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~アーバンジプシー~  作者: 石田 幸
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暗い過去

孤独を抱える女性、由貴(ゆき)の暗い過去が紐解かれていく。由貴(ゆき)の過去には一体何があったのか?

真冬の夜は幸い未だ明け切っていなかった。

祖母はまだ眠っているだろう。

私は月極めの駐車場に荒々しく車を止めると、早足で家に向かった。


当時、私の部屋は平屋の玄関のそばにあったが、夜に出掛ける時は家族に怪しまれぬよう部屋から続く細い通路を抜けて、こっそりと裏口から抜け出していた。

凍える手で半開きの裏口を音をたてないように開ける。

耳を澄ませど物音は聞こえてこない。

ほっと安堵の溜め息を吐いて素早く部屋に向かう。


私は幾度この秘密の回廊から外界へ抜け出したことだろう。


思えば、高2の夏から私は頻繁に夜になると家から出奔し、朝帰りすることを繰り返した。

その頃、私は七年間付き合った1つ歳上の男に夢中だった。

否、夢中になろうとしていた。


物心ついた時には、我が家を暗く張り詰めた空気が支配していた。

陰惨な家庭が嫌いだった。とりわけ、その淀んだ空気に汚染されることを拒んだ私は、一刻も早くこの家から抜け出そうと心に決めた。


小学生の時は、専ら読書の世界に身を置くことで、暗い現実から逃避していた。

休み時間でさえ、教室で本を広げているか、もしくは図書館に居た。固い殻に閉じ込もっている私に声をかける者は居なかった。


中学生になると、今度は一転、明るく気の置けない優等生に成り変わった。

学級委員長からコーラス部の部長、果ては生徒会副会長までを兼任した。目の回るような忙しさで帰宅が夜八時ということも度々だったが、決して苦痛ではなく、むしろ楽しかった。


-何故? 理由は明確だ。

-家に居なくていい。-

たったそれだけのこと。


但し、その為には、優等生で居続けることが自ら下した条件だった。


厳格な父親は、私に対して何を強要することもなかったけれど、無言の中に底知れない期待があった。

私は期待に応えたかった。

「私だけは元気で明るくいなければ」と何時も心の何処かで強く思っていた。その為には優等生で居続けることが必定。

勉強もした。成績は上々。しかし、いわゆるガリ勉とは違って、皆の前でおどけて見せて、教師や生徒達の好感を得ることも忘れなかった。


高校は、京都では有数の名の通った公立の進学校に進んだ。

実を言えば、家の近くにも質の良い公立高校はあったのだが、あえて電車通学しなければならない遠方のしかも新設校を選んだのは、単純に遠方であれば家庭の滞在時間が短くなるということ。

あとは知った顔の居ない場所に行きたかった。

そう、私という個を認めてくれる未知の場所へ。


-完璧だ、と思った。

しかし、何処に完璧な人間など存在するだろうか?


完璧であることは、常に破壊と隣り合わせ。

車のハンドルに「あそび」の部分がないと、ハンドリングが上手くいかないように、人間にも「あそび」の部分がなければ、いつかは壊れてしまう。


私の完璧の容量は、いつの間にかいっぱいになり、限界量を越えた水風船の如く、パチンと割れてしまった。


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