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~アーバンジプシー~  作者: 石田 幸
3/7

真夜中のデート

孤独から逃避すべく真夜中を彷徨(さまよ)由貴(ゆき)が出逢った少年、(たまき)

二人は夜の闇に繰り出すが…。

正面からゲーム機を見据え、ボタンを乱打する(たまき)の手元の銃口からおびただしい数の蛍光色のボールがポンポン飛び出す。

そのボールは、綺麗な弧を描いて、正確に小さな(ホール)へと吸い込まれていく。

「スゴーイ!」

思わず感嘆の声が漏れるのを止めることができなくて、私はキラキラ光るゲームブースに見とれた。


いつの間にか、好奇心に勝てない(たまき)の仲間の少年が二人、横でふて腐れたようにゲーム機に両肘(りょうひじ)を付いて、事の成り行きを見守っていた。


得点が(またた)く間にカウントされ、あっという間に最高得点をマークすると、けたたましい音楽と共にゲームは終了した。

(たまき)は、景品取り出し口からぬいぐるみを取り出すと、無言で私の手に差し出した。

「かわいい!ありがとう。」

愛くるしい顔をしたペンギンのぬいぐるみだった。

束の間、嫌なことが全部リセットされた気分になり、純粋に心の中が(あたた)かくなるのを感じて、私はうっとりしてしまっていた。

が、目前に所在なげに(たたず)(たまき)を見て、ハッと我に返った。


私の口は迷わず次の言葉を発していた。

「ね、お礼がしたいから、一緒にどこか行こうよ。何かご馳走しなきゃ私の気がすまないもん。ね?」

「あ、俺、バイクが…。」

今までの大人びた様子が嘘のように、(たまき)の顔は上気し、悪戯(いたずら)(とが)められた男の子の表情が浮かぶ。

(「かわいい」)

「私、車だから。じゃあ駐車場で待ってるね。」

私は先程の尊大な女王様の足取りで、車のキーをチャリンと鳴らして指で回し、駐車場に向かった。


十分ほど待っただろうか。


私は愛車の緑のミニカトッポの中でぼんやりと夜の闇に浮かぶ電飾を眺めていた。


夜は落ち着く。夜は私の孤独を飲み込んでくれる。ささくれだった心を癒してくれる。


コンコン。


ふと我に返ると、白く曇った窓ガラスの外に寒そうに肩をすくめた(たまき)が立っていた。


慌ててパワーウィンドウを全開にする。


「あれ?一人?」

今までの経験上、当然、(たまき)の仲間の少年達も就いてくるだろうと思い込んでいた私は少しばかり驚いた。

「友達は?いいの?」

と尋ねると

「あいつら帰った。」

と、ぶっきらぼうに答える。

「ふーん。じゃ乗って。何処(どこ)行こうか?」

助手席に乗り込んだ(たまき)は随分と寡黙(かもく)である。

「私、この辺詳しくないしなぁ。どこか知ってる?何か(あたた)かいものが飲みたいな。」


ともかく車を発進させて、国道に出る。

車が走り出してようやく(たまき)が口を開いた。

「もうちょっと行ったところに、すかいらーくがあるけど。」

「じゃ、そこ行こ。ナビお願いね!」


すかいらーくはすぐ見つかった。

真夜中だというのに、店内は不必要なぐらい明るく、若者の喧騒(けんそう)で渦巻いていた。


「いらっしゃいませ。お二人様ですか?禁煙席、喫煙席、どちらになさいますか?」

変に声高なウェイトレスに私が答える前に(たまき)がぼそりと(つぶや)いた。


「喫煙で。」


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