
すでに倒した、2匹のハウンドドッグはそこらに転がっている。転がっているのだ。
このクラッグの仕様では倒した魔物は邪魔にならない様にポリゴンになって消えてしまうのだが、それがなく、残っている。これはまさか、まさかな。
残ったハウンドドックはなすすべなし。俺はあっさりカウンターの横なぎを決め、二枚下しに決めてやった。やはり死体は残る。
べへモスとはどういう魔物だろうか。
一つは大型魔獣として強靭な体と体力、破壊力のある一撃を誇る。半面、スピードはなく一度よけられれば死ぬことはない。逆によけられなければ死ぬだけ。
別に死ぬといっても、ゲームなのだから本当に死にはしない。しないのだが、先ほどから何か違和感が体をうずく。安全を期してもいいから一撃も食らうことないようにしたい。
二つに、奴は魔法を使う。強く広範囲な魔法だ。これが問題だ。
きた。大振りからの一撃。
爪からの風き斬り音が恐ろしいが、よけさえすればなんでもない。そしてここで反撃を刻む。
体の内側に入り込み、切り上げ。余り効いた様子はない剛毛な銀色の毛が斬撃を阻むのだろう、比較的俺スレッヂブレードが幅広な大剣型だとしてもまだ威力が足りない。
GYUUUUUU…
やばい
「【フィーマ・ライトニング】」
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
奴の懐は奴の第二の攻撃範囲だ。魔法が飛んでくる。こうして、打ち消すための相殺レベルの魔法を使わなければ生きぬこともままならない。
だが、俺はこのときしくじった。
残り魔力の気にしたせいで奴の魔法を打ち消しきれず、さらに俺の初めに張った魔法障壁を超えて、俺を打つ。
体がしびれ、剣を手放し、膝をついた。
心の底から湧き出る恐怖、足元が亡くなる感触。
これは死だ。
見上げれば、べへモスは喉を鳴らし、威風堂々たる姿をさらした。これが闘い。これはゲームじゃないのか。俺は、こいつに食われるのでは。
ごつごつとした体、ところどころに俺が付けた傷跡があるがその力は底しれず。
俺は緊張感を求めてこのゲームをしていたんだったはずだ。
そうか、これが生きているということで。
これが、死ぬということなのか。
その時だった、もはやただその時を待つだけだった俺の状況と景色が一変した。まず、俺のバトルフィールドが消えた。そして初めて外の様子を見た。
そこはクラッグの会場、由緒あるヘルパーの拠点。
魔物が現実にあふれかえっていた。
あちこちから上がる火の手、肉の焼ける匂い、鉄の匂い。死の香り。
「何が起こっているんだ。いったい何が」
ゲームのデータでしかなかった存在の魔物が現実にあふれかえり人々を襲う。そうか、理解したぞ。俺は目の前の存在を仰ぎ見る。
「お前も、本物だったんだな」
GRYUUUUUU…
なんだよ、俺は眼中にないってか。べへモスは俺から目を離す、観客席には多くの魔物と人が残っている。治安ロボットが戦っているが、どれもまともに機能していない。当たり前だ。魔物を相手にするようには作られてないからな。
ふざけんな。
ふざけんじゃねぇぞ。
俺の中でサインを書いたあの小さな子供を思い浮かべる。
俺は剣を拾い上げる。
「てめぇが、俺を敵として見てないならそれでもいい。だけど俺をなめたまま終わるわけにはいかねぇだろうが」
肩口からの切り上げで奴の左目を切り裂いてやった。どうだ、眼中にない奴に目を取られた気分は。
唸り声をあげ、再び俺に向けて敵意がほとばしる。そうだかかってこい。俺は生き抜いて見せる。
「【アル・フレイム】」
がれきの中、突き進む。見かける魔物は皆殺しだ。生きている人もいるが悪い。助けてやれるほど身軽じゃない。
俺の名前を呼ぶ声がする。
そのたび俺は剣を振るう。やべぇ、そろそろ目もかすんできやがった。人よりも魔物の数のほうが多く見える。あってんのか。はぁ。
ヘルパーの町はもう跡形もない、きれいだった街並みも高い建物も、美しい水も。何もない。俺の前にいるのは汚らしい魔物だけ。
いつか俺の師匠を殺した同じ魔物だけ。
そして俺は踏み込み、突撃し、魔物の波という闇に飲まれた。最後に見えたのは巨大な咢。
まぶしい、光が見える。なんだ俺は生きているのか。
「ねぇ、兄ちゃん大丈夫?」
えらく日に焼けた少年が俺をのぞき込んでいた。
「ははっ、少年、俺を誰だと思っている。キング様だぜ?」
「キング?なんの?」
「知らねーのかよ、俺はスピーノ。ヘルパーの町のクラッグチャンプ、通称キングだぜ」
どうやら目を覚ました俺は生きてはいるが、楽はできそうにない場所にいるようだった。