表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀盤より愛をこめて  作者: 紫乃
3/5

3.


僕は久しぶりにモスクワに降り立った。

夏に来たときはもちろんおじいちゃんと一緒だった。

もう何でも一人でやらないといけない。



なんでも一人でやってたつもりだったけど

おじいちゃんがそばにいたからだったんだなぁって思う。


東洋人はそうでなくても幼く見えがちで

空港で心配そうな顔で職員の人たちに見送られた。


…これでも昔からロシアに来ることが多くて

ロシア語と英語は話せるのにな。


日本の職員の人たちはプロ意識だったのか

僕のことに気付かなかったのか

余計な視線を僕に向けてはこなかった。

でも、違う意味で一人ロシアに向かうのは心配そうな目で見られたけど。



海外でも使えるように設定したスマートフォンを片手に

荷物から手放さないようにする。

治安が決していいとは言えないからだ。



『ユキ!!』



野太い声に振り替えると

アンドレーエフ先生が変わらぬ姿で立っていた。

おじいちゃんよりも恰幅がよく

マフィアみたいな怖い顔をしている。



…でも現役のときは物凄くかっこよかった!

女性を軽々リフトしていたし

バレエで身に着けた基礎がとても美しく

女性よりも個性が強かったように思える。




なんで、あんな怖い顔になってしまったのかは

おじいちゃんも首をよくかしげていたなぁ…






『アンドレーエフ先生、お久しぶりです』



『ったくあいつのことを思うと無念で仕方がない。

 ユキよく頑張った』


滅多にハグをしないアンドレーエフ先生は

僕をぎゅっと包み込んだ。

おじいちゃんを悼んでくれる人はいる。

それだけで僕は救われた。



『…周りがうるさくなる前に移動するぞ』



アンドレーエフ先生はロシアでとても有名で

ロシア国内の試合で解説を担当している。

とっても毒舌だけど僕は勉強になると思って録画して

何度も見ている。


…複雑なロシア語の言い回しを覚えたのも

先生のおかげだ。






車に荷物を積んで出発した。



『…ドラゴンが亡くなったってニュースは

 こっちにも入ってきたんだが詳細が分からなくてな。

 キョウコがエアメールを送ってくれて分かった。

 お前、ジュニアに登録されなかっただろう?

 なんかあったと思ってな。

 世界選手権で探ったらよ全日本選手権のお前のデーターをくれたんだ。

 ドラゴンが亡くなったせいだと思っていたが

 どうやら、滅茶苦茶な女帝に虐げられる奴隷のようだって。』




龍三という名前のおじいちゃんは

海外の人は言いずらいらしく

愛称で親しまれてた。

杏子はおばあちゃんだ。

僕は自分のことに精一杯で

おばあちゃん、ちゃんと悲しめたのかなぁ…



全日本選手権までの短い期間

僕はあまりリンク外での記憶がない。

おばあちゃん、大丈夫かな。





車はスムーズに郊外を進んでいく。

アンドレーエフ先生の家ではなくリンクに向かっているようだ。





『…おじいちゃんに話し合うことの大切さを教えてもらったから

 クワドに関しても意見を言ったんだけど

 飛べるのに飛ばないのはおかしいって。

 曲がなければ僕も跳べたんだけど

 曲がかかるとタイミングがおかしくて跳べなくて』


あの時の泥沼のような練習がよみがえる。


『俺も見ていた。

 どうにかしてやりたくて

 映像確認をしていたらアリョーシャが曲に合わないって。

 奴はお前のジャンプの入る前で失敗を予告しよった。」



曲に合わない?

僕がきちんと聞けてなかっただろうか。

ジャンプに入る前で失敗を予告するってことは

入る前のフォームが崩れていたのだろうか。


それと、アンドレーエフ先生がアリョーシャって呼ぶのをあまり聞かないけど

誰のことだったっけ…



ロシアの愛称はかわいらしいものが多くて

聞いただけで男性か女性かわからない。

まだまだ勉強が必要だなぁって思う


僕のジャンプが跳べない理由がつかめれば

おじいちゃんを悪くいう人はいなくなるだろう。

僕が怪我をしたせいで起きてしまったのだから

僕が証明しないといけない。




おじいちゃんは素晴らしい人に変わりない







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ